3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹

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テレビに映し出された時計は、5:17


夕方のニュースがちらほらある時間だ。



テレビだって久し振り。

食べながらチャンネルをまわして良い番組がないかさがしてみた。



すると、目を疑う画面が映し出されていて、チャンネルをまわす手が止まった。



それは銀行強盗のあった、あの現場の監視カメラ映像だった。



あの事件のニュースのようだったが、新しい情報が入ったって事だ。



『2人組の犯人のうち、1人の素顔が判明』


そう画面の右端に書かれた映像に、監視カメラ映像が映されていたのだ。


顔を下に向けた私の首元に腕をまわし拳銃を頭に突き付けた強盗さん。


つけていたマスクもサングラスもしていない、正にあの時だった。


銀行員やお客さんに背を向けるような位置だったから、強盗さんの素顔は私しか見ていないと思っていたけど…カメラの方で映っていたんだ!


カメラは汚い画像だったけど、多分相当な機械処理をされたんだろう強盗さんの素顔は綺麗すぎるくらいクリアな画像で、はっきりと強盗さんの顔がテレビに映っていたわけだ。



これで…私しか知らないハズだった強盗さんの素顔が世間に知られてしまったって事だ…!



私の横でスウスウと優しい寝息をたてている強盗さん。


多分、自分の顔が世間にバレちゃったなんて正に夢にも思ってもないよね。


警察からは逃げてやるって笑って言ってたけど…世間に顔が知られちゃったら、そうも難しくなっちゃったよ!

どうするの!?



「……………」



やっぱり、ここでかくまうしかない。

強盗さんを助けようと思うなら、私も人質って事は言わないままにして内緒で強盗さんと暮らすしかないよね。


もしそれもバレちゃったら…私の人生だっておしまい…?



うん、いいの。

強盗さんが捕まっちゃう事を考えたら、まだその方がマシ。

結局お金だって1円も貰ってないんだし、人質の私がいいって言ってるんだから…強盗さんの罪なんて大した事ないよね。


だから…大丈夫。

強盗さんの事は、私が守ってあげるよ。



『犯人は未だに逃走を続けていて、人質の身柄も未だ保護出来ず…』


テレビからニュースはまだ流れていたけど、私はリモコンのボタンを押してチャンネルを変え、残りの野菜ラーメンを一気に平らげた。







食べ終わった丼を片付けて、洗濯が終わった強盗さんの服を部屋の中に干した。


外には干せないもんね。
て言うか、男性用の服とか買っておかなきゃいけないな。


サイズとか強盗さんに訊いとかなきゃ。



「ん?」



干す時にGパンのポケットからカギが2つ出て来たので、テーブルに置いておいた。

南の車のカギと、あのスペアキー…だと思う。




…そうだ、仕事どうしよう。


とりあえず私はもう帰ってきたんだし、人質って事は隠さなきゃなんだから、仕事にも行かなきゃだよね。


初日から風邪で休んでるわけだし、とりあえず本屋さんの所に電話しなきゃ…!



私はショルダーバッグに入れっぱなしになってるケータイを取り出した。

ピッと開いて着信などなかったか画面を見たけど、真っ黒なままだった。



「あれ、壊れちゃった!?」



ボタンをカチカチ押してみたけど、全く変化がない。


…あ、そうか。
電池なくなったのかも。

何日も充電してないもんね。
そりゃ電池切れおこしちゃうよ。



充電器につないで電源ボタンを押すと、案の定画面はついた。
ふぅ、よかった。


充電を始めケータイに電気が送られ始めた途端、画面が変わり電話の着信音が鳴りだした。



…♪♪♪ ♪♪…



「わゎっ」



慌てて通話ボタンを押してすぐに強盗さんの方を振り返ったけど、目を覚ました様子もなくまだ寝ていた。


…ほっ。


改めてケータイに耳をあてて電話に出た。

途端…



『もしもし優!居るの?聞こえてる?』



デカい声で叫ぶ電話の向こうの主はお母さんだった。



「お母さん…。聞こえすぎて耳が痛いよぉ」



『耳が痛いじゃないわよ!
ここんところ電話もしてこない、こっちがかけても通じない。
あんた一体どうなってんの!?』



電話が通じない?
あそっか、山では圏外になったり電波薄かったり、今まで電池も切れてたもんね。


お母さん、私のケータイに電話かけたりしてたんだ。


「ごめんなさい。
あの、ケータイ壊れちゃって、修理に出してたから使えなくって…」



もちろん大ウソ。
だって本当の事は言えないもん。



『あっそう。
それで?仕事の方はどうなの?
ちゃんとこなしてる?』


仕事なんてまだ行ってない上に、本屋さんに勤める事になってるなんて夢にも思ってないだろうな。



『最近銀行で強盗事件あったらしいじゃない?
あんたんとこは無事で良かったわね。気を付けなさいよ!』



ニュースで場所とかも聞いたろうに、まだ他人ごとだと思っているのね…。

自分の娘がその人質になってたとか、まさか思わないだろう。


ま、その方が都合いいんだけど。



「…うん、…うん、大丈夫だから。
…うん、わかったよ。
また電話するから、うん、じゃあねお母さん」



…色々お小言言われてようやく解放された。



「…ふぅ」



ゴメンね、お母さん。
私…強盗犯をかくまってる悪い子なんだよ…。




ケータイを閉じると、寝ている強盗さんの方を見た。



私…間違ってるのかな。


だけど…こんなにも好きになっちゃったんだもん。
やっぱり一緒に居たい。


ズコズコと膝で歩きながら強盗さんの側まで近寄ってその顔を覗き込んだ。



…優しい寝顔。


無精ひげが伸びちゃって、スゴいおじさんみたい。

だけど、好きでたまらない。




…私はそっと強盗さんの顔に近付き、息をひそめ目を閉じた。




それから…ゆっくり ゆっくり近付いて…

強盗さんと唇を…重ねた。





「………………」




ん…ちょっぴりタバコ臭い、強盗さんの匂い。


それから唇を離してそっと目を開けると、強盗さんは…




目を開けて私を見ていた。




「う、ひゃあぁぁっ!!」




驚いた勢いで、思わずズササーっと1メートルくらい後ずさった。




「…自分でヤっといて何ビビってんだよ」



バレてる!!

バレてる!!



私がキスしちゃったの強盗さんにバレちゃってるよぉ!!



強盗さんはくるまった毛布から上半身を出したまま起き上がった。



「…すげぇなお前。
寝てる男を襲う女なんて、なかなかいねぇぞ」



「あ…っ いや…っ その…っ
そんなつもりじゃ…っ」



顔を真っ赤にしながら弁明しようにも、だからってどんなつもりなのかなんて説明出来ないっ。


でも襲うだなんて、そんなんじゃあ…っ




「お前…そんなに俺が好きなのか?」



強盗さんに訊かれ、顔を真っ赤にしながら勢いよくうんうんと何度も頷く。



「俺はお前を誘拐して監禁生活させただけだぞ?」



「…違うよっ。
最初は怖かったけど、強盗さんはとっても優しかったもん…!」



「…襲ったりもしたぞ…」



「でも、やめてくれたもん!」



「………………」



「……………っ」



自分でも、誘拐犯を好きになった事には驚いてる。


だけど、誘拐されたからこそ好きになれた事実には変わりないんだから!

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