あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!

むらさ樹

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●あたし、とうとうダウンです!?①

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「まどか!
おーい、まどかってば!」



「……え~?」


琴乃の呼びかけにも半ば生返事なあたしに、琴乃は眉間にシワを寄せた。



「大丈夫?
何かいつものまどかじゃないみたいで、スゴい変だよ」



「あ、あたしは別にっ、普通だよっ?」



琴乃とお昼休みの学食を一緒に食べてるんだけど、あたしのランチは全然箸が進んでいなかった。


頭がボーっとしちゃって、授業中もずっと虚ろになってたんだよね。


でも理由はわかってる。


昨日のご主人様のキスを、意識しちゃってるからだ。

あたしはペットだからキスされた。
ご主人様があたしを可愛がって、キスしてくれた。


あたしを、可愛がって……。



「まどか顔赤いよ!
熱あるんじゃ……
ほら、熱いじゃん!」



あたしのほっぺたに触れた琴乃がビックリして手を離した。


だってだって!
嬉しくって恥ずかしくって、舞い上がっちゃってんだもん!
熱くなるよぉーっ!!






ボーっとしたまま午後の授業も受け、いつの間にやら放課後になっていた。



……おかしいなぁ。
今日一日中、ずっと頭がフワフワする。

意識しすぎてるから?






サイさんと待ち合わせてる場所までフラフラしながら行くと、近くにあった大きな石の上に腰掛けた。


今はまだご主人様を家に送ってるハズだから、迎えはすぐに来ない。

あと15分くらいかなぁ……。



意識しすぎって言っても、一応あたしからすれば初めてのキスだもん。



ご主人様は飼い主としてぐらいの気持ちでも、あたしからすれば忘れられない大切なキスだったんだから……。



「…ぅーん………」



フラフラってより、何だかクラクラしてきちゃった。

気のせいか、身体が重い。


ダメだよ。
帰ったらお掃除に晩ご飯の支度だってあるんだから。

……しっかり……しなきゃ………





しっかり………






____ズルッ
 

   ドサッ_____…









______
 ________

  ____________…




「ん……………」



フワリと匂った、カレーの香りで目が覚めた。



カレー……


……あ、晩ご飯またカレーにしようかなぁ。



そういえば初めて作った晩ご飯がカレーで、野菜の大きさがバラバラだとかコクがないとかご主人様に言われたんだっけ。


カレーもリベンジして、ご主人様に「美味しい!」って言わせたいもんね。


今度は野菜の大きさ気を付けて、コクは……何か隠し味を入れたらいいのかなぁ。



あーカレーの匂いを嗅ぐと、カレーが恋しくなってきちゃったよぉ。


美味しいカレー、あたしも食べたい…………




「えっ!
カレー!?」



ようやくハッとして、あたしはガバッと身を起こした。




「ぁ……っ」


急に起こした身体に、めまいがした。


頭もクラッとして、あたしは崩れたバランスを手で支える。



「美咲、大丈夫か?」



顔を起こして見ると、ベッドの側にはご主人様があたしを見ていたのだ。



「ひゃっ
あっ、あっ、あたしっ」



あれ?
あたし何で寝てたの?

何でご主人様がここに!?



「あの、ええと、どうなって………?」



「熱が出てるんだ。
今日はもうそのまま休んでろ」



琴乃にも言われたっけ。

だからクラクラするんだ。

朝からずっとボーっとしてたし……。



「……って!
寝てるわけにはいきません!
お掃除しなきゃいけないし、晩ご飯だって……っ」



「掃除なんて一日くらいしなくてもいい。
それに、晩ご飯はもう作ってある」



「えぇ?
でもご主人様、晩ご飯って……」



「カレーだよ。
お前と違って、ご飯も炊いた」



いや、そういう事じゃなくて。

いやいや、カレーにご飯があるかないかは、もちろん重要事項ですけども。



「でも、誰が……」


「オレが作ったんだよ。
悪いか?」


「いえそんなっ
ただ、あたしが寝ちゃってたせいでっ」



そうかぁ。
だからカレーの匂いがしたんだ。

だけど、ご主人様がカレー作っちゃうなんて。


食べてみたーい!




「……毎日こき使って、無理させたんだな」



ボソッと、独り言のように言ったご主人様の言葉に驚いた。



「今度から、週に一度は休みをやるよ。
メイドの仕事なんて忘れて、とりあえず今日はゆっくり休め」



「ご主人さまぁっ」



そっとあたしの身体をベッドに倒し、ご主人様は布団をかけてくれた。



「後でここに運んできてやるから。
熱出てんのにカレーって、食べる気なくすけどな。
ほら、もう寝ろ」



そんな事ないです。

すごく嬉しいですよ!
ご主人様……。














「……ん………」



再び目を覚ますと、ぼやんと天井が見えてきた。



あれから、あたしはぐっすりと深く眠ってしまったみたい。


だけどそのおかげかな、目が覚めた今は頭のクラクラ感もなくなり、汗もしっかりかいたせいでスッキリしてる。


なんか、お腹も空いてきちゃった。


熱、だいぶ下がったんだろうな。
パジャマまで汗でジンワリ……



「ん、パジャマ!?」



あたし、いつの間に着替えてる!?

てゆーか、着替えさせられてる!?

だ、誰に____



「サイさん……は運転のお仕事だけだし、やっぱりご主人様……かな。
ぅひゃあぁっ」




親切のつもりでやってくれたんだよねっ

あんまり変な意識しちゃ、かえって失礼だぁっ



「ご、ご飯、食べて来よっ」



ゆっくりと身体を起こしてベッドから起き上がると、あたしは部屋を出た。




長い廊下に出てキッチンの方に向かおうとした、その時。



「美咲!」


「はっ、はいぃ!」


ご主人様の呼びかけに、つい反射的にピンと姿勢を正して応答してしまった。



「別に用事を言おうとしたわけじゃないよ」



あたしが部屋から出て来る物音が聞こえたのかな。

隣同士である部屋から出てきたご主人様は、そう言って側まで来てくれた。



「具合、もういいのか?」


「あ、はい。
何だかお腹空いちゃって、ご主人様の作ってくれたカレー、食べたくなっちゃったんですっ」



「そうか。
ならオレも一緒に食べるよ。
鍋あっためてくるから、オレの部屋で待ってな」



え?
ご主人様、まだ食べてなかったんだ。

てゆーか、家事を放っといて寝てたのに、ご飯を持ってきてくれるなんて……っ



「ご主人様っ
あたしがやりますから!」



あたしは慌てて止めようとしたけど、ご主人様はそれを制した。



「お前は今日はもう休めって言っただろ。
ご主人様の命令は、絶対」



「あ、はい……っ」



ペットのあたしに、そんなに優しくしてくれるなんて。

あたし、甘えちゃっていいのかなぁ。












「うわぁ!
これ、めちゃめちゃ美味しいです!!」



ご主人様の部屋で、並べられたカレーをスプーンですくって食べた。

そしたら、以前あたしが作ったカレーとは全然味が違ってスゴく美味しいの!


コクがあって甘味があって、野菜も溶けちゃうくらいよく煮込まれてて。

え?
同じカレーなのに、どうしてこんなに違うのー?



「ご主人様、もしかしてお料理の天才だとか?」


「何言ってんだよ。
単に昨日の肉じゃががもったいなくて、ちょっと加工しただけさ」



昨日の、肉じゃが?


サイさんに手伝わせるなって怒られちゃって、せっかく作ったのに鍋に戻して置いといた肉じゃがの事だ。


え、加工って。


「あの肉じゃがをカレーにしちゃったんですか?」



「まぁね。
味がよく染みてて良いだろ」



スゴい。
何でそんな裏技知ってんだろう。


病み上がりなのも忘れて、あたしは夢中になってご主人様の作ったカレーを平らげてしまった。




カレーでお腹いっぱいになった後は、ご主人様に片付けもしてもらい、あたしはゆっくり休ませてもらった。


今日は一日休んでいいって話だけど、ホントに何もしてないや。

こんなにも優しくされちゃって、いいのかなぁ。



「……………」



あたしは首もとに手を伸ばして、チョーカーに触れた。



どんなに引っ張っても、外れないチョーカー。


これはあたしがご主人様のペットである事を示す、首輪だもの。

ご主人様の意志でしか外せない。





最初は怖かったペット扱いだけど、こんなにも優しくされたり、面倒みてくれたり。



ペットって、かわいがったりするものでもあるんだけどさ。


ご主人様も、そういう気持ちであたしに接してくれてるのかなぁ。




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