紫に抱かれたくて

むらさ樹

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すぐに身を引きながら顔を背けたのだけど、自販機を背に身体を押し付けられてしまった。

「愛してるよ、愛ちゃん。
愛ちゃんはもう、僕のものだ。
僕の…」

「ちょ ちょっと!待っ…」

両手首を力いっぱい握られて、抵抗しようにも力じゃ適わない。

え?
これってまさか、もしかして………。

徹の顔があたしの首筋に埋まり、その汚らしい舌がヌメヌメと這っていった。

「やっ」

身体を押しのけようと抵抗を試みたが、掴まれた手首が思うように動けない。

身体全体を密着させるように押し付けられ、余計に力が入らなくてあたしは徹にされるがままになっていた。

「や やめ…っ」

身体をいやらしくまさぐられては、首筋を強く吸われる。

基本お店でやってるプレイは本番はもちろん、痕が残るような行為は禁止している。

だからだろう。
今はお店でのサービスでもない、外であるオフの時間。

明らかにキスマークをつけられてる感覚に、ゾクゾクと身が震えた。


「ダメ!
ダメよ、徹ちゃん!
ここはお店じゃないんだからっ」

「愛してる…愛してるよ…」

「………………っ」

あたしの言葉など、もう全く耳に届いていない!
このままじゃあ、徹に力ずくで屈されちゃう…っ!!


「!!」

あたしの身体をまさぐる徹の手が、脚を伝ってスカートの中に侵入してきた。

「今日こそは1つに結ばれようね。
僕と愛ちゃんの、愛の証だよ…」

そう言ってあたしを自販機に押し付けたまま、徹は自分のズボンのベルトをカチャカチャと外しだした。


「いや!
いや、ダメ!!
誰か…誰か、助けて!!」

動けなくて逃げられない身体が、とうとう恐怖感に耐えられず震えてきた。

これまで散々あんな仕事をしてきたのに。
だけど初めて受ける男の力による乱暴には、怖くて視界さえも涙で歪ませた。


「ぃ いやぁぁあっ!」

まさかこんな事になるなんて…っ!
だって、だって紫苑と会えると思って…っ




「…お前っ
何やってんだ!!」


ふと、徹に押し付けられてた身体が急に離れた。

支えを失ったあたしの身体がカクンと力が抜け、その場にペタンと座り込んだ。


「なっ、何なんだお前!
僕と愛ちゃんの邪魔をするな!」

「ふざけるな!
警察に突き出してやるっ、このレイプ野郎!」

目の前で、徹が誰かに押さえ込まれている。
そして振り上げたその拳は徹の顔に命中し、その音と悲鳴があたしの耳に聞こえてハッとした。

自販機の明かりが、ジーンズにジャケットを羽織りサラサラと揺れる猫っ毛を照らした。


「ぁ…………」

多分、仕事が終わった帰りで近くを通ったんだろう。

尚も徹を殴ろうと振り上げた腕を、あたしは急いで止めた。


「もういい、もういいのよ!
煌…っ!」

「どうして止めるんだよ!
コイツは愛さんに…っ」

「彼はお客さんだから、もう…」

あたしと話している隙をついた徹が、油断した煌を押しのけた。


「ぅわ!
コイツ…っ!」

しかし、そのまま全速力で闇に走り去ってしまった徹は、すぐに姿が見えなくなってしまった。



真夜中の静寂に、あたしと煌が残った___。





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