デ キ ちゃ っ た !?

むらさ樹

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この土日、まるで現実を忘れるかのようにオレはバイトに励んだ。


何にしても、まずは病院に行ってホントの診断を聞かなくちゃならない。
悩んだって仕方ないじゃないか。


由香とは別れる気はない。

もしホントに由香が妊娠してたとしても、オレの中じゃあ答えは決まってるんだ。


それで由香には何て言われるかわからないけどな。
もしかしたら、ヒドく泣かれて罵られるかもしれない。


だけど、悪かったって思ってるよ。


だから…

その為の手術代稼ぐんだから、せめてオレはバイトに励むしかないじゃんよ!





そして休日を挟んだ月曜日。
いつも通り学校に行き、教室に入った。


「…陸」

机にカバンを置いた時、後ろからオレに声をかけたのは由香だった。


「お、おはよ」

由香とは、土曜日の朝アパートで別れた以来だ。

今まで学校で見せた明るい笑顔とは違って、何だかちょっと控えめな感じがあの現実を思い起こさせる。


「具合…どう?」

「うん、何ともない…」


病気じゃないんだから具合って言うのは変かもしれないけど、何となくそんな風に訊いてしまった。


「陸、病院…」

「…わかってるよ。
金曜日…学校終わったら行けるから」

「…うん!」


ホントは今日でも明日でも、頼めば休みは取れたんだけど。

オレも心の準備って言うか…もう少しだけ診断を聞くまでに時間が欲しかったので、遅めの日に休みを取った。

そんな事したって、現実は変わらないんだけどな。



放課後もサークル活動とかあるけど、オレはそんなのにも入っていない。

基本学校が終われば毎日バイトに明け暮れているオレ。
カバンを持つとそのままバイト先へ直行し、終わったらアパートへ直帰している。


で、由香が泊まれそうな日はバイトが終わる時間に来てもらって一緒にアパートに帰ってるんだけど。




「いらっしゃいま…あれ?
由香ちゃん、陸に会いに来たの?」


夜はいつものファミレスのバイトを入れているのだが、由香は金曜日までの間、毎日のように来ていた。


晩ご飯のピークも過ぎた20時頃、決まってドリンクバーを頼んでは1人でポツンと座っているのだ。



「由香!どうしたんだよ。
今日、泊まれる日?
オレ終わるの9時だからまだ上がれねぇよ?」


来客数も少なくヒマな時間帯なので、オレは1人でテーブルに着く由香の所に行って声をかけた。

相変わらずいつものホットココアを入れては、チビチビと口に運んでいる由香。

そんな飲み方じゃ、モトが取れないぞ!
…って、違うか。



「あ…陸。
今日は帰らなきゃいけないんだけどね。
ちょっとだけでも陸の側にいたかったから、それで…」

「あぁ、そう…」

「仕事の邪魔かな…」

「そんな事はないけどさ。
でもオレも、仕事中だからあんまり側にはいられないぞ」

「うん、いいの。
もうちょっとしたら、帰るから」


…以前はこんなに毎日来たりとかなかったのにな。



――『あたしの友達…妊娠がキッカケで彼氏に捨てられたって聞いたから…っ』


きっと由香は、オレに捨てられるってまだ不安になってるんだ。


出来るなら今すぐにでも抱きしめて、由香を安心させてあげたい。

だけど、いずれ由香にはツラい選択をさせなければならないかと思うと、今のオレには後ろめたい気持ちでいっぱいな為、それすらもしてあげられなかった。



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