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9(ヒロキサイド)

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それから更に1週間が過ぎようとした頃。

オレたち家族は、病院から2人の経過を聞いた。



まずまな姉ちゃんの容態は、このまま目を覚ます事なく眠り続けて生きていく可能性が高いという事。


呼吸も浅かったようで、今では人工呼吸器っていう奴を喉につけている。


ようやく婚約したって話だったのに、信じられない事実だ。


…そういえばまな姉ちゃんの婚約者ってのは、一緒じゃなかったのか…?


同じ車で事故にあったのなら同じ病院に運ばれる筈なのに、そんな話は全くなかった。


もしかしたら予定が変わって、家族4人でのひとみの入学祝い旅行になったのかもしれないな。




代わってひとみの方は、身体は順調に回復してきた。


もともと軽い傷を負ったくらいだったので、命に関しては大事には至らなかったようだ。



しかし──────…




『記憶が…ない?』



病院からの説明にオレたち家族は皆、お互いの顔を見合っていた。



『名前も、住所も、家族の事も。
ひとみさんは、今に至るまでの記憶が一切なくなっているんです』



『……………………っ』



身体は大きな傷を負う事なく、無事だったひとみ。


だけどその代償と呼ぶべきかわからないが、代わりにたくさんのものを失ってしまったんだ…!




『ひとみ……?
それが、わたしの名前?』



『あぁ、そうだよ。
こっちが母さんで、こっちが父さん。
それから、オレが兄のヒロキ』



『ヒロキ…お兄ちゃん…?』




家族と話し合った結果、ひとみとまな姉ちゃんはオレたち家族で面倒をみる事になった。


それだけじゃない、オレたちの家族として迎え入れたんだ。




『お父さんに……
お母さん…?』



『そうよ、ひとみ。
無理しないで、ゆっくり思い出したらいいからね』



ひとみの記憶喪失はヒドいもので、オレたちの顔を見ても名前を聞いても思い出す事はなかった。


だけどオレたちはそれを逆手に取り、自分の両親を失った悲しみを味わわせる事なく、ひとみに普通の人生を歩ませる事にしたんだ。








─────────
     ──────
        ───




「もぅ、お兄ちゃんったら!」



それから1年半。


ひとみはすっかり、自然とオレたち家族の一員として馴染んでいた。



まな姉ちゃんは相変わらず意識を取り戻さないまま、今もあの総合病院に入院している。

もちろんひとみには、まな姉ちゃんの存在など知らないままなのだが。




身体には何一つ後遺症もなく元気に過ごしているひとみなんだけど、やはり記憶の関係か、時折頭痛や不安感を訴える事はあった。


その為に近くの精神病院にずっと通っているのだが、そこから出される薬と治療で今も普通に過ごす事ができているんだ。




──このままずっと、一緒にいたい。




いとこ同士だって、結婚は可能だ。

後ろめたい気持ちは否定できないけど、でも正直に想いを告白しようと思っていた。


なのに今や兄妹という関係になってしまった以上、その気持ちは永遠に胸の内にしまっておく事にした。



「オレが…オレがひとみをずっと守っていくから。
だから、ひとみは何も心配するなよ」




このままずっと一緒にいるという事には、変わらないんだ。

ひとみを守っていけるなら、一生兄妹のままでもいい。



だからオレは、そう思っているんだ。





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