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銀行のドアを出ると外はいつもと変わらない様子で、さっき入ってきた時と同じだった。
銀行内ではとてつもなく緊張に縛られていたってのに、外じゃそんな様子は微塵もなく平和そうだった。
「さっさと走れ!
モタモタするな!!」
「お願い、離して…っ」
喉から絞ってようやく出たか細い声で、私は目の前の強盗犯にダメ元で懇願した。
「お前には顔を見られたからなっ
しかも俺のマスクをいつまでも握り締めやがって!」
「え…?」
引っ張られながら自分の手を見てみると、しっかりと強盗犯のマスクを握っていた。
突き放された時にとっさに手に当たり、反動で握り締めてしまってたんだ。
もしかして握り締めてなかったら私、助かってたりした…?
私と強盗犯は、駐車場に停めていた白い軽のワゴン車に向かった。
エンジンをつけたまま運転手が待っていたようで、車はすぐに動き出した。
私を掴んだ強盗犯は後部座席のドアを開けると、私を突き飛ばすように押し込む。
「さっさと奥に行け!」
「おい、行くぞ!!」
中の運転手がそう言うと、ハンドルを切り一気にアクセルを踏んだ。
「きゃっ」
その勢いに私は遠心力で車の奥に滑り込み、走り出した車のドアを閉めながら強盗犯も中に乗り込んだ。
車道に入ると、信号にも引っかからず真っ直ぐに車は走った。
すぐに起き上がって窓の外を見ると既に車はずいぶん走っていて、銀行の隣にある本屋さんの『本』のデカい看板が小さく見えた。
そのままどんどん距離を離し、やがて『本』の字は見えなくなってしまった。
えぇー……私…私…
どこに連れて行かれるのー!?
しばらく車内では沈黙が続き、4~5分経った頃にようやく運転手の方の強盗犯が口を開いてその沈黙を破った。
「…何とか上手くいったようだな」
それに対して、私の横でずっと銃口を向けている強盗犯も口を開いた。
「…後ろもケーサツは来てない。
大丈夫だろう」
全然大丈夫じゃない!
私はどうして連れて来られちゃったのっ。
強盗犯たちはこれでやる事はやった気分かもしれないけど、私の中じゃまだ危険の真っ最中だよっ。
「つーかお前、なに人質連れて来てんだよ。
処理に困るだろっ」
運転手の強盗犯が言った。
その通りよ!
どうして連れて来ちゃったのよ!
って言うか、処理って何っ?。
まさか私、殺されちゃうんじゃあ…っ!
ゾワゾワと全身が小刻みに震えだした。
普通、銀行強盗の人質になって連れ去られた人の末路ってどうなるんだったっけ…?
その時、パトカーのサイレンの音が小さいけれど聞こえてきた。
「オイ、ケーサツ来たぞ」
サイレンの音は1つではない。
きっと何台かがこっちに向かって来ているようで、その音はだんだん大きく聞こえてくるようだった。
「クソっ
捕まってたまるかってーの!」
運転手の強盗犯はグッとアクセルを踏み込み、一気にスピードを上げた。
その反動でシートベルトをしめていない私とすぐ側にいる強盗犯は一緒になって後部座席に倒れ込んだ。
「きゃっ」
私の上に覆い被さるように倒れ込んだ強盗犯の顔が、すぐ目の前にあった。
サングラスもマスクも外しキャップだけになったその顔は、凶悪犯みたいなガラには見えなかった。
だからって別にイケメンってわけでもないんだけど、とりあえず年は30代半ばくらいで帽子からはみ出る髪は茶色い。
よく見たら、左の耳にだけリングのピアスをしている。
そして身長も高いからか、間近に見て余計に大きく感じた。
これが…私を誘拐した銀行強盗犯…!
「チッ」
体勢を崩し私の身体に覆い被さった事にバツの悪さを感じたのか、茶髪の強盗犯は舌打ちすると起き上がり再び銃口を向けて座り直した。
その後もスピードを出したまま急カーブをしたりと相当な荒運転をし、車はどんどん細く淋しい道を走って行った。
もともと知らない町に越したばかりなのだ。
窓を覗いて見ても、もうすっかり私の知らない場所を走っている。
知らないどころか町並みから外れ、もう山道と言っていい。
どんどん私は血の気が引いていくのがわかった。
こんな所に連れて来られて、無事に帰れる筈がない。
さっきまでは強盗犯に無事に逃げてほしいと思っていたけど、今は早く警察に捕まって私を助けてほしいと心の底から願っていた…。
山道をどんどん進む中、かすかにパトカーのサイレンの音が聞こえた気がした。
「…ついて来てるな…。
あと少しだってのに」
茶髪の強盗犯が、私に銃口を向けたまま窓の外に顔を向けて警察を確認している。
すると、車は急にブレーキを踏み、その勢いを止めた。
「…ケーサツは俺がちょっくら撒いてきてやる。お前らはもうここから歩いて行きな」
運転手の強盗犯は私たちの方を振り返ってそう言った。
撒いてくるって…。
「ここから歩いてだともう少しあるじゃねぇか」
「あんまり近付いてからだとあそこがケーサツにバレるだろ!
俺もある程度撒いたらすぐに行くさ」
「そうか。
じゃあ先に行って待ってる。
…悪ぃな」
何の事を言っているのかよくはわからなかったけど、ただやっと警察が近くまで来ているのに、それを引き離す作戦を立てたみたいだった…。
銀行内ではとてつもなく緊張に縛られていたってのに、外じゃそんな様子は微塵もなく平和そうだった。
「さっさと走れ!
モタモタするな!!」
「お願い、離して…っ」
喉から絞ってようやく出たか細い声で、私は目の前の強盗犯にダメ元で懇願した。
「お前には顔を見られたからなっ
しかも俺のマスクをいつまでも握り締めやがって!」
「え…?」
引っ張られながら自分の手を見てみると、しっかりと強盗犯のマスクを握っていた。
突き放された時にとっさに手に当たり、反動で握り締めてしまってたんだ。
もしかして握り締めてなかったら私、助かってたりした…?
私と強盗犯は、駐車場に停めていた白い軽のワゴン車に向かった。
エンジンをつけたまま運転手が待っていたようで、車はすぐに動き出した。
私を掴んだ強盗犯は後部座席のドアを開けると、私を突き飛ばすように押し込む。
「さっさと奥に行け!」
「おい、行くぞ!!」
中の運転手がそう言うと、ハンドルを切り一気にアクセルを踏んだ。
「きゃっ」
その勢いに私は遠心力で車の奥に滑り込み、走り出した車のドアを閉めながら強盗犯も中に乗り込んだ。
車道に入ると、信号にも引っかからず真っ直ぐに車は走った。
すぐに起き上がって窓の外を見ると既に車はずいぶん走っていて、銀行の隣にある本屋さんの『本』のデカい看板が小さく見えた。
そのままどんどん距離を離し、やがて『本』の字は見えなくなってしまった。
えぇー……私…私…
どこに連れて行かれるのー!?
しばらく車内では沈黙が続き、4~5分経った頃にようやく運転手の方の強盗犯が口を開いてその沈黙を破った。
「…何とか上手くいったようだな」
それに対して、私の横でずっと銃口を向けている強盗犯も口を開いた。
「…後ろもケーサツは来てない。
大丈夫だろう」
全然大丈夫じゃない!
私はどうして連れて来られちゃったのっ。
強盗犯たちはこれでやる事はやった気分かもしれないけど、私の中じゃまだ危険の真っ最中だよっ。
「つーかお前、なに人質連れて来てんだよ。
処理に困るだろっ」
運転手の強盗犯が言った。
その通りよ!
どうして連れて来ちゃったのよ!
って言うか、処理って何っ?。
まさか私、殺されちゃうんじゃあ…っ!
ゾワゾワと全身が小刻みに震えだした。
普通、銀行強盗の人質になって連れ去られた人の末路ってどうなるんだったっけ…?
その時、パトカーのサイレンの音が小さいけれど聞こえてきた。
「オイ、ケーサツ来たぞ」
サイレンの音は1つではない。
きっと何台かがこっちに向かって来ているようで、その音はだんだん大きく聞こえてくるようだった。
「クソっ
捕まってたまるかってーの!」
運転手の強盗犯はグッとアクセルを踏み込み、一気にスピードを上げた。
その反動でシートベルトをしめていない私とすぐ側にいる強盗犯は一緒になって後部座席に倒れ込んだ。
「きゃっ」
私の上に覆い被さるように倒れ込んだ強盗犯の顔が、すぐ目の前にあった。
サングラスもマスクも外しキャップだけになったその顔は、凶悪犯みたいなガラには見えなかった。
だからって別にイケメンってわけでもないんだけど、とりあえず年は30代半ばくらいで帽子からはみ出る髪は茶色い。
よく見たら、左の耳にだけリングのピアスをしている。
そして身長も高いからか、間近に見て余計に大きく感じた。
これが…私を誘拐した銀行強盗犯…!
「チッ」
体勢を崩し私の身体に覆い被さった事にバツの悪さを感じたのか、茶髪の強盗犯は舌打ちすると起き上がり再び銃口を向けて座り直した。
その後もスピードを出したまま急カーブをしたりと相当な荒運転をし、車はどんどん細く淋しい道を走って行った。
もともと知らない町に越したばかりなのだ。
窓を覗いて見ても、もうすっかり私の知らない場所を走っている。
知らないどころか町並みから外れ、もう山道と言っていい。
どんどん私は血の気が引いていくのがわかった。
こんな所に連れて来られて、無事に帰れる筈がない。
さっきまでは強盗犯に無事に逃げてほしいと思っていたけど、今は早く警察に捕まって私を助けてほしいと心の底から願っていた…。
山道をどんどん進む中、かすかにパトカーのサイレンの音が聞こえた気がした。
「…ついて来てるな…。
あと少しだってのに」
茶髪の強盗犯が、私に銃口を向けたまま窓の外に顔を向けて警察を確認している。
すると、車は急にブレーキを踏み、その勢いを止めた。
「…ケーサツは俺がちょっくら撒いてきてやる。お前らはもうここから歩いて行きな」
運転手の強盗犯は私たちの方を振り返ってそう言った。
撒いてくるって…。
「ここから歩いてだともう少しあるじゃねぇか」
「あんまり近付いてからだとあそこがケーサツにバレるだろ!
俺もある程度撒いたらすぐに行くさ」
「そうか。
じゃあ先に行って待ってる。
…悪ぃな」
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