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➁
しおりを挟む__あれから少し経った頃。
「あ、おはようございまーす」
カーテンの向こう側である寝室から、理央クンがノソノソとこちら側にやってきた。
「朝ご飯、できてまーす」
あたしの声かけに何も応えないで、理央クンはソファに腰掛けて食べ始めた。
「美味しいですか?」
昨日のカレーじゃないけど、ベーコンエッグにトーストなら誰が作っても同じ味だもんね。
さすがにもう10点なんて事はないよー!
「……冷めてて味気ない」
「ええええっ!!」
「それに、ちょっと焦げてる。
10点」
「ううぅ……っ」
火加減は慣れてなかったから仕方ないとして、冷めちゃったのは理央クンがお寝坊してたからでしょ!
…なんて思ったけど。
でも、理央クンは残す事なくみんな食べてくれた。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでしたー!」
10点なんて酷評だけど、ホントはスゴくおいしかったんじゃないのかなぁ。
お皿も舐めるようにピカピカになるまでキレイに食べてくれたので、作ったあたしとしてもスゴく嬉しかったりするんだよねっ!
「美咲。
いつまでボーッと立ってるつもり?」
「へ?
あぁ、すぐに片付けますっ」
「それは後からでもいいんだよ。
それより、早く制服に着替えないと、学校遅れるだろ?」
「そっか!
すぐ着替えてきます!」
「オレの着替えをするんだよ!」
「えぇーっ!?」
って、あたしが理央クンの着替えをするのー!?
ぐいっと手を掴まれたかと思うと、あたしは理央クンの方に引き寄せられた。
「えーじゃないよ。
オレの着替えも、美咲の仕事だから」
カルチャーショックってヤツなのかな。
お金持ちになると、男子高校生でも使用人に着替えさせるものなのー!?
っていうか、昨日までサイさんがやってあげてたのかなっ
「ほら、遅刻するだろ?
早くしろよ」
「は、はいっっ」
まさかそんな事まで仕事だとは思わなくて、既にドキドキし始めた心臓を抑えようと必死になる。
震えそうになる手を伸ばし、あたしは理央クンのパジャマのボタンに手をかけた。
「………っ
………っ」
ひとつ、またひとつボタンを外していき、だんだんと理央クンの胸元が見えてくる。
すぐ目の前では、理央クンがこっちを見てるので顔を上げられない。
こんなにも息がかかりそうなくらい近いの、初めてだから緊張しちゃうよぉぉっ
「…………っ
………っ」
全部のボタンを外したらパジャマを肩から脱がせ、すぐ近くにかけてある制服を着せてあげた。
……ふぅ。
なんとか終わらせられ……あっ!!
もしかして、まさか、下、も………!!!?
「あー、ちょと待て」
パジャマのズボンに手を伸ばしかけて、理央クンがそれを止めた。
ドキドキ緊張がマックスで、息が苦しい。
は、早く終わらせたいんだけどぉっ
「……あ、後は自分でするからっ
美咲も早く制服に着替えろ」
「は、はいぃっっ」
急に顔を赤らめながら背を向けた理央クンに、あたしは逃げるように部屋から出て自分の部屋に入った。
ビックリした!
ビックリしたーっ!
いくらメイドでも、そんな事しないよねっ
理央クン、うっかりしてたんだよねっ
自分を落ち着かせる為にも、あたしはなるべく頭を空っぽにしながら自分の着替えに集中した。
そして着替え終わると、冷静に冷静に理央クンが支度を済ませて出てくるのをドアの前で待つ。
「……着替えたな。じゃあ行くぞ。
いいか? 学校じゃご主人様なんて呼ぶなよ。
お前がオレのペットなのは、ふたりだけの秘密なんだからな」
あたしの首元に手を伸ばした理央クンは、制服の襟から覗くチョーカーを隠すように押えた。
「は………はい……っ」
うん、ふたりだけの秘密だ……。
玄関まで一緒に下りると、ドアの先に昨日あたしが乗せられた黒く長い車が用意されていた。
その側にはサイさんが立っていて、タイミング良くドアを開けた。
「美咲、早く乗れ。
それとも、ここから歩いて学校に行くか?」
先に車に乗った理央クンがわざとらしく庭の方を見た。
……道路に出るまですらも時間がかかりそうなくらい、だだっ広い理央クンの家の庭。
ここから歩いて学校だなんて、冗談でもウケないよーっ
慌ててあたしも車に乗り込むと、車は学校に向かって走り出した。
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