紫に抱かれたくて

むらさ樹

文字の大きさ
上 下
50 / 68

しおりを挟む
「じゃあおれは、ビールかな」

「へ?」

これまでの煌なら、ドンペリのタワーとか冗談言ってたのに。
あまりにも普通すぎて、ちょっと拍子抜けしてしまったぐらいだった。


「…そんなんでいいの?」

「え、ダメだったかなぁ」

「ダメじゃないけど…どうせなら高いお酒がいいんじゃないかなって…」

「まぁ売り上げは上がるよね。
でもおれ、愛さんとは飲みたいもので飲んだ方が楽しいから」

楽しい…かぁ。
今まで見てきたクロウとかだと、高いお酒は自分の位置を確立する為のものって感じだった。

ホストたちからすれば、もちろん自分の売り上げになるんだから嬉しいだろうし、注文するお客からすれば、そんなホストたちが喜ぶ事に楽しさを感じる。

それが、ホストクラブの楽しみ方だとあたしは思っている。

でも煌は、何だか違った。

「せっかく来てくれたんだもんね。
おれ、愛さんには楽しんで帰ってもらいたいからさ。
一緒に、楽しんで飲もう?」


…煌はあたしの為に、こんなにも一生懸命だ。
仕事熱心なのは感心だけど、あたしはその言葉だけで十分嬉しいよ。


「うん。
じゃあ、いつも通りビールにしちゃおっか!」

「じゃあガッツリ飲むから、タワーで!」

「え~?
泡だらけで大変な事になっちゃうよっ」


あたしたちは顔を合わると、フッと吹いた。
煌といると、やっぱり楽しいかも!

イケメンホストにチヤホヤされる飲み方もホストクラブの楽しい所かもしれないけど、あたしは煌と冗談を言いながら飲むビールの方が楽しいや。

紫苑はいないけど、煌ならその寂しさを紛らすに打ってつけかもしれないな。

テーブルに注文したビールが届くと、早速ジョッキを持って乾杯した。


「2人の楽しい一時に」

「うん、乾杯!」


カチンとジョッキを合わせると、あたしと煌はグイグイっとビールを喉に通した。



「……ぷはぁ!
やっぱビールは喉ごしだな」

「そうそう、特に最初の一杯は美味しいのよね」

「あれ?
愛さんとだったら、何杯でも美味いんだけどな」

「はいはい、上手い事言っちゃって。
でも、いいわよ?今日は煌をベロベロにするくらい飲ませちゃうから」

「そりゃ楽しみだ!」


ビール程度じゃあ、売り上げの貢献にはスズメの涙だろうけどね。
でも、煌が笑ってくれるならそれでいいかなって。

「……」

…紫苑とホテルに向かったあの日から、煌はまた紫苑に怒られちゃったりしたのかな。

あの時の煌の顔、何だかツラそうだった…。
思い出してほしくないから言わなかったけど、でもちゃんと穴埋めはするからね。

ありがと。
感謝してるわよ、煌。



__そうして煌と話しながら飲んでいると、いつの間にか閉店30分前のラストオーダーとなった。

「わ。
もうこんな時間かぁ」

ベロベロに酔わせるなんて言いながら、結局話に夢中になってる方が多かったので時間は長く居たんだけど、飲んだビールの量はそれほど大した事はなかった。


「さぁって、そろそろ帰らないと。
スゴい楽しかったわ。
また来るわね、煌」


ソファに沈めていた腰を浮かしながら、あたしは会計しようとバッグから財布を探した。

すると煌は、そんなあたしの腕を掴んで財布に伸ばした手を止めてきた。


「…よかったら、この後も延長しない?」

延長。
それってつまりここを出て、引き続き出張して一緒に過ごさないかって事だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カプチーノ アート

むらさ樹
恋愛
気になる人がいるの 結婚して子どもまでいるのに、私は 「あの、見ましたっ ラテアートのハート…!」 主人とは違う男性に 特別な気持ちを抱いてしまっていたの……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹
恋愛
私…誘拐されちゃった!? 春うらら 明日から社会人1年生になるってのに、まさか銀行強盗の人質になり、更には誘拐までされてしまうなんて! でも私にとってのまさかは、人質になってしまう事なんかじゃなかった 人質になったからこそ出会えた 誘拐されたからこそ惹かれた そんな銀行強盗兼誘拐犯な、彼 そして、私 でもこれから 一体どうなるの…?

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

ひな*恋 〜童顔ひな子の年の差恋愛(ノベル版)

むらさ樹
恋愛
端から見れば、普通の高校生カップルかもね 「ひな、何食う?」 「あ、ゲーセン寄ってかね?」 もうすっかり忘れていた若い頃の遊び方 「うち来なよ。 しばらく親、帰って来ねーから」 「初めて? じゃ、バージンもらい!」 その年の差 12歳 もっと遅くに生まれてればよかったって思った …ううん せめて年相応の姿ならば、諦める事ができたのかもしれないね ******* 「…よかったら、途中まで送らせてもらえませんか。 今度は、個人的な理由かもしれませんが…」 「かわいい人だなって、思って見てました。 僕も…男ですから」 お互い結婚適齢期を過ぎちゃってるかな 童顔な私を子ども扱いせず、オンナとして見てくれる 「ずっと、ずっと僕があなたを守っていきます。 だから…ずっと、ずっと僕の側にいて下さい」 その年の差 9歳 ─W 年の差 恋愛─ 私も真剣に考えなきゃならない 結婚 だけど…っ 「俺、ひなとずっと一緒にいたい」 ダメ ダメなの 私はキミとはつり合わない 見た目はキミのようにヒナだけど 心はキミ以上にオトナなの! 「好きだよ、ひな。 俺やっぱ、ひながいい」 好きになっちゃ、ダメ だって私は キミの母親になろうとしているのよ…! ※既出漫画コンテンツ、ひな*恋のノベルバージョンです! むしろこちらが原作で、そこから漫画をアップしました。もしよかったら、どちらもドゾー!

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...