3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹

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「………………」



車が赤信号で止まっている今が降りるタイミング。

…なのはわかってる。


でも、身体が動こうとしない。



「オイ。
早くしねぇと青になっちまうぞ!」



「………………」



帰りたい。

だけど、強盗さんとは離れたくない。


どうしたらいいの…。



私がグズグズしていると、やがて信号は青になり車は発進せざるを得なくなってしまった。



「…にやってんだよ。
まさか家の前まで送れってんじゃないだろうな」



「そういうわけじゃ…ないんだけど…」




「次信号で止まったら降りろよ。
ついこの間強盗に入った銀行の前までなんか行きたくねぇのはわかってんだろ。
…ある意味行って見てみてぇけどな。
ヤバくなったら、またこのまま逃走するぞ?」



事件の後、あの銀行が今どうなっているかは知らない。


それは私もちょっと気になる。


…て、それが見たくて降りなかったわけじゃないんだけど。


車道をまっすぐ走ると、懐かしいうちの本屋さんのでっかい『本』の字が見えてきた。


もう、これ以上この車に乗ってられない!


私はここで、強盗さんとお別れしなきゃいけないんだ。




「お、やっと赤になったな。
じゃあここで降りろよ」



あの銀行のある200メートル手前の交差点に来た。


運良くずっと信号で止まる事はなかったのに、こんな所でとうとう赤信号につかまってしまった。



「ご 強盗さん……」



「何だよ?」



「よかったら…うちに居ない?」



「………………は?」




ずっとフロントを見ていた強盗さんも、私の発言に理解が出来ないみたいでさすがに振り向いた。



「ずっと…逃げ回る生活するんでしょ?
だったら、うちのアパートに居たらいいよ。
うちには、私しかいないから…」



「何言ってんだお前。
俺は強盗犯でお前は人質だったんだぞ?」



「だってほらさ、人質の私が強盗さんの事を通報しちゃうかもしれないよ。
それでもいいの?」


…もっともらしい事を言ってみた。

強盗さんを本気で警察に突き出す気なんて、私にはないかもしれないのに。



「はっ、通報ね。したきゃしてみろよ。
俺は絶対捕まったりしねーよ」



そう言って強盗さんは口角を上げニヤリと余裕の笑みで私を見返した。


違う。本当に通報する気なんてない。


ただ私は…強盗さんと別れたくないだけ…!



「ほら、早くしねぇとまた青になっちまうだろ」



「いや!降りない!」



「はぁ?」



「いやよ!
だって降りたらもう強盗さんと会えなくなるんだもん!!」



…何を言ってるの、私。

会えなくて当たり前なのに。


強盗さんは銀行強盗をして尚且つ私を誘拐までした犯罪者。



一緒に居ていいわけがないじゃない。


でも…!



「強盗さんとずっと一緒に居たいの!
だって私、強盗さんの事…好き、みたいだから……!」



信号で止まっていた前の車が、発進しだした。


いつの間にか信号が青になっていたんだ。



だけど、お互いの顔を見ていた私たちは後ろの車のクラクションが鳴るまで、信号が変わった事には気が付かなかった。



「うち…この近くなの。
車、大丈夫だから来てよ。
お腹空いたよね。私何か作るから、一緒に食べよ」



「……………正気か?」



「もちろんよ!」



しばらく沈黙が続いた車内。

もうすぐうちのアパートに続く交差点に差し掛かる。



「そこ、左折してまっすぐがうちのアパートなの」



「………左折な」



強盗さんは私の指示する通り、ウインカーを左に出し左折した。



…強盗さん…。



左折した先の道を2~3分走ると、越したばっかりの私の住むアパートが見えてきた。




「あれだよ。あのアパートがそう。
車はすぐ前に置けるから…」



2階建て四世帯の小さなアパート。

私が住むのは、その1階の向かって左側の部屋。


その正面に、1部屋1台だけ置ける駐車スペースがあるのだ。

強盗さんは私の指示した場所に、車を停めてくれた。


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