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時間になると、あたしは約束していた場所に立って待っていた。
“club-shion”に行く時は他のお客を意識して少し派手な服を選んでいるのだけど。
でも今日は紫苑と2人だけで会うのだから、紫苑のイメージに合わせて高級感はあるけど若干大人しめ。
そういえば紫苑の私服は見た事がないなぁ。
お店で見るのはいつもきちんとネクタイを締めたスーツ姿だ。
明るい茶髪によく似合うダークカラーが印象深いのよね。
今日は、あたしにしか見せない紫苑を目一杯、楽しまなきゃね…っ!
「こんにちは。
待たせちゃったね」
「っ!」
もう何度目かわからないケータイの時計を見た時、あたしに声をかけてくれたのは紫苑だった。
深い紫色のシャツに、黒いジャケットを羽織った服。
ネクタイこそは締めていなくて、シャツからはセクシーな鎖骨を晒している、オフの日らしい姿だった。
「紫苑!
よかった、会えて」
「え?ふふっ
会えないと思ったのかな?」
あたしの妙な言葉に紫苑は変な顔せず、相変わらずの柔らかい笑みを見せてくれた。
やっぱり、紫苑のこの笑顔は素敵。
こんな間近で、しかも今はあたしのひとり占めだなんて…!
「お腹、空いちゃったよ。
早く、行こ」
「うん、そうだね」
ねぇ、今日はどこに連れて行ってくれるの?
どんな話を聞かせてくれるの?
期待に胸を膨らませながら、紫苑に並んで歩こうとした時。
「…!」
紫苑はあたしの肩をギュッと抱き寄せてくれたのだ。
ビックリしたけれど…でもそれがだんだんと安心感に変わって…
それだけで、スゴくドキドキさせられる。
紫苑流のデートが、早速始まったんだ…!
紫苑に連れられ入ったのは、ちょっとオシャレなファミレスだった。
高級なフランス料理とかそんな敷居の高いお店だったらどうしようかなんて思ったんだけど、案外そんな事はなかった。
「もっと違う所がよかったかな?」
「ううん、このくらいがいい」
「ねっ」
…まるであたしの事を知っているかのよう。
いくら身体を張った高給取りなあたしだけど、食事はむしろ適当な生活を送っているもの。
こんなファミレスならナイフやフォークみたいなマナーも堅くないし、気楽に食事ができる。
ウエイトレスに案内された席に着くと、あたしと紫苑は少し悩んだ結果、日替わりランチを2つ頼んだ。
「好きなもの、頼んでいいんだよ。
デザートは?」
「うん。
でも甘いものは太っちゃうし」
「この抹茶あずきなんかはそんなに甘くないし、案外女性には良い栄養が豊富だったりするよ」
「じゃ、頼んじゃう!」
紫苑の言葉はまるで魔法みたい。
何でもすんなりあたしの中に入り込んじゃうみたいだもの。
オーダーをかけた後。
ご飯が来るまでの間に、あたしはバッグから例のプレゼントを取り出した。
「そうだ。ね、紫苑。
これ…よかったらもらって」
「え、僕にくれるのかい?
ありがとう。何だろうな」
あたしからプレゼントを受け取ると紫苑は、外装の紙袋を開き中の箱を開けた。
「……………へぇ…。
とてもお洒落で素敵なROLEXだね」
「紫苑に似合うものをと思って選んだの。
着けてみてよ」
「うん」
箱から取り出した腕時計を着けている間、あたしはずっと紫苑を見つめていた。
嬉しそうな顔しているけれど、でもこんなプレゼント、もう既に何人かの女からあったんだろうな。
なのにそれを感じさせない紫苑に、思わず期待しそうになる気持ちをあたしは無理やり抑えていた。
「わ。
よく似合ってるよ、紫苑」
左腕に着けた腕時計を見せてくれた紫苑に、あたしは喜んでそう言った。
今日の紫苑は腕時計なんてしていなかった。
まさかもともとしないタイプだったとか?
そんなわけないよね。
「ありがとう。
大切に使わせてもらうね」
「…うん」
何か1つでも、紫苑の側にあたしを残しておきたいから。
いつも会えるわけじゃないから、せめてそんな腕時計1つだけでも…。
なんて、そんな事を紫苑に向かって言えないから、あたしは心の中だけで言ったの。
“club-shion”に行く時は他のお客を意識して少し派手な服を選んでいるのだけど。
でも今日は紫苑と2人だけで会うのだから、紫苑のイメージに合わせて高級感はあるけど若干大人しめ。
そういえば紫苑の私服は見た事がないなぁ。
お店で見るのはいつもきちんとネクタイを締めたスーツ姿だ。
明るい茶髪によく似合うダークカラーが印象深いのよね。
今日は、あたしにしか見せない紫苑を目一杯、楽しまなきゃね…っ!
「こんにちは。
待たせちゃったね」
「っ!」
もう何度目かわからないケータイの時計を見た時、あたしに声をかけてくれたのは紫苑だった。
深い紫色のシャツに、黒いジャケットを羽織った服。
ネクタイこそは締めていなくて、シャツからはセクシーな鎖骨を晒している、オフの日らしい姿だった。
「紫苑!
よかった、会えて」
「え?ふふっ
会えないと思ったのかな?」
あたしの妙な言葉に紫苑は変な顔せず、相変わらずの柔らかい笑みを見せてくれた。
やっぱり、紫苑のこの笑顔は素敵。
こんな間近で、しかも今はあたしのひとり占めだなんて…!
「お腹、空いちゃったよ。
早く、行こ」
「うん、そうだね」
ねぇ、今日はどこに連れて行ってくれるの?
どんな話を聞かせてくれるの?
期待に胸を膨らませながら、紫苑に並んで歩こうとした時。
「…!」
紫苑はあたしの肩をギュッと抱き寄せてくれたのだ。
ビックリしたけれど…でもそれがだんだんと安心感に変わって…
それだけで、スゴくドキドキさせられる。
紫苑流のデートが、早速始まったんだ…!
紫苑に連れられ入ったのは、ちょっとオシャレなファミレスだった。
高級なフランス料理とかそんな敷居の高いお店だったらどうしようかなんて思ったんだけど、案外そんな事はなかった。
「もっと違う所がよかったかな?」
「ううん、このくらいがいい」
「ねっ」
…まるであたしの事を知っているかのよう。
いくら身体を張った高給取りなあたしだけど、食事はむしろ適当な生活を送っているもの。
こんなファミレスならナイフやフォークみたいなマナーも堅くないし、気楽に食事ができる。
ウエイトレスに案内された席に着くと、あたしと紫苑は少し悩んだ結果、日替わりランチを2つ頼んだ。
「好きなもの、頼んでいいんだよ。
デザートは?」
「うん。
でも甘いものは太っちゃうし」
「この抹茶あずきなんかはそんなに甘くないし、案外女性には良い栄養が豊富だったりするよ」
「じゃ、頼んじゃう!」
紫苑の言葉はまるで魔法みたい。
何でもすんなりあたしの中に入り込んじゃうみたいだもの。
オーダーをかけた後。
ご飯が来るまでの間に、あたしはバッグから例のプレゼントを取り出した。
「そうだ。ね、紫苑。
これ…よかったらもらって」
「え、僕にくれるのかい?
ありがとう。何だろうな」
あたしからプレゼントを受け取ると紫苑は、外装の紙袋を開き中の箱を開けた。
「……………へぇ…。
とてもお洒落で素敵なROLEXだね」
「紫苑に似合うものをと思って選んだの。
着けてみてよ」
「うん」
箱から取り出した腕時計を着けている間、あたしはずっと紫苑を見つめていた。
嬉しそうな顔しているけれど、でもこんなプレゼント、もう既に何人かの女からあったんだろうな。
なのにそれを感じさせない紫苑に、思わず期待しそうになる気持ちをあたしは無理やり抑えていた。
「わ。
よく似合ってるよ、紫苑」
左腕に着けた腕時計を見せてくれた紫苑に、あたしは喜んでそう言った。
今日の紫苑は腕時計なんてしていなかった。
まさかもともとしないタイプだったとか?
そんなわけないよね。
「ありがとう。
大切に使わせてもらうね」
「…うん」
何か1つでも、紫苑の側にあたしを残しておきたいから。
いつも会えるわけじゃないから、せめてそんな腕時計1つだけでも…。
なんて、そんな事を紫苑に向かって言えないから、あたしは心の中だけで言ったの。
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