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●あたし、ご褒美頂いちゃいました!?①
しおりを挟む「野菜炒め、炒めすぎ。塩辛い。
10点」
「はい、ごめんなさい……」
毎度の酷評には慣れたけれども。
ただ玄関先でのサイさんとの事もあって、何だか気まずいふたりきりの晩ご飯。
だけどその理由がようやくわかった今、あたしは何も言えなくなってしまった。
それにまさか、サイさんがご主人様の叔父さんだなんて思わなかった。
ご主人様のお母さんが亡くなってる事は聞いたけれど、その弟であるサイさんに顔も見たくないって思うなんて……。
それは、お母さんの事を思い出してしまうから?
そういえば寝言でお母さんって言ってた日もあったよね。
お父さんもなかなか家に帰って来なくてひとりぼっちのご主人様。
普段あんなにツンツンしてるご主人様だけど、ホントは寂しくて仕方ないんじゃないのかなぁ。
「……なに?
さっきから箸が進んでない」
「あ……っ」
ご主人様の顔を見ると、サイさんの顔を思い出してしまう。
長いまつげに、くっきりの二重まぶた。
きっとご主人様のお母さんも、おんなじまつげにおんなじまぶただったんだよね。
もしかしたらサイさんの作るお料理の味は、ご主人様のお母さんの味とよく似ていたのかもしれない。だからきっと……。
「ご主人様」
「ん?」
炒めすぎだの塩辛いだの言いながら、結局今日もキレイに完食してくれている。
こんなあたしでも、一緒にいて寂しさを紛らせる事ができる?
「明日のお買い物、あたし楽しみです。
ご飯、何を作りましょうかね」
「ああ、そう言えばそんな話だっけ」
あたしでご主人様の寂しさを紛らせられるなら、喜んでご一緒しますからね!
――翌日
土曜日の今日は、いよいよご主人様と一緒にお買い物に行く日。
学校がないから朝はゆっくりして、お昼も兼ねてブランチで済ませた。
それからあたしは掃除や洗濯をテキパキとこなし、時間はあっと言う間に午後の2時をまわった。
「ご主人様、下でサイさんが待ってます。
早く行きましょ!」
「あぁ」
部屋から出て来たのは、いつもの制服姿でも寝る時のパジャマ姿でもない。
普通にシャツにジャケット、ジーンズを着たご主人様だ。
そう言うあたしは、ここで用意してくれてるワンピースを着ている。
服まで全部用意してくれてるんだからスゴいよね。
ご主人様と一緒に玄関を出ると、車を用意してくれているサイさんがあいさつしながら一礼した。
「お待たせ、サイさん」
「いえ、わたしは理央様のご都合に合わせて動いてますので」
ご主人様のお母さんにそっくりな面持ちのサイさん。今日もしっかりサングラスをかけてる。
サイさんもご主人様の気持ちがわかっているから、そうやってちゃんと従っているんだね。
「ほら、さっさと行くぞ。
せっかくの休みなのに、モタモタしてたら時間がもったいない」
「はい。
では発車しますので、シートベルトをしっかり着けて下さいね」
だけど、お母さんへの寂しさを忘れたいからこそ、そっくりな叔父さんをそんな風に扱いたくなるのもわかるけども。
でもサイさんは、ご主人様の大切な肉親なのにな……。
「わぁ!
すごい大きなスーパーだ!」
着いた先のお店はみな一流品を揃えた、ちょっと高級なスーパー。
お肉もお魚もお野菜も、いろんなものが産地別に並んでいる。
「何を買おうか迷っちゃいますね!」
「なんでもいいよ。
食べれば一緒なんだから」
「もう、ご主人様ったらぁ。
あ、このミニトマトかわいい!」
食材を見て献立が思い浮かぶほどじゃないけど、でもだいぶお料理には感心があるようになったよー。
「今日のメニュー、やっぱコレだね」
今日の晩ご飯はお肉もお魚もお野菜も取れて、尚且つ一緒に食べる事が楽しくなっちゃうお鍋にしようと思ってたんだ。
季節はずれなのはわかってるよ。
でもあたしの頭じゃ、他に思い浮かばないんだもーん!!
「鍋!?
もう春なのに?」
グルリと店内を一緒に歩いて、たくさんの新鮮なお野菜やお魚を買って。
帰ってキッチンに食材を並べた所でようやくご主人様が「何を作るんだ?」と訊いてきてくれたので、やっと種明かしをした。
すると案の定、突っ込まれてしまった。
「え~、何でもいいって言ったじゃないですかぁ」
「別にいいけどさ」
「エヘヘ
じゃあお野菜切るの、ご主人様も一緒にやりましょうねっ」
一緒に作って一緒にお鍋をつつきながら食べるご飯、ご主人様も今日の晩ご飯だけは美味しい!って言うよね。
苦手だったお料理も、少しはできるようになったんだから。
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