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●あたし、抱かれました!?①
しおりを挟む「ええっと、コレは?」
相変わらずの徒歩通学で、教室に着いた途端の朝。
コソコソと顔を寄せてきた琴乃があたしに何かを手渡してきたのだ。
「手紙。
櫻井君に書いてきちゃった」
ラブレターだ!
かわいらしい封筒に、表には赤いペンで“櫻井君へ”と書いている。
「もぉずっと気になっちゃって仕方ないから、想いを全部書いちゃったの!」
「へぇ……」
正直言って、ちょっと複雑。
だってご主人様を好きなのは、あたしだって同じだもん。
ううん、あたしの方がずっと上……。
「でね、これをまどかの手から、櫻井君に渡して来てほしいの!」
「え、あたし!?」
琴乃の思わぬお願いに、あたしはちょっと面食らってしまった。
それでなくとも、複雑な思いだってのに。
「え、どうしてあたしなの?
琴乃、自分で渡せばいいじゃない!」
「だってぇ! 櫻井君って声かけづらい雰囲気だから、言い出せないんだもん。
それに、まどか前に落とし物届ける為に話した事あるんでしょ?
だったら、言いやすいじゃない?」
声かけづらい雰囲気なのはわかるけど。
でも話しかける事もできないのに想いを伝えて、それからどうするのよー!
「だから、コレまどかに預けとくから。
お願い、ねっ!」
「あ、ちょっと!」
クルリと身体を前に向け琴乃が自分の机に着いた途端、始業のチャイムが鳴った。
え~?
琴乃からのラブレターを、あたしがご主人様に渡すの?
困ったよぉぉ。
「また箸が止まってるけど?」
「えっ、あっ」
ご主人様との晩ご飯。
またしても20点なお好み焼きを、残さず食べてくれたのは嬉しい。
でも今日は琴乃から預かったラブレターの件で、気分が重くて仕方がない。
いつ渡そう。
どうやって渡そう。
てゆーか、渡したくない。
じゃあ琴乃に何て断ろう。
なんて考えていると、ついまたボーっとしてしまっんだ。
「オレは美咲の作るご飯は食べれるって言っただろ?
いちいち点数なんか本気にしなくていいんだよ」
「あ、はい……」
フォローのつもりで言ってくれたご主人様。
今あたしが悩んでる事は、そういう事じゃないんですっ
ご主人様も、まさかクラスメイトからのラブレター預かってるなんて、夢にも思ってないでしょうけどね。
「美咲、そんなに悩むんだったら、オレもう点数とか言わないよ。
今まで通り、作ってくれたらいいから」
「でもあたし、お母さんみたいなお料理作れるように頑張ります!」
お母さんみたいな100点なお料理、あたしも食べさせてあげたいもん!
ただ、今はそれができないなら、せめてご主人様に寂しい思いをさせないようにあたしは努めたいの。
「美咲……」
「……あっ」
つい、ご主人様の前でお母さんの事を言ってしまった。
内緒にしとくってサイさんと約束したのに。
これじゃあサイさんからアレコレ聞いたのが、ご主人様にバレちゃう!
「……西原から何を聞いたのか知らないけど、お前は余計な事考えなくていい」
あちゃー。
やっぱりサイさんとの事バレちゃったぁ。
ご主人様のお母さんの事を知ってるのは、サイさんしかいないもんね。
「でもあたし、ご主人様には寂しい思いさせたくないから、それで……っ」
「お前はオレのペットだって事、忘れたのか?
ペットはペットらしくしてればいいんだよ!」
「……っ」
寂しい思いをさせないどころか、ご主人様を怒らせてしまった。
お母さんへの寂しい思いを簡単に慰めようとした事が、あまりに露骨だったから。
逆にイヤな思いさせちゃったんだ。
バカだな、あたし。
お皿を片付け、洗いものを済ませた。
お風呂に入ったご主人様の後に、あたしも続けて入る。
今日のお仕事は全部済んだし、後は部屋に戻って学校の準備をすればいいだけだなぁ。
あ、琴乃から預かったラブレター。
ご主人様とこんな雰囲気になっちゃって、ますます渡せないよぉ。
そっと食事を運ぶ振りして、お部屋に置いておこうかなぁ。
って、この家にはあたしとご主人様しかいないんだから、あたしの仕業ってバレバレだよね。
「はぁぁぁ」
湯船の中で長いため息をつくと、あたしは憂鬱になりながらもお風呂からあがった。
一緒にいる以上は、気まずい雰囲気になんてなりたくないのに。
これから、どんな顔してご主人様の前に出たらいいのぉ?
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