紫に抱かれたくて

むらさ樹

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それから

あたしはあらかじめオーナーにお願いして、次の土曜日にはお休みをもらった。

この土曜日は、紫苑が“club-shion”に確実に来る日。
来るとわかっているなら、やっぱり行きたいもの。
…煌にどんな顔されるかわからないけどね。


「…!」

仕事のシフトを見て、あたしはドキリとした。
凛も土曜日は休みになっている。

たまたま?
それとも、紫苑が来るって知っているから?

前回はクロウを使って、あたしを監視させた凛。
今度は、あたしの方がクロウを利用してやるんだから!



「あれ~?
愛さんも土曜日はお休み取ったの?」

そんな事を考えているなんて知らないだろう凛が、あたしに声をかけてきた。
仕事も終わった、控え室の中で帰り支度をしている時だった。

「てゆーか愛さん、クロとはどうだったぁ?
クロのプレイって、超激しくって現実忘れちゃうでしょ」

ニタニタしながら話してくる凛に、あの日の事を思い出してはイラッとする。

「アタシもね、紫苑にいーっぱい愛してもらっちゃって、もう何回もイっちゃったぁ。
やっぱ紫苑とのエッチは超最高だもん!」

グサリと、胸の奥に何かが突き立てられた感覚がした。
ケラケラ笑う凛に、もはや怒りを通り越したものを感じる。

よりにもよって凛との話なんて、聞きたくもない。

凛にも優しく丁寧に抱いた紫苑にもショックだし、あたしを出し抜いてまで紫苑を買った凛には猛烈に腹も立つ。

だけど、それが凛の狙いなのもわかってるから、あえてあたしは冷静になる努力をした。

「紫苑なんて、お金出せば何でもしてくれるから、人間じゃないみたいだわ」

…自分でも、そんな言葉が出るなんて思わなかった。
でも言ってみて、それも納得できてしまったのにはあたしも驚いた。


「それよりも、煌の方がよっぽどステキよ。
煌の行為には、本物の愛情がこもってるもの。
紫苑みたいなウソの愛じゃないわ」

「キラ?
キラって、あの新人君の事?
やだぁ、愛さんったら頭おかしくなっちゃった?
新人君が紫苑に勝るなんてあるわけないじゃん!」

もちろん、お仕事に本当の愛情なんてのはルール違反なんだけどさ。

でも…
本当の愛情が偽物の愛に勝るのは、間違いないって思った。誰にでもお金と引き換えで抱く紫苑より、一生懸命一途に想って抱いてくれる煌の方が、心を癒やしてくれるものよ。

紫苑は人気なだけあって、お客を気持ちよくさせる腕は確かだ。

でもそれは、あくまでもビジネス。

心を売って女を惑わす汚い仕事だけど、でもそれが大金を使ったオトナの…遊び。


「愛さん意味わかんない。そんなの負け惜しみでしょ?
本物でも偽物でも、気持ち良かったらそれでいいじゃない」

「ぇ……!」

…凛は、初めから遊びってわかってんだ。

そうだ。
ホストクラブの事をシミュレーションゲームって称してたの、凛だったけ。
本気になってたの、あたしだけなんだ…!


「土曜日は“club-shion”の開店3周年記念やるんだって。
愛さんも行くの?」


3周年記念!
だったら紫苑が来るのは間違いないわけだ。

「もちろん。
パーっと遊んでやるに決まってるじゃない!
凛には負けないわよ」

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