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しおりを挟む「うぅっ、ご主人様ぁ」
こうなってくると、もうどうしたらいいかわからなくて涙が出て来る。
宿題もしなきゃなのにやる時間がない。
ラブレターも渡さなきゃなのに渡したくない。
「まだ、終わってないのか?」
「はいぃ」
まだ終わってないどころか、まだやってません。
教室に着いてからじゃ、すぐに始業ベルも鳴るだろうから間に合わないよぉっ!
「……じゃあ、今日も先に車で行けばいいよ」
「えぇっ」
「車なら早く着くから、始業のチャイムまで時間がある。
それまでに、宿題やれば間に合うだろ?」
でもそれだと、ご主人様が徒歩通学になっちゃうっ
「オレの事なら気にするなよ。
歩いたって、行けないわけじゃないんだから」
「えーん、ご主人様ぁ!!」
前の時は病み上がりだからって、あたしを車で先に行かせてくれた。
そして今日は宿題やる為だけに、車で先に行くよう勧めてくれた。
なんて優しいんですかぁぁ!
「……昨日はオレが無理やり呼びつけたからな。
罪滅ぼしだよ」
ボソリと照れ臭そうにつぶやいたセリフを、あたしは聞き逃さなかった。
昨日は一緒に抱っこしてもらいながら寝たんだもんね。
思い出したら、あたしもちょっぴり恥ずかしくなっちゃった。
「ほ、ほら、行くぞ!
西原が下で首長くして待ってるんだからなっ」
「あっ、はいっ!」
あたしとご主人様は照れ隠しのように、走って玄関まで向かった。
その時
あたしを引っ張るかのようにして、ご主人様は手を繋いでくれていた。
もちろん、玄関から出るまでの間だけなんだけど。
「学校までもう少し距離がありますが、ここでいいですか?」
「うん。
あんまり近いと、誰かに見つかっちゃうもんね。
ありがとう、サイさん」
ご主人様を置いて行った車は学校の少し手前辺りで停まり、あたしは降りた。
ここからなら歩きでも十分早く学校に着くから、ゆっくり宿題を終わらせる事が出来るぞ。
あたしはサイさんに手を振って見送ると、学校の方へと歩き出した。
あー、結局ご主人様にラブレターは、渡せないままになってたなぁ。
教室に着いたら、なかなか話しかけづらくて渡せなかったって、琴乃に謝ってこのラブレターは返しとこうかな。
あたしはポケットからラブレターを取り出して、手に持った。
うん。
その方が無難だもんね。
シンと静まり返った朝の教室。
中にはまだ2~3人の生徒しかいなくて、みんな静かに教科書や持参している本なんかを見ている。
「はよぉ」
小さくあいさつしながら席に着いたけど、おはようは返ってこなかった。
みんな、早くから来て自分の世界にいるのね。
「さて、と」
あたしはカバンから宿題のプリントを取り出して、早速問題を解き始めた。
「おはようまどか。
また今朝は早いんだね」
丁度1問目を解こうとした時、前の席から琴乃の声がして顔を上げた。
「あ、おはよ。琴乃。
今日はね、宿題やる為に早く家を出たんだよ~」
家は家でも、自分の家じゃないけどね。
そういえば自分の家も、ずっと帰ってない。
お母さん、元気にしてるかなぁ。
琴乃にあいさつを返すと、あたしはまた顔を下に向けて宿題の続きに取りかかった。
「まどか……。
今日は櫻井君、まだ来てないね」
ギクリ!
来てないも何も、あたしが車に乗って来ちゃったんだから、ご主人様はまだ歩いて向かってる途中だ。
「あー……そうなんだ。
誰が来てるとか、よく見てなかったなぁ」
敢えてプリントから目を離さないようにして、あたしは適当に応えた。
琴乃は早く学校に来るご主人様が目当てで、こんな時間に来てるんだ。
でも今日は、また始業ギリギリに来るんだよーなんて、知ってるけど言えないんだよね。
「……まどかさぁ」
「ん?」
1問目の問題を解いた後、2問目の問題に取りかかる。
「今日家とは反対の方向から来てたよね。
なんで?」
「…………っ!」
問題を解いていた手が、止まってしまった。
今日家とは反対の方向から……
それはだって、あたしの家はご主人様の家とは真反対の位置にあるんだもの。
反対なのは当然、なんだけど。
まさか今は借金の人質に、ご主人様の家にいるとは言えない。
「それは……」
あたしとご主人様の関係はふたりだけの秘密だもん。
いくら琴乃にだって、この事は……っ
「い、家出してるの」
「は?」
「今ね、家出してるの!
ほら、プチ家出?
もぉお父さんとケンカしちゃって!信じらんないんだからっ」
とてつもなく土壇場で考えた言い訳だった。
ま、家に帰らないのはホントだけど。
「だから、今は中学の時の友達の家にいるから。
それで、家とは違う道から来てるんだよ」
うわわ。
こんな事、信じてもらえるかなっ
でもこれでダメだったら、後はもう琴乃と絶交を覚悟でだんまりを決めるぐらいしか…っ
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