あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!

むらさ樹

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コンコン とドアをノックしたけど、返事は返ってこなかったご主人様のお部屋。



「あの、失礼します……」


ビクビクとしながら、あたしはゆっくりご主人様の部屋のドアを開けて、そっと顔から覗かせた。


とりあえずカギはかけたりしないご主人様。

入るなって言われてないのを良いことに、あたしはゆっくり足を踏み入れた。




「なに?」


「ひゃあ!」


ドアの向かいに位置するソファから、きっとあたしがソロソロと部屋に入る様子が丸見えだっただろう。

そんなあたしをジッと見据えながら、ご主人様は言ったのだ。



「ああ あのっ
お風呂の準備が……できまして……っ」


「あっそ」


視線をそらしながら、ご主人様の素っ気ない返事。


やや、やっぱり、まだ怒ってんのかなぁぁっ




「……いつまで突っ立ってんの?
まだ何か用があるわけ?」


用件は述べたのに、未だドアの前で固まってるあたしを見て、ご主人様は言った。


用ってわけじゃないけど、まだ機嫌悪いみたいだし、さっきの事もう1回ちゃんと謝らなくちゃ。



「あ あの、さっきは、ごめんなさい……でした……」



「………………」


何も返してくれないご主人様。

ヒドく言ってこないだけで、ホントはスゴく怒ってる?



「今度はサイさんばかりに手伝わせないで、ちゃんと自分の手で作ります。
なるべく教えてもらうだけにして……」


「やめろ!
今の西原は足係だけだ。
他の事は全部美咲1人でやれ!
特に料理は、一切西原にはキッチンに立たすな!」



「……………っ」



初めて、本気で怒鳴ってきたご主人様。

“特に料理は、一切西原にはキッチンに立たすな”?


ご主人様は、サイさんを嫌っているの?

サイさんの事、どうしてそんな風に言うの?


ご主人様とサイさんの間って、何かあるの?





「ヒドいです……」



「は?」



何だかサイさんがかわいそうな気がして、涙がにじんできた。



「サイさん、あんなにご主人様に尽くしているのに。
どうしてそんな風に言っちゃうんですか!?」



少しでも美味しく作って食べてもらいたい。
作る人は、食べてもらう人の事を考えて一生懸命作っているんだよ?

今日の肉じゃがだって、スゴく手をかけて作ったのにほとんど食べてくれなかった。


サイさんが見たら、悲しんじゃうよぉ。





「何か、勘違いしてんじゃないか?」



「え?」



ソファにふんぞり返ってたご主人様が、ゆっくりと立ち上がった。

その表情が、怒ってるだけあってやっぱり、怖い……。



「お前はオレのペットだって、言ったろ?
ペットが何エラそうに主人様に意見しちゃってるわけ?」



……ゾクリ

ずっと平穏なメイド生活を送ってた毎日だったけど、今初めてご主人さまに恐怖感を抱いた。



「こっち、来いよ。
ご主人様の命令は、絶対だろ?」



ドアの前に佇むあたしに、向かいのソファの前に立つご主人様が手を差し出した。



「……………っ」


今までお料理にヒドい酷評は下されたけど、手をあげるようなマネはされていない。


意地っ張りなとこはあっても、どこか優しかった。

そんなご主人様だったのに、ホントは違うの?




「何してんだ!
早く来いって言ってんだろ?
それとも、自分の立場を棚に上げてオレに逆らうつもりか?」



「……………っ」



あたしの立場。

そう。
お父さんの借金が期限を過ぎても返せなくて、お母さんがお金を稼ぐ間、あたしは人質としてここに連れて来られたの。


あたしは……逆らっていい立場の人間じゃないんだ!




「……………」


一歩 また一歩と、あたしはソファの前に立つご主人様のもとへと歩み出た。


返済期限過ぎても待ってくれるかどうかは、あたし次第。


お母さんだってパート頑張ってるんだから、あたしだって頑張らなくちゃ!




「……よし、ちゃんと来たな」



「……………っ」



ご主人様の近くまで行くと、あたしは腕を引っ張られて目の前ギリギリまで近寄せられた。


そっと顔を上げれば、息がかかりそうなくらい目の前にいるご主人様があたしを見下ろしている。



こ、怖……

「怖い?」


「あ……いえっ
そんな事……っ」



怖いなんて、言えるわけがないよ。

逆らっちゃダメ。

学校だって普通に行かせてもらってるんだし。

あたしだって、頑張ってここでお仕事こなさなきゃ……!!




「オレの事、怖いんだ」


「そんな事、ないですっ」


「ウソ。
身体震えてる」



「ぁ…………っ」



どうしよう。
何 されるのかな。

ぶたれる?

痛いのイヤだな…。


あたしはそんな恐怖感から、ギュッと目をつむった。




「……みんなそうやってオレの事、怖いのか知らないけど、近寄らないんだよね」



「えっ」



そうぼやいたご主人様の言葉に、あたしはつむった目を開いた。


さっきまで怖そうな顔してたのに、今は何だか寂しそうな表情に見えたんだ。



「やっぱ金持ちって、何考えてるかわかんねーって感じ?」



「や、その……っ」



「クラスメイトを軟禁してペットにして、挙げ句ご主人様なんて呼ばせて。
本当は、コイツヤバい奴って思ってんだろ」



「そんな事ないですっ!
あ、あたしはっ、お父さんの借金を待っててくれてるんだから。……ペットになってご主人様って呼ぶ事ぐらい何とも思ってない、全然平気です」



500万なんて大金を返せない場合って、普通は家とか追い出されたりするんだよね?

住む所もなくなって食べるものも買えなくって。


なのに、お母さんがパートで働いて返していく間、あたしをここで働かせるだけで待っててくれる。


怖いどころか、感謝しなくちゃ……。



「……ペットになる事ぐらい全然平気、ね。
じゃあ覚悟できてるんだ」



「も、もちろんです!」



……なんて言ったものの、どんな覚悟なんだろう。


ええい、こうなったら何だってバチコイよ!!




「じゃあさ、目ぇ閉じろ」


「へ?」


「いいから!
……命令、きくの? きかないの?」


「き、ききます!」



言われた通り、あたしはギュッと目を閉じた。


うわぁ……ぶたれるんだぁ。
痛いよねぇ。

でもそれで済むんなら、ぶたれた方が……。





「そんな力入れてんなって。
普通に目、閉じてろ」



「は、はいぃ…っ」



そんな事言われたって、今からぶたれるかと思ったら力入っちゃうよぉっ

でも命令なら従わなきゃ!

力抜いて、普通に………




「……………っ!」



唇に触れた柔らかい感触に、思わず目を開けてしまった。



すると最初に見えたのは、目をつむったご主人様の顔だけだった。



え……あたし……



まるで今だけ時間が止まってるんじゃないかってぐらい、長く感じた、キス。



すぐ目の前には、ご主人様の長いまつげがこんな近くにあるよぉ!



あまりに予想外の出来事に、もう全ての思考回路が停止状態だった。



なんで?
なんでご主人様はあたしにキスを………っ







「ご……主人 さま……っ」



そっと唇が離れて、ようやくあたしはそれだけ言う事ができた。


多分、今あたしの顔は果てしなく真っ赤だ!
見なくてもわるよぉ!!




「勝手に目、開けたな」



「……はっ
ご、ごめんなさいっ!
だって、まさか……っ」



「いけなかった?
ペットにキスしちゃ」


「あっ、いえ、そんな事は……っ」



ペットにキス。
もちろんそんな飼い主だって、探せばいなくはないだろうけど……っ




「美咲……」


優しいって言うか何て言うか。


だから、ひどい事をされてるとか、そんな感じはまるでないの。



「……お風呂、準備できてるんだったね。
行ってくるよ」


「あ、は、はいっ!」


あたしの横をすり抜けて、ご主人様はバスルームに向かう為に部屋を出て行った。


もう、いつものご主人様に戻ってるみたい。




……え、ていうかあたし、キスされちゃったんだよね!?


信じられないけど、ホントなんだぁぁ!!



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