3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹

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身体の上に長身の強盗さんに乗られ、私の抵抗は全く意味をなさなかった。



小柄な私からすれば長身な強盗さんは巨人のようにも見える。


生まれて一度だって誰からも乱暴な目には遭った事がないもん。
身体に乗られただけで、怖くて涙がどんどん溢れてくる。



床に付いた頭を何度も振り抵抗を示したけど、これもきっと無意味なんだろうな…。








―――ふと、強盗さんの動きが止まった。


恐くてギュッとつむっていた目を開けて、私は上に乗る強盗さんの顔を見た。



「……………っ」



私の顔を見て、まるでいたたまれないとでも言ったような表情をしていた。


当の私は涙で顔をぐしゃぐしゃに汚し、髪は床に擦れて乱れ砂汚れさえ付着している。



そんな私を見て、強盗さんはゆっくり私の上から退いたのだ…。



え、それって…
やめてくれた……て事?



私の身体から退いた強盗さんは、床に落としたシャツを拾い上げて着た。

ベルトや上着も同様に自分の身体に身に付け直すと、今度はズボンの脚ポケットからナイフのような刃物を取り出した。


それを持って未だ乱れた頭のまま床に寝てる私の前まで来ると、両足首に巻いたロープをザクッと切った。



「…強盗さん…?」



「逃げたきゃ今のうちだぜ。
俺の気が変わらないうちにさっさと消えちまいな」



クルリときびすを返すと強盗さんは小屋の奥に入り、ドカッと床に座り込んだ。



「強盗さんは…どうするの?」



「さぁな。
お前の知った事じゃねぇよ」



つけっぱなしのラジオを手に取り、強盗さんはアンテナをいじって電波の受信を調整した。



私は…ようやく解放された両足首をさすると、乱れた髪を手で戻ながら立ち上がった。



そしてそのまま小屋を離れ、山道を下りる為歩き出した。




途中、何度も何度も後ろを見ながら。





だけどやっと、逃げる事が出来る…!


ようやく人質から解放され、身も心も足取りも軽くなった!
…筈なんだけど。



何だろう。
心の中は複雑な気分だった。



拉致されて監禁されて暴行までされ…かけて、立派に私は被害者だよね。


だけど…。

…まるで、強盗さんも被害者みたい。


信じてた仲間に裏切られるって、どんな気持ちなのかな。



「強盗さん…」



最初に縛られていた腕をさすった。

手が利かないって言ったらロープを外してくれた。

喉が渇いたって言ったらお水をくれた。

やめてって言ったら…やめてくれた。


…そんな人を、凶悪な強盗犯誘拐犯と一括りに呼んでいいのかな。





木ばかりの山道をデタラメに歩く。

空は…さっきまで晴れていたのに、今は私の心みたいにどんより雲に覆われ曇っていた。











山道を結構歩いた。





だけど、こっちが帰路に繋がってるという保証も確信もない。


1人で知らない山道を歩いて無事に帰れるのかな。



「……………」



小屋に1人残った強盗さん。

これから、どうするんだろ。


あんなお風呂もトイレもないような所、私だったらこれ以上は絶対無理!


しかも1人でだよね。


罪だけ被ってあんな寂しい所に誰も信頼できる人もいなくて1人でいるなんて…。



…今頃、何してるかな。


ちょっと、様子を見てこようかな。


私は今来た道をクルリと方向転換した。



その時、


ポツ ポツ と、雨が木の葉を縫って降ってきた。



「ウソ!?
こんな屋根も傘もない所で?」



朝はあんなに晴れていたのに、今じゃあ雨雲が空一面を覆ってる。

このままじゃあ、もっとヒドい雨が降っちゃうよぉ!



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