12 / 68
④
しおりを挟む
「おいおい。
そんな質問攻めにしちゃ、彼女が困ってるよ」
「…………………っ」
そう言って煌とあたしの中を割ってきた人物に、あたしは息を飲んだ。
肩にかかりそうな明るい茶髪を手で払いながら柔らかい笑みであたしの側に座った彼は空のグラスを持っていて、あたしの顔を覗き込みながら言った。
「僕にも何か戴ける?」
「し し 紫苑!」
まさか指名もしてないのに、あたしの席に来てくれるなんて思わなかった。
さっきは向こうのテーブルでドンペリを飲んでいたのに?
「す すみません、紫苑さんっ」
紫苑の言葉に、反対側に座っている煌が頭を軽く下げて謝った。
紫苑はあたしに対する煌の接客態度が目に余って、ここに駆けつけてきたんだ。
「悪いけど、君は誰か他のヘルプと代わってくれる?」
「あ、は はいっ」
紫苑は追い払うように手を振ると、煌は席を立って他のホストを呼びに行ったようだ。
あたしがそんな煌を見届けていると、その間に紫苑はテーブルのブランデーのボトルをグラスに注ぎながら言った。
「君、この前も来てくれたよね、ありがとう。
彼はまだ新人だから、失礼な事ばっかりしちゃったみたいでごめんね」
「ううんっ
煌はあたしが指名した子だから、別に…」
「そうなんだ。
なら、僕が来ちゃったらお邪魔だったかな」
「違うの!
永久指名に紫苑を選べないって聞いたから、それで煌を選んであげただけ」
せっかくの初指名だったのに、そんな言い方したら煌はショックを受けるかもしれないわね。
良かった、今は席を外しててくれて。
「そっか…。
ごめんね、僕はいつもいるわけじゃないんだ。
でも代わりに、今は一緒にいるよ」
「本当に!?」
「うん。
彼の失礼の、せめてものお詫び」
そう言って自分のグラスにブランデーを注ぎ終わった紫苑は、あたしのグラスにカチンと合わせた。
やった! 嬉しい!
今日は会えないと思っていた紫苑に会え、しかも指名もしてないのに席に着いてくれた!
面と向かって話まで出来ちゃうなんて、本当にラッキー。
意図した事じゃないけれど、これはある意味煌に感謝かもね。
「ねぇ、そんな安いお酒なんて飲まなくても、もっと高いの注文するから!
何がいい?何でも言って」
今日は多めにお金を用意してる。
タワーみたいなものはちょっと厳しいけど、ドンペリくらいなら大丈夫かも。
高い売り上げでトップへと導いてあげる育成ゲーム。
既にオーナーになっている紫苑には、いくら貢いでもランクには関係ないかもしれない。
でも紫苑に喜んでもらう為、紫苑の得意客になる為、その為なら何でもするつもりになっていた。
「ふふっ
もしかして、君もホストクラブはまだ初心者なのかな?」
「え?」
「いいんだよ、高いお酒を選んでくれるだけが良いお客さんじゃない。
美味しく楽しく、気持ちいい時間を過ごしてもらう事の方が大事なんだ」
…………っ!!
まさか…そんな事を言ってもらえるなんて思わなかった。
「お酒にもいろいろあるからね。
気に入ったものがなかったら、オリジナルカクテルも用意できるよ。
君の方こそ、何でも言ってね」
オーナーなのに、お客を金ヅル扱いしていないその言動。
あたしは…その柔らかい笑みだけじゃない、紫苑そのものに益々惹かれていったのだ…。
そんな質問攻めにしちゃ、彼女が困ってるよ」
「…………………っ」
そう言って煌とあたしの中を割ってきた人物に、あたしは息を飲んだ。
肩にかかりそうな明るい茶髪を手で払いながら柔らかい笑みであたしの側に座った彼は空のグラスを持っていて、あたしの顔を覗き込みながら言った。
「僕にも何か戴ける?」
「し し 紫苑!」
まさか指名もしてないのに、あたしの席に来てくれるなんて思わなかった。
さっきは向こうのテーブルでドンペリを飲んでいたのに?
「す すみません、紫苑さんっ」
紫苑の言葉に、反対側に座っている煌が頭を軽く下げて謝った。
紫苑はあたしに対する煌の接客態度が目に余って、ここに駆けつけてきたんだ。
「悪いけど、君は誰か他のヘルプと代わってくれる?」
「あ、は はいっ」
紫苑は追い払うように手を振ると、煌は席を立って他のホストを呼びに行ったようだ。
あたしがそんな煌を見届けていると、その間に紫苑はテーブルのブランデーのボトルをグラスに注ぎながら言った。
「君、この前も来てくれたよね、ありがとう。
彼はまだ新人だから、失礼な事ばっかりしちゃったみたいでごめんね」
「ううんっ
煌はあたしが指名した子だから、別に…」
「そうなんだ。
なら、僕が来ちゃったらお邪魔だったかな」
「違うの!
永久指名に紫苑を選べないって聞いたから、それで煌を選んであげただけ」
せっかくの初指名だったのに、そんな言い方したら煌はショックを受けるかもしれないわね。
良かった、今は席を外しててくれて。
「そっか…。
ごめんね、僕はいつもいるわけじゃないんだ。
でも代わりに、今は一緒にいるよ」
「本当に!?」
「うん。
彼の失礼の、せめてものお詫び」
そう言って自分のグラスにブランデーを注ぎ終わった紫苑は、あたしのグラスにカチンと合わせた。
やった! 嬉しい!
今日は会えないと思っていた紫苑に会え、しかも指名もしてないのに席に着いてくれた!
面と向かって話まで出来ちゃうなんて、本当にラッキー。
意図した事じゃないけれど、これはある意味煌に感謝かもね。
「ねぇ、そんな安いお酒なんて飲まなくても、もっと高いの注文するから!
何がいい?何でも言って」
今日は多めにお金を用意してる。
タワーみたいなものはちょっと厳しいけど、ドンペリくらいなら大丈夫かも。
高い売り上げでトップへと導いてあげる育成ゲーム。
既にオーナーになっている紫苑には、いくら貢いでもランクには関係ないかもしれない。
でも紫苑に喜んでもらう為、紫苑の得意客になる為、その為なら何でもするつもりになっていた。
「ふふっ
もしかして、君もホストクラブはまだ初心者なのかな?」
「え?」
「いいんだよ、高いお酒を選んでくれるだけが良いお客さんじゃない。
美味しく楽しく、気持ちいい時間を過ごしてもらう事の方が大事なんだ」
…………っ!!
まさか…そんな事を言ってもらえるなんて思わなかった。
「お酒にもいろいろあるからね。
気に入ったものがなかったら、オリジナルカクテルも用意できるよ。
君の方こそ、何でも言ってね」
オーナーなのに、お客を金ヅル扱いしていないその言動。
あたしは…その柔らかい笑みだけじゃない、紫苑そのものに益々惹かれていったのだ…。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)
むらさ樹
恋愛
私…誘拐されちゃった!?
春うらら
明日から社会人1年生になるってのに、まさか銀行強盗の人質になり、更には誘拐までされてしまうなんて!
でも私にとってのまさかは、人質になってしまう事なんかじゃなかった
人質になったからこそ出会えた
誘拐されたからこそ惹かれた
そんな銀行強盗兼誘拐犯な、彼
そして、私
でもこれから
一体どうなるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる