あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!

むらさ樹

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●あたし、帰りません!?①

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「では、気を付けて行って下さいね」



「うん。
ありがとう、サイさん」



「帰りも……迎えに行く必要がないと理央様に言われましたので、すみませんが……」



「大丈夫だよ。
歩いて帰るから」



「………。
では……」



運転席に乗り込むと、サイさんの運転でご主人様を乗せた車は学校に向かって走り出した。



あたしはひとりで歩いて、学校へ行くの。





「……はぁ……」



まだ朝だって言うのに、既に疲れたかのようなため息が漏れる。



あたしのお仕事をサイさんが全てやるようになって、1週間になった。



今までやってきたお掃除もお料理もしなくなると、帰ってもする事がなくて部屋にひとりきりでいる。


退屈って言うよりも、何だか胸の奥がポッカリ穴が空いたような感覚だよ。


ご主人様は、何であたしから仕事を取っちゃったんだろう……。












「おはよう、まどか」



教室に入ると、琴乃があたしにあいさつをしてくれた。



「おはよ」



「ん~、最近のまどか元気ないよ。
もしかして、家出の件?」



お父さんとの事があって、それっきり琴乃とはあの話はしていない。


あたしはまだ家出したままだし、お父さんの借金はまだあると思っているんだ。



「実はね……もうすぐ家に帰るんだ」



「えっ、そうなんだ!
わだかまり、取れた?」



「ん……」



てゆーか、あたしが不安になってるのは、そういう事じゃないの。



「よっし!
じゃあ今日は、寄り道して帰ろ?
気分変えて帰らないと、また出て行くってなっちゃうぞ!」



「あ、うん……」



気分変えて、かぁ。

どうせ早く帰ったって、ご飯の支度はサイさんの仕事だもんね。


寄り道……いいよね。







ここんとこ、ボーっとしてばっかりの日が続いてる。


授業中はもちろんなんだけど、それ以外でもずーっと。




「まどか!
ほら、早く行くよーっ」



あっという間にやってきた放課後。


帰りに琴乃がソフトクリームを奢ってあげるからって、やけに張り切ってるんだけど。



「待ってよ、琴乃!
今行くから……ひゃあっ」



机の間を縫って教室を出ようとした時、狭い通路を誰かと同時に通ろうとして突っかかってしまったのだ。



「ご、ごめ……ぁっ!!」



すぐに身を引いてよけたんだけど、その相手の顔を見上げてビックリした。



「ご………っ」


ご主人様っ!!

と言いかけた口を、慌てて手で覆う。



「……邪魔なんだけど」



「ぁ……はい……っ」



冷たくあたしを見下ろすと、ご主人様はフンと鼻を鳴らして教室を出て行った。


てゆーか、邪魔……。




学校ではいつもあんな空気でいるご主人様だけど、でも今のあたしには強烈に冷たく感じた。



「まどかっ」



ショックで佇んでしまっていたあたしに、琴乃は心配して教室に戻ってきた。



「櫻井君、何か特にまどかには冷たいね。
何なんだろうね」



「あはは……」



それまでがスゴく甘くて優しかった分、今の冷たさは確かにツラい。


何でなのか、あたしの方が教えてもらいたいくらいだよ。



「……でもね。
櫻井君、時々物悲しそうな顔してる時があるんだよね。
誰も櫻井君の心の中には踏み入れないものがあるのかなぁ」



誰も踏み入れないものかぁ。


いつも側にいてかわいがってもらってたペットのあたしにも、その役は務まらなかったんだよね……。











「ほいっ、これまどかの分」



「ありがとう。
わぁ、冷たくて美味しーい」



学校帰りに商店街に来たあたしは、琴乃の奢りでソフトクリームを食べ歩きした。



「でね?
昨日のドラマ見てみたらさぁ」



「うんうん」



琴乃と他愛のない話をしながら、帰り道を一緒に歩く。



「ホントに?
それヤバいじゃん」



「ねーっ
なのにさぁ?」



わざと忘れられるように、わざと違う事に集中できるように、あたしは琴乃との寄り道を楽しんだの。


少しでも長く。
帰りは遅い方がいい。

今あの家に帰ったって、あたしには何の仕事もないんだから。




だから、学校がある日はまだよかった。

気を紛らせるものがあったから。









――それから土曜日



「まどかさん」



「あ、サイさん……っ」



学校も休みで目覚ましもかけずにダラダラと眠っていると、サイさんがあたしを起こした。



「おはようございます。
朝食、お持ちしたのでお部屋に置いておきますね」



「ありがとう」



「では」



サイさんが出てパタンとドアが閉まったのを確認すると、あたしはベッドから下りてテーブルに置かれた朝ご飯を覗いた。



バターの乗ったフレンチトーストにスクランブルエッグ、野菜サラダにスープとフルーツヨーグルト。

あたしの作る地味な朝ご飯と違って、スゴくかわいいしヘルシーだぁ。



「これが100点の朝ご飯かぁ。
結局あたしには、100点もらえなかったなぁ」



「はぁ」と短くため息をつくと、あたしはパジャマのままサイさんの作った朝ご飯をいただいた。


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