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●あたし、一緒には帰れません!?
しおりを挟む「おはよー。
あれ、まどかったら早速遅刻?」
始業ベルが鳴り響く中。
思い切りダッシュで教室に滑り込んだあたしに、前の席の琴乃が身を乗り出して言った。
「はぁ……はぁ……
お、おはよ……っ」
琴乃は入学して初めてできたあたしの友だち。
席が前後になってるから、琴乃の方から話しかけてくれたのだ。
「先生まだ来てないからよかったね」
「うんっ」
……ふと、チラッと窓際前の席に座る理央クンを見る。
「………」
まるで何事もなかったかのような、いつものポーカーフェイス。
いくら秘密だからって、まだ全然学校から離れてる場所であたしを下ろして車で先に行っちゃうんだもん!
おかげで全速力で走り、すっかり遅刻しそうになってしまったわけだ。
一緒に車に乗せてくれるんだから、てっきり最後まで乗せてくれるって思うよねっ
でもやっぱり、一緒にいる所は誰にも見られない方がいいんだろうな。
それにしても、学校に来てしまうと昨日と全く変わらないと感じる。
いつも通りの教室に、いつも通りのクラスメイト。
理央クンの様子もいつも通りだし、まるでホントにあたし理央クンのペットになっちゃったんだっけ?って思っちゃうくらいだ。
だけど、そっと制服の襟に手を入れて首もとに触れると、理央クンに付けられたチョーカーが間違いなくあった。
……やっぱりあたし、理央クンのペットになってるんだよね。
授業中、何度も理央クンを見てしまう。
授業は真剣に受けてるけど、お昼休みとかずっとひとりぼっちだ。
男子は誰も話しかけないし、女子は(やっぱりイケメンなのもあって)影でキャイキャイ聞こえる事もあるけど近付いたりはない。
というか、近づき難い雰囲気なんだろうなぁ。
あたしはチョーカーを首輪としてされたり、寝顔を見たり、着替えもしてあげたり。
下手くそなご飯も食べてもらったりだけど、それは全部ふたりだけの秘密なんだもんね……。
__さて。
学校に行く時は途中から歩かされたんだけども。帰りは……どうするんだろう。
特にそんな打ち合わせなんてしていなかったから、どこに待ち合わせとか何時にとか指定されていない。
理央クンは教室を出てサッサと行っちゃうし、あたしが付いて行くわけにいかないし。
え、まさか歩いて理央クンの家まで帰れって事?
学校と理央クンの家を繋ぐ道は、結構距離があったよぉぉっ?
「…………はぁ……」
いつも帰る道とは反対の道を、トボトボと歩く。
今日の晩ご飯は何にしようかな。
あたしがひとりで作れる料理って、カレー以外に何があったっけ。
えーっと、中学校の時の調理実習、何作ったかなぁ……
……なんて考えながら歩いていると、プップッと車のクラクションが鳴ったのが聞こえて、あたしは振り返った。
「サイさんだ!」
サイさんの運転する車があたしの歩く先に停まったので、あたしは駆け寄った。
運転席から出て来たサイさんは、後ろのドアを開けてあたしを招いてくれた。
「すみませんね。
先に理央様を家まで送ったので、まどかさんの迎えが遅くなりました」
「理央…ご主人様は、先に帰ったの?」
「えぇ。
あまりまどかさんと一緒にいる所を人に見られてはいけないからと、敢えてまどかさんを置いて帰られたのです」
……あぁ、なるほど。
てゆーか、この車に乗って帰ったら、あんまり意味ないんじゃないかなぁ。
ま、いっか。
あたしは車に乗り込むと、サイさんの運転でご主人様の家へと帰った。
そして____
「パスタ茹ですぎ。
ミートソース塩辛い!」
「う゛っ」
帰ってから結局あたしが今日作った晩ご飯は、スパゲティミートソース。
確か挽き肉を炒めて塩コショウやソースにケチャップなんかで味を付けたら、後は茹でたスパゲティにかければいいハズ。
学校で使ってた調理実習の本は家に帰ればあるんだけど、とりあえず記憶だけで頑張ってみたのだ!
だけど評価としては、あっさり撃沈。
お料理って、難しいよぉ!!
「ごめんなさい……」
なんでもうちょっと、お母さんにお料理を教えてもらわなかったんだろう。
今更後悔しても仕方ないんだけど、でも人に食べてもらうのに美味しくないものしか作れないなんて情けないよぉ。
「美咲、勝手に落ち込んでないでお前も食べろよ。
別に食べられないほど不味いわけじゃない」
フォローのつもりなのかもしれないけど、あんまりフォローにもなってないですよ、ご主人様……。
「……あの、ムリして食べなくてもいいですよ。
ちゃんとしたご飯、サイさんにお願いして作り直してもらいま………あれ?」
ご主人様の前に置かれたお皿を見てビックリした。
割と多めに作っておいたミートソーススパゲティなんだけど、そのお皿の上にはキレイさっぱりスパゲティがなくなっている。
近くにゴミ箱もないから、捨てたってわけでもないんだけど……。
「ごちそうさま」
「えっ?
ご主人様、もしかして全部食べちゃったんですか?」
「そうだけど?
だから美咲も、早く食べろって。
片付かないだろ?」
あんなに酷評ばかりのご飯しか作ってないのに、いつも全部食べてくれる。
「あの…」
クラスメイトをペット扱いして自分をご主人様と呼ばせて、あまつさえ首輪なんかも付けさせて。
最初はヒドい!って思っちゃったし、お金持ちの人とはカルチャーショックがあるのかもって感じてたんだけど……
ホントはクラスで浮いちゃう程、変わった人じゃないのかもしれないな。
「何だよ、美咲」
「ありがとう……ございます」
「は? 何が?」
「だから……ペットのあたしに、優しくしてくれて……」
もしホントに借金返せなくて人質で連れて来られたなら、普通もっとヒドい扱いを受けたよね。
こんな不味いご飯なんか食べさせちゃったら、もうホントお仕置きものかも。
友だちも作らないでひとりでいるご主人様が気になって、後ろの席から見てたけど……。
ちょっと人との付き合い方が不器用なだけで、ホントは心優しい人だったんだよね。
「何ニヤニヤしてんだ」
「えっ、そんな事ないですよぉ?」
「…………」
「エヘヘ」
「……わかった。
もっとヒドくしてほしいんだな?」
「へ?」
ニタリと、ご主人様の口元が上がった。
あれあれあれ?
あたし、何か墓穴掘っちゃった?
「食べたらすぐに風呂の準備をしとく事!
風呂が終わったらお茶を入れて肩もみする事!
明日の体育、体操服の準備と日課を揃えるのも今日から美咲の仕事!
それから__」
「わぁぁ!
もういいです! もういいですー!
お風呂、すぐに入れますからーっ!!」
「ははっ
冗談だよ」
わぁっ
今ほんの一瞬だったけど、ご主人さまが笑った!!
それもすぐに戻っちゃったけど、初めて笑った顔なんて見れてラッキーだね。
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