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●あたし、胸がいっぱいです!?①
しおりを挟むご主人様が着替えたり学校へ行く支度をしている間、あたしは食べ終わった食器をさげて自分の部屋に戻った。
自分の着替えも済んだし、日課ももう揃えたし。
あたしは通学カバンを持って廊下で待っていると、やがて支度を終えたご主人様が部屋から出て来たので一緒に玄関を出た。
「おはようございます、理央様。まどかさん」
「あぁ」
「おはよう、サイさん」
外に出ると車を用意したサイさんがあたしたちに頭を下げながらあいさつをし、車のドアを開けた。
「まどかさん、お具合はいかがですか?
心配しましたよ。昨日は迎えに行ったら倒れていたんですから」
「えっ!?
……ああ!」
そっか。昨日熱で気を失った所を介抱してくれたのは、サイさんだったんだ。
「はい、もう大丈夫です。
心配かけちゃってごめんなさい」
「いえ。
じゃあ、行きましょうか」
先に車に乗ったご主人様の後に続くように、あたしもサイさんの車に乗り込んだ。
そうして、今日もあたしは途中までご主人様と一緒に車で学校に向かった。
広い庭を抜けて公道に出てしばらく走り、あたしが降りて歩いて行く場所。
今日も路肩に車は停まると、サイさんによってドアを開けられた。
他の生徒たちの目に触れないちょっと遠い辺りから、あたしは歩いて行くの。
だってあたしたちの関係は秘密だから……。
「美咲、ちょっと待て」
「はい?」
開けてくれたドアから出ようとした時、ご主人様はあたしの腕を掴んで引き止めた。
「今日はオレが歩いて行く。
お前はこのまま乗って行けばいいよ」
そう言って、ご主人様はあたしをシートに置いて車から降りた。
「え、でも歩いたら結構距離が……」
「だからオレが歩くって言ってんだよ。
お前は病み上がりだからな、もう少し楽しといた方がいい」
「ご主人様っ」
車から降りたご主人様に「本当に歩いて行かれるのですか?」とサイさんも驚いて言っていたけど、ご主人様は黙って頷くとさっさと学校に向かって歩きだした。
しばらくその後ろ姿を見送ったサイさんは、運転席に戻ると車を発進させた。
「サイさん、ホントにいいのかなぁ」
「理央様が仰っているのだから、良いのでしょう。
ああ見えて、お優しい方ですからね」
「あ……」
“お優しい方”
うん、サイさんもご主人様が優しいって知ってるんだ。
車は進み、すぐに歩いて行くご主人様を追い抜いて行く。
やがてバックフロントにもご主人様の姿は見えなくなった。
少し早めに出てるから、遅刻する程じゃない。
でもあたしの為に車を降りてくれたなんて、嬉しくキュンとしちゃうよぉ。
「理央様、最近良い顔していらっしゃいますよね」
「えっ」
ハンドルを切りながら、サイさんがあたしにそう言ってきた。
「以前は毎日をつまらなそうにしていましたが、まどかさんが来てからすっかり顔つきも良くなったような気がします。
食事もちゃんと食べてるんでしょうね」
「ちゃんとだなんて!
毎回ぜーんぶキレイに食べてくれますよ」
唯一ちゃんと食べなかったのは、サイさんに作らせてしまった肉じゃがくらいだ。
なんて、もちろんサイさんには言えないけど。
「全部!?
よっぽど、まどかさんの事を気に入られているんでしょうね。
わたしの時は、ほとんどまともに食べてくれなかったですから」
「えぇっ?
ほとんど食べなかったんですか?
どうしてっ!」
あたしなんて、サイさんと比べなくてもロクなご飯作れてないのに。
あんなにヒドい評価を受けるようなご飯ばっかだったのに、でも毎回全部食べてくれたんだよ?
「……理央様は、わたしの存在をあまり快く思っていませんからね」
「そんなぁっ。
何かすれ違った事があったとしても、そんなのちゃんと向き合えば――」
「こればっかりは、どうしようもないです。
わたしがわたしである以上は」
どうしようもないなんて。
どうして?
ふたりの間に、一体どんな溝があるのよ。
学校に着いて教室に入ると、まだ少し早い時間だからクラスメイトもあまり来ていなかった。
とりあえずあたしは自分の席に着こうとすると、前の席である琴乃が声をかけてきた。
「まどか、おはよう。
今日は早いのね」
「おはよ!
琴乃って、いつもこんな早くから来てるんだ」
「ん、まぁね……」
始業ベルが鳴るまで、まだ30分はある。
早く来て勝手に予習とか始めちゃってる成績優秀者はわかるとして。
特に話し相手もいないのにこんなに早くから来て、琴乃は何してたんだろ。
「あ、そうだ。
琴乃はお料理得意?」
「料理?」
「うん。
最近料理する事が多いからさ。
何かこれはってレシピ教えてよ」
何やかんやで、明日はいよいよご主人様と約束を入れた土曜日。
一緒にお買い物からして、一緒にご飯を作るんだもんね。
何にしようかなぁ?
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