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身体がフワフワして、心地いい。


わたしは、空を飛んでいるの?
それとも、海に浮いているのかな。


…どっちでもいいや。

ずっとこのまま浸っていられるなら、わたしは…………




「…………な……」



…………………?

どこからか、わたしの頭の中で声が聞こえてきた。


目は閉じているのか、視界は真っ暗で何も見えない。



「…まな………
僕の…まな…」



声が、だんだんと鮮明に聞こえてきた。


まな?
まなって誰?

わたしは、ひとみだよ。


だけど声の主にはわからないのか、わたしを“まな”と呼び続けた。



「僕の、まな……。
ずっと…愛してる」




「───────!!」



最後に唇に感じた柔らかい感触に、わたしの意識はそこで途絶えた。


だけどそれはまるで、キスのような…………?





「────────…」



「…ひとみ!
よかった、目が覚めたんだなっ」



「お兄…ちゃん?」



ゆっくりと開いた瞳に映ったのは、まだ視界がぼんやりするお兄ちゃんの顔。


だけどわたしの顔を見た途端、バタバタと部屋を出て行った。



「父さん、母さん!
ひとみが目を覚ましたよ!」



「…………………」



それと、唇に残ってるこの柔らかい感触。

これ、まさかお兄ちゃんが……?




上体を起こしてキョロキョロと辺りを見回すと、そこはわたしの部屋で、わたしはベッドで寝ていたようだった。


窓のカーテンは閉まっているけど、その隙間からはサンサンと朝陽が射し込んでいた。



…朝が来たから、起きただけだよね。

お兄ちゃん、どうしてあんなに慌てて駆けって行ったんだろう。



だけどそれは、自分の着ている服を見てようやく思い出した。



「制服……………っ」



ベッドで寝ていたと言うのに、わたしはパジャマではなく制服のままだったのだ。


つまりそれは、昨夜は普通に眠りについたわけじゃないと言う事。

そして────…



──そうだ、写真!!



昨夜の事を思い出したわたしは、すぐにポケットにねじ込んだ写真を確かめようと手を入れた。



「(……………あった!)」



雑に急いで入れてしまったから、クシャリと音を立てながら手に触れた写真の感触。


間違いない。
わたしは昨夜、隣の空き家に行って、この写真を持って帰ったんだ。


知らない家族と写る、お父さんの写真を……



「ひとみっ」


「ひとみ、目を覚ましたって本当かい?」



「っ!!」



わたしは取り出しかけた写真を、再びポケットの奥にとねじ込んだ。




「お母さん。…お父さん」



2人ともベッドで身体を起こしているわたしを見て、ホッと安心したように顔を綻ばせた。


そうだった。わたしってば、昨夜は隣の家の庭で頭痛と動悸がして、そのまま……。



「佐伯先生がね、ひとみをここまで運んできてくれたのよ」



「佐伯先生が?」



「そう。ヒロキが倒れてるひとみを、佐伯先生のとこまで連れて行ってくれたのよ。
2人共、ひとみの命の恩人ね」



「お兄ちゃん…」



お母さんの説明に、後ろにいたお兄ちゃんはプイッとソッポを向いた。


お兄ちゃんったら、照れてるのかなぁ?



だけど佐伯先生がわざわざ、わたしをここまで連れてきてくれたなんて。

ただの一患者に、そこまでしてくれたんだぁ。



「…はぁ。
とにかく、ひとみの顔を見る事ができて良かったわ」



「そうだな。俺も安心して仕事に行けそうだ」



お父さんはそう言うと、お母さんと向き合ってスーツのボタンをとめた。

この時間、そろそろお父さんも会社に向かう頃だっけ。



「ひとみ、今日は無理しないで、よく休むといいよ」



「そうね。
学校も、今日はお休みした方がいいわね」



そう言ってお父さんは一度わたしの頭を撫でてくれると、仕事に行く為に部屋を出、お母さんも見送る為に一緒に出た。




そうして部屋には、わたしとお兄ちゃんだけが残った。



「お兄ちゃん、あの…ありがとう。ごめんなさい…」



未だソッポを向いているお兄ちゃんに、わたしは申し訳なさそうに言った。


あれだけ止められたのに、わたしの勝手な行動のせいでこんな事になっちゃったんだもんね。

もしかしたら、今度こそ怒ってるのかもしれない。

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