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●あたし、秘密は守ります!?
しおりを挟む「おい!
起きろ美咲!!」
「……え~?
まだ眠いですよぉ……」
ご主人様の大声で目を覚まし、重いまぶたをこすりながらまた布団をかぶる。
「ご主人様の腕の中って、あったかくて気持ちいいんです~。
あと5分だけ~」
「バカ! 寝坊してんだよ!
学校遅刻するだろ!!」
「えっ、えっ
えぇぇぇぇぇっ!?」
慌てて枕元の時計を見てビックリ!
もう、いつもなら車に乗り込んでる時間だよ!
「何で起こさないんだよ!
て言うか、何でオレが起こしてんだよ!」
「ひゃあぁぁっ
ごめんなさいぃ!!」
ベッドから飛び降りたあたしとご主人様は、急いで学校へ行く支度をする。
うわぁん。
お寝坊なんて、初めてだよぉっ!!
制服に着替えてカバンを持つと、あたしとご主人様は全速力で玄関を出た。
「おはようごさいます。
遅いので、心配してました」
既に車を用意して待っていたサイさんは、全速力で走って来たあたしたちを見て少々面食らったような顔をした。
「……今度から西原、お前が起こしに来い」
「わ、わたしが、してもいいのですか?」
昨日みたいにあたしが休みの時は、代わりにご飯とか作ったりしてるみたいだけども。
サイさんは、基本的に車の運転だけが課せられたお仕事なんだよね。
「西原にはこれから仕事を増やしていく。
仕事が運転だけじゃ、割に合わないからなっ」
「……はいっ、理央様!」
これはご主人様の、サイさんへの甘えなんだよね。
こうやって少しずつ溝が埋まっていく。
よかったね、サイさん。
あたしたちを乗せた車はサイさんの運転でぶっ飛ばし、みるみる学校にと近付いていった。
「サイさん、安全運転~っ
てゆーか、あたし早く先に降りないと、あんまり学校に近付いたら……っ」
「んな事言ってる暇あるかよ!
遅刻するだろっ」
「でもクラスの誰かに見つかったらっ」
「そん時は、オレが言ってやるよ」
「え、なんて………きゃあぁっ」
急カーブで左折した車に、あたしはシートベルトをお腹に食い込ませながら体勢を崩した。
サイさん!
安全運転~!!
だけどおかげで、何とか遅刻は免れそう。
ちょっぴりご主人様に近付けた事に、サイさんも嬉しくてはハイになっちゃったのかなぁ。
だけどこの運転、変わりすぎだよぉっ!
さすがこんな時間だと、車から降りる所は誰にも見られなかったと思う。
そして遅刻ギリギリなあたしたちは、ふたり並んで教室までを猛ダッシュした。
「こんな走った事、オレは初めてだなっ」
「あたしはありましたけどねーっ」
バタバタと足を鳴らせながら教室に入ったのと、始業のチャイムが同時に鳴った。
よかった、間に合ったぁ!
やれやれという思いで席にたどり着くと、前の席の琴乃がクルリと上半身をこちらに向けた。
「おはよ。
今日は遅刻ギリギリなんだ」
「おはよう、琴乃。
寝坊しちゃって朝ご飯も食べずに来ちゃったよぉ」
息を切らしながら席に着いたあたし。
だけど琴乃は、もうあたしじゃなく、もうひとりの遅刻ギリギリを見ていた。
それから午前中の授業も終わり、お昼休み。
琴乃と食堂へ行くと、日替わりランチを注文して空いてるテーブルに着いた。
「もう2時間目始まる前からお腹空いてたぁ。
いただきまーす!」
考えてみたら朝ご飯無しどころか、昨夜の晩ご飯もロクに食べないままだった。
お腹空きすぎて逆に気持ち悪いんだけど。
でも日替わりランチのカレーを食べていると、その気持ち悪さも解消されてきた。
「まどかってば、スゴい勢い。
よっぽどお腹空いてたんだ」
「だって何も食べてなかったもん。
お腹ペコペコだったよぉ!
あーん、カレーが美味しいぃぃっ」
同じ日替わりランチのカレーを注文していた琴乃は、ガツガツ食べるあたしに呆れ顔になりながらスプーンを口に運んでいた。
「美味しかったぁ!
ごちそうさまーっ」
カランとカレー皿にスプーンを置くと、あたしは両手を合わせた。
そんな琴乃は、まだカレーを半分も食べていない。
あたし、ドンダケ早く食べちゃってた?
「早っ
わたし、まだまだだよ?」
「全然大丈夫。
琴乃が食べ終わるの待ってるから」
エヘヘと笑いながら、あたしはアゴに手をついて琴乃を見てた。
「寝坊だっけ?
昨夜、眠れなかったの?」
カレーを口に運びながら、琴乃がきいた。
昨夜はご主人様に抱っこしてもらいながら寝るんだと思っていたんだけど、流れであたしがご主人様を抱っこしてあげて寝ちゃった。
ご主人様の方が先に寝ちゃったけど、あたしは初めて見たご主人様の涙に胸が締め付けられてなかなか眠れなかったんだよぉ。
「ねぇ、まどか」
「ん?」
ふと、琴乃は持っていたスプーンをカレー皿に置いた。
「今日櫻井君と一緒に走って来てたよね。
たまたま?」
ギクー!
車から降りる時は誰もいなかったから見られてなかったハズ。
でも教室に入る時の視線まではあんまり考えなかったぁ!
以前琴乃に訊かれた時は、家出してるから反対の道から来てるって言えたけど。
でも今は、なんて言い訳しよう。
たまたまでいいかなっ
でも、白々しい!?
「えっと、あのっ」
「わたしね、櫻井君にフられちゃったよ」
「えっ」
言い訳を口にする前に、琴乃はそう言ってきたのだ。
「わたしの書いた手紙、櫻井君に渡してくれたでしょ?
ありがとうね」
琴乃のラブレター。
そうだ、その答えをご主人様は琴乃に返したんだ。
「でね、わたし櫻井君に呼ばれちゃって、その返事を聞いたの」
ずっと不安だったご主人様の返事。
どう返したんだろう。
「そしたらね、好きな人がいるからダメなんだって」
「……………」
好きな人……。
ご主人様に、好きな人がいるの?
「誰なのか訊いたんだけど、教えてくれなかった。
だけどそれってもしかして、まどかじゃないのかなぁって思って」
「あ、あたし!?
まさかぁ、そんなわけないよぉっ」
「だって、今朝とか一緒に教室来てたじゃない?
友達の家に泊まらせてもらってるって言ってたけど方向も同じだし、それって櫻井君の家に――」
「遅刻するって半ベソかきながら走ってたのを見つけたからさ」
「!」
あたしの後ろから、口を挟むように声がしたので振り向いた。
「このまま走って行ってたら、1時間目が確実に始まってるだろうなって思ったから。
だからついでに車に乗せてやったんだよ。
たまたまな」
ご主人様!
食べ終わったランチのお盆を持っているのだけど、琴乃の疑いを晴らす為にわざわざ話を聞きつけてフォローしてくれたんだ。
「たまたまオレも寝坊して来たんだけど、オレが通りかからなかったら遅刻は確実だったな。
感謝しろよ、美咲」
「あ、うん……」
たまたま、お互い寝坊しちゃったんですものね。
フンと鼻を鳴らしたご主人様は、それだけ言うと食べ終わったお皿を返却口に持って行った。
「……なんか、やっぱ冷たいね、櫻井君って」
「ホントだね……」
ご主人様も、ああいう所をもう少し素直になれば、クラスのみんなと打ち解け合えると思うんだけどなぁ。
でも、これでふたりの秘密は守れたんだ。
学校じゃあんなご主人様だけど、家に帰るとスゴく優しいから、まぁいいよね。
それに……
「ん。このポテトサラダ美味いな。
腕上げたな、美咲」
「ホントですか?
嬉しいぃっ!」
毎日お料理してたから、少しは上手になれたのかな。
初めはボロクソ言われたけれど、最近のご主人様は、誉めてくれるところはちゃんと誉めてくれるからスゴく嬉しい。
「ふっ
頑張ったから、ご褒美やるよ。
ほら、こっち向け」
「ぁ、……ん………」
……それに、優しいだけじゃない。
時には、甘い甘いご褒美だってくれる。
ペットでもいい。
ずっとご主人様と、こうしていたい。
そんなご主人様との生活は、毎日が楽しくって嬉しくって幸せだよ。
早く家に帰れるようになればいいなって思ってたけど、今は何か違うのかも。
それに……ずっとしばらくはこんな生活が続くと思って、ちっとも疑わなかった。
あたしが自分の家に帰る、という事を。
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