紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「いくら紫苑から直接聞いた話じゃなくても、アタシとの時間に他の女のものを身に着けられたのよ?
そんなアタシの気も知らないで、夜は断られたとか言ってくれちゃって。
こっちは気分最悪よ!」

…凛が、あたしを目の敵にした理由がようやくわかった。

お金で買った愛とは言え、2人きりの甘い時間によく知る女の贈ったものなんて見たくなかっただろう。

いくら後から知った話でも、自分と一緒にいる時に微塵でも他の女を意識して欲しくないものだ。

それを知った時の凛の気持ちは…わからなくもない。
…だけど。

紫苑は凛の恋人なわけじゃない!

凛との約束の時に何の腕時計をしていようが、それは紫苑の勝手だもの。
あたしを逆恨みするなんて、お門違いだわ。


「………………………っ」

「………………………っ」

あたしと凛は、そのまましばらく睨み合った。

人を平気で陥れる事も出来る、女の嫉妬。

凛とは、最悪な意味でのライバルとなった。


決して手の届かない紫苑を巡っての、女の戦いのような…。












「ありがとぉっ
また来てね~」

接待の終わったお客と外まで一緒に出ると、あたしは手を振って見送った。

もちろん毎回上の部屋を利用するお客ばかりじゃない、お酒飲んで愚痴聞いてあげるだけのお客もいる。

これで何人目かのお客を見送ると、時間はもう11時を回っていた。


あの日から3日ほど経つが、以来ここに徹は来なくなった。

そりゃあそうよね。
あたしが警察に通報していないだけで、本当なら捕まってもおかしくない事をしたんだもの。

それでいて何食わぬ顔でここに来たら、よっぽど神経おかしいに違いないわ。
…いや、アイツなら既に十分おかしいか。


大金を叩いてまで通っていた常連客を逃したのは大きいけれど、だからってそれで自分に被害が出るのは尚更冗談じゃない。

アパートに帰る時は、用心の為必ず化粧は落として明るい道を通ろう。



見送ったお客の姿が見えなくなると、あたしは踵を返して仕事に戻ろうとした。
すると丁度その時、こっそり持ち込んでいたケータイが振動した。

基本、仕事中にケータイを持ち歩くのは良くないんだけどね。
でも今のあたしには、すぐにでもメールを確認したい事情があるのだ。


あたしはそのまま店内には戻らず、2階に上がってスタッフ用のトイレに駆け込んだ。

個室に入って鍵をかけると、ケータイを開きメールボックスを開ける。


「…………来た!」

メールの相手は、先日連絡先を交換した煌からだ。

最初は仲の良くなったお客を自分の所にキープする為の、ホスト流のやり方なんだと思ってた。

だけど煌からの提案は、あたしが紫苑との時間を得られ易くなるようにするための連絡だったのだ。


Frm ; 煌
Sb ; (無題)

今、紫苑さん入ったよ。
こんな時間だから、きっとラストまでいると思う。
今から来れそう?

 ―――――――――

メールの内容は、紫苑がお店に来た事を知らせるものだった。


12時には閉店する筈なのに、11時に来る事があるんだ。
紫苑は忙しい身だから、お店に来る時間ってのはきっとまばらなんだろうな。

だけどこんな時間にお店に来るって事は、この後の予定はない…のかしら。

誰かと夜の約束を入れてるなら、わざわざ閉店1時間前に来る?


「……………………」


少し迷った挙げ句、やっぱり気になってあたしは煌にメールを返信した。


 ―――――――――



To ; 煌
Sb ; Re

教えてくれてありがとう。
今からはちょっと無理なんだけど…
お店の後とか、紫苑は忙しいかな?
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