18 / 62
⑤
しおりを挟む
身体の上に長身の強盗さんに乗られ、私の抵抗は全く意味をなさなかった。
小柄な私からすれば長身な強盗さんは巨人のようにも見える。
生まれて一度だって誰からも乱暴な目には遭った事がないもん。
身体に乗られただけで、怖くて涙がどんどん溢れてくる。
床に付いた頭を何度も振り抵抗を示したけど、これもきっと無意味なんだろうな…。
―――ふと、強盗さんの動きが止まった。
恐くてギュッとつむっていた目を開けて、私は上に乗る強盗さんの顔を見た。
「……………っ」
私の顔を見て、まるでいたたまれないとでも言ったような表情をしていた。
当の私は涙で顔をぐしゃぐしゃに汚し、髪は床に擦れて乱れ砂汚れさえ付着している。
そんな私を見て、強盗さんはゆっくり私の上から退いたのだ…。
え、それって…
やめてくれた……て事?
私の身体から退いた強盗さんは、床に落としたシャツを拾い上げて着た。
ベルトや上着も同様に自分の身体に身に付け直すと、今度はズボンの脚ポケットからナイフのような刃物を取り出した。
それを持って未だ乱れた頭のまま床に寝てる私の前まで来ると、両足首に巻いたロープをザクッと切った。
「…強盗さん…?」
「逃げたきゃ今のうちだぜ。
俺の気が変わらないうちにさっさと消えちまいな」
クルリときびすを返すと強盗さんは小屋の奥に入り、ドカッと床に座り込んだ。
「強盗さんは…どうするの?」
「さぁな。
お前の知った事じゃねぇよ」
つけっぱなしのラジオを手に取り、強盗さんはアンテナをいじって電波の受信を調整した。
私は…ようやく解放された両足首をさすると、乱れた髪を手で戻ながら立ち上がった。
そしてそのまま小屋を離れ、山道を下りる為歩き出した。
途中、何度も何度も後ろを見ながら。
だけどやっと、逃げる事が出来る…!
ようやく人質から解放され、身も心も足取りも軽くなった!
…筈なんだけど。
何だろう。
心の中は複雑な気分だった。
拉致されて監禁されて暴行までされ…かけて、立派に私は被害者だよね。
だけど…。
…まるで、強盗さんも被害者みたい。
信じてた仲間に裏切られるって、どんな気持ちなのかな。
「強盗さん…」
最初に縛られていた腕をさすった。
手が利かないって言ったらロープを外してくれた。
喉が渇いたって言ったらお水をくれた。
やめてって言ったら…やめてくれた。
…そんな人を、凶悪な強盗犯誘拐犯と一括りに呼んでいいのかな。
木ばかりの山道をデタラメに歩く。
空は…さっきまで晴れていたのに、今は私の心みたいにどんより雲に覆われ曇っていた。
山道を結構歩いた。
だけど、こっちが帰路に繋がってるという保証も確信もない。
1人で知らない山道を歩いて無事に帰れるのかな。
「……………」
小屋に1人残った強盗さん。
これから、どうするんだろ。
あんなお風呂もトイレもないような所、私だったらこれ以上は絶対無理!
しかも1人でだよね。
罪だけ被ってあんな寂しい所に誰も信頼できる人もいなくて1人でいるなんて…。
…今頃、何してるかな。
ちょっと、様子を見てこようかな。
私は今来た道をクルリと方向転換した。
その時、
ポツ ポツ と、雨が木の葉を縫って降ってきた。
「ウソ!?
こんな屋根も傘もない所で?」
朝はあんなに晴れていたのに、今じゃあ雨雲が空一面を覆ってる。
このままじゃあ、もっとヒドい雨が降っちゃうよぉ!
小柄な私からすれば長身な強盗さんは巨人のようにも見える。
生まれて一度だって誰からも乱暴な目には遭った事がないもん。
身体に乗られただけで、怖くて涙がどんどん溢れてくる。
床に付いた頭を何度も振り抵抗を示したけど、これもきっと無意味なんだろうな…。
―――ふと、強盗さんの動きが止まった。
恐くてギュッとつむっていた目を開けて、私は上に乗る強盗さんの顔を見た。
「……………っ」
私の顔を見て、まるでいたたまれないとでも言ったような表情をしていた。
当の私は涙で顔をぐしゃぐしゃに汚し、髪は床に擦れて乱れ砂汚れさえ付着している。
そんな私を見て、強盗さんはゆっくり私の上から退いたのだ…。
え、それって…
やめてくれた……て事?
私の身体から退いた強盗さんは、床に落としたシャツを拾い上げて着た。
ベルトや上着も同様に自分の身体に身に付け直すと、今度はズボンの脚ポケットからナイフのような刃物を取り出した。
それを持って未だ乱れた頭のまま床に寝てる私の前まで来ると、両足首に巻いたロープをザクッと切った。
「…強盗さん…?」
「逃げたきゃ今のうちだぜ。
俺の気が変わらないうちにさっさと消えちまいな」
クルリときびすを返すと強盗さんは小屋の奥に入り、ドカッと床に座り込んだ。
「強盗さんは…どうするの?」
「さぁな。
お前の知った事じゃねぇよ」
つけっぱなしのラジオを手に取り、強盗さんはアンテナをいじって電波の受信を調整した。
私は…ようやく解放された両足首をさすると、乱れた髪を手で戻ながら立ち上がった。
そしてそのまま小屋を離れ、山道を下りる為歩き出した。
途中、何度も何度も後ろを見ながら。
だけどやっと、逃げる事が出来る…!
ようやく人質から解放され、身も心も足取りも軽くなった!
…筈なんだけど。
何だろう。
心の中は複雑な気分だった。
拉致されて監禁されて暴行までされ…かけて、立派に私は被害者だよね。
だけど…。
…まるで、強盗さんも被害者みたい。
信じてた仲間に裏切られるって、どんな気持ちなのかな。
「強盗さん…」
最初に縛られていた腕をさすった。
手が利かないって言ったらロープを外してくれた。
喉が渇いたって言ったらお水をくれた。
やめてって言ったら…やめてくれた。
…そんな人を、凶悪な強盗犯誘拐犯と一括りに呼んでいいのかな。
木ばかりの山道をデタラメに歩く。
空は…さっきまで晴れていたのに、今は私の心みたいにどんより雲に覆われ曇っていた。
山道を結構歩いた。
だけど、こっちが帰路に繋がってるという保証も確信もない。
1人で知らない山道を歩いて無事に帰れるのかな。
「……………」
小屋に1人残った強盗さん。
これから、どうするんだろ。
あんなお風呂もトイレもないような所、私だったらこれ以上は絶対無理!
しかも1人でだよね。
罪だけ被ってあんな寂しい所に誰も信頼できる人もいなくて1人でいるなんて…。
…今頃、何してるかな。
ちょっと、様子を見てこようかな。
私は今来た道をクルリと方向転換した。
その時、
ポツ ポツ と、雨が木の葉を縫って降ってきた。
「ウソ!?
こんな屋根も傘もない所で?」
朝はあんなに晴れていたのに、今じゃあ雨雲が空一面を覆ってる。
このままじゃあ、もっとヒドい雨が降っちゃうよぉ!
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!
むらさ樹
恋愛
お父さんの借金のせいで、あたしは人質として連れて行かれちゃった!?
だけど住み込みでメイドとして働く事になった先は、クラスメイトの気になる男の子の大豪邸
「お前はオレのペットなんだ。
オレの事はご主人様と呼べよな」
ペット!?
そんなの聞いてないよぉ!!
「いいか?
学校じゃご主人様なんて呼ぶなよ。
お前がオレのペットなのは、ふたりだけの秘密なんだからな」
誰も知らない、あたしと理央クンだけのヒミツの関係……!
「こっち、来いよ。
ご主人様の命令は、絶対だろ?」
学校では、クールで一匹狼な理央クン
でもここでは、全然雰囲気が違うの
「抱かせろよ。
お前はオレのペットなんだから、拒む権利ないんだからな」
初めて見る理央クンに、どんどん惹かれていく
ペットでも、構わない
理央クン、すき_____

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる