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●あたし、帰ることになりました!?
しおりを挟むそんなご主人様との秘密の関係になって、1ヵ月が過ぎようとした頃。
今日もキッチンで晩ご飯の支度をしている時、突然見た事もない男の人があたしを訪ねて来たのだ。
「美咲まどかさんっていうのは、君だね?」
高級そうなスーツに身を包み、髪もキチッとまとめ、ヒゲも剃って清潔感のある老年に近い?中年のおじさん。
「あ、はい……。
えっと、どちら様ですか?」
この家には普段ご主人様とサイさんとあたしの3人以外、誰も来たりしないハズなのに。
あたしはそんな突然の訪問に戸惑っていると、おじさんの後ろからついて来たサイさんの姿に気付いた。
「サイさんっ」
「まどかさん。
こちらは理央様のお父様であり、この櫻井家の旦那様であるお方です」
えぇっ!
ご主人様の、お父さん!?
「顔を合わせるのは、今日が初めてだったね。自己紹介が遅れて申し訳ない。
私は君のお父さんと金融業の方でお世話になっている、代表の櫻井だよ」
金融業の代表!?
て事は、お父さんが借金した先の社長さんって事!?
そんな人が、今頃あたしに一体何の――――
「長い間、家にも帰らせないでかわいそうな事をさせてしまったね。
だけど、それもようやく終わった事を伝えに来たよ」
え?
終わったって……どういう事?
「美咲まどかさんのお父さんには、500万というお金を貸していたんだけどね。それがようやく全額返済できるそうだ」
「全額返済!?
まさか、そんなに早く!?」
あたしのお父さんは(今仕事とかどうしてるのか知らないけど)普通のサラリーマンで、お給料とか特別いいわけじゃないと思う。
それにお母さんもパートを始めたようだけど、まだ1ヵ月は経ってない。
何にしても、そんな早く500万なんて大金用意できるハズは……っ
「また実際に返済が完了した時には、改めて解放してあげようね。
酷い対応をしてしまったけど、もうしばらく辛抱してもらえるかな」
「あ……はい……」
ちょっぴり寂しそうな、でも優しい笑みを見せてくれたご主人様のお父さんは、そう言うとサイさんと一緒にキッチンを出て行った。
……え。
て事は、あたし家に帰れるの?
て事は、て事は……っ
もう、ここにいる必要はなくなるって事!?
「………………………
………………はっ」
思考が止まったように、ボーっとしてしまってた。
沸騰したお鍋が、フタをカタカタ言わせている。
「ぁ……ご飯作ってる途中だった……」
だって、あまりにもショックで……。
「!」
廊下の向こうで、声が聞こえてきた。
多分、玄関の方だ。
あたしはお鍋の火を止めるとキッチンを出て、そっと声のした先へと向かった。
「ではな、西原。
理央を頼んだよ」
「はい、旦那様。
……………あの……」
玄関先。
丁度出て行く所なんだろう、ドアを開けたご主人様のお父さんが、サイさんと何かを話していた。
「何だね、西原」
「……………っ
お身体、壊されませんよう」
「あぁ、ありがとう……」
そうしてご主人様のお父さんはサイさんに見送られて、またどこかへと行ってしまった。
「サイさん!」
玄関のドアが閉まり、まだしばらくそのドアを見つめていたサイさんに、あたしは潜めて見ていた廊下の曲がり角から走り出た。
「まどかさん」
「ご主人様のお父さん、行っちゃったの?」
「えぇ、お忙しい方ですからね。
ゆっくりしていられないのでしょう。
むしろ、わざと忙しくしているかもしれませんが」
ご主人様のお父さんは、最愛の奥さんを亡くした寂しさを紛らす為に、わざと仕事を詰めて家庭をかえりみないようにしているって、サイさんに聞いた。
スゴく優しそうな紳士に見えたけど、目は寂しそうだったなぁ。
「それはそうと、良かったですね。
ようやくまどかさんも、家に帰る兆しが見えたようで」
そうだ。
何だか信じられなくて、今あった事なのに、夢でも見てたのかなとさえ思ってしまっていたのだ。
「でも、サイさんっ
ホントなのかなぁ、お金返せるって」
お父さんが返せるのかお母さんが返せるのか、そこまでは聞いてない。
だけど、どっちもそんな大金をポンと用意できるなんて考えらんないよ。
「わたしは直接立ち会ったわけではありませんので確かな事実は存じ兼ねますが……。
旦那様から連絡があった時は、全額返済の目処が立ったから娘を返してほしいと言われたと聞きました」
全額返済の目処だなんて。
まさかお母さん、あたしの為に違う所から別にまた借りてきたとかじゃないよねぇ!?
「旦那様は、まどかさんをこの家に連れて来た事を本当に申し訳なく思っていますよ。
ですが、これも家にひとりぼっちにさせている理央様の為に考えたもののようだったんですね」
「え?」
「理央様は母親であるわたしの姉に、日に日に似てきておりました。
そんな理央様すらも、旦那様は奥様を思い出さないよう極力避けていたようです」
サイさんとご主人様の目元がよく似ていたように、ご主人様はお母さんとよく似た顔立ちだったのね。
だけど奥さんに似ているからって、自分の子供も避けちゃうなんて……っ
「でも、旦那様だって理央様の心配はしておりましたよ。
だからこそ、まどかさんが理央様のクラスメイトだと知ったので、メイドとして理央様の側に置こうと考えられたのでしょう」
え。
じゃあ、あたしが借金の人質にご主人様の家に来る事になったのは、ご主人様のお父さんの企みだったんだー!
「でも、なんで?」
「理央様は人付き合いをしなくなってしまいましたからね。
年の近い女の子を家に入れれば、刺激になるとお思いになったのかもしれません」
あーなるほど。
でもあたしがこの家に来て、ご主人様は何か変われたかなぁ。
学校じゃ相変わらずなんだけど、でも家では少しは良い顔してくれる時間が増えたような気はするかな。
でも……
「あたし、もうこの家にいる必要なくなっちゃうんですね」
「家に帰れる事、嬉しく思わないんですか?」
「それは嬉しいんだけどさ。
でも……」
普通の女子高生なら、学校が終われば恋に部活に友情にって青春するものじゃない?
こんな人の家に来ては掃除に洗濯に、晩ご飯や朝ご飯の支度までさせられて。
青春とは程遠い人生歩まされてるなとは、思ったけども。
でもご主人様の側にいて、身近なお世話をしてあげて、時にはご褒美いただいて。
あたしにはスゴく毎日がドキドキして楽しかった。
なのに、急にもうすぐ終わりだなんて言われても……。
ご主人様と一緒に食べる晩ご飯。
「どうですか?」
「ん、いいんじゃない?」
これといった意見もなく、黙々と食べるご主人様。
会話が……ない。
「…………………」
「…………………」
あんな事実を聞かされて、あたしも何だか動揺しちゃって、何話したらいいかわからなくなっちゃった。
ご主人様は、この事を知っているのかなぁ。
あたし、もうすぐご主人様のペットじゃいられなくなるんですよ?
ご主人様は、平気なの?
あたしは………
「箸、止まってる」
「ぁ……」
また考え事で、ボーっとしていた。
だってもう、その事を考えたらソワソワして仕方ないんだもん。
「あ、あの、ご主人様。
あたし……」
「美咲」
「は、はいっ」
ご主人様に今日の事を話してみようかと思ったのに、タイミング逃しちゃったな。
でも言わなくちゃ。
「食事はもう西原の仕事にするから、お前は明日からしなくていい」
えっ?
もうあたしに、ご飯作るなって事?
「それから、掃除洗濯一切も西原に任せる」
「えぇっ!?
じゃああたしは、これから何を……」
「何もしなくていい。
学校から戻ったら、自分の部屋にいろ」
「そんなぁっ
それじゃあ何の為にあたしはっ」
「命令だ。
ペットはご主人様の言う事をきけばいいんだ。
あぁもちろん、今日から夜も自分の部屋で寝な」
「………………っ」
そんな、ご主人様……っ
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