紫に抱かれたくて

むらさ樹

文字の大きさ
上 下
11 / 68

しおりを挟む
そんなわけで永久指名をナンバーワンのクロウと、新人君の煌にした。

なので今日は、せっかく隣に着いてくれている煌と一緒に飲む事になった。


もちろん、こんな新人君に高いお酒を注文なんかしやしない。
適当にブランデーを頼んでロックで飲みながら、彼と話でもしてみた。


「おれ、ここでホスト始めてまだ半月なんです」

「だと思った。
まだ随分若そうだけど、どうしてホストなんてやってんのよ」

どんな仕事でも向き不向きってものがある。
だけど見た感じ彼には、お世辞にもホストに向いてるって雰囲気はしなかった。

別に顔が悪いってわけじゃないんだけどね。


「最初はお金が目的でした。
ほら、トップクラスになると、月500はもらえるって言うし」

…なんて大胆に言ってくるのかしら。
話し方がヘタクソな所とか、これはしばらく新人の域は抜け出せないだろうなと、あたしは心の中で思っていた。


「でも今は、ちょっと違います。
初めてこの世界に入ってホストクラブの実際を見て、思う事が変わりました」

「華やかに見えて、案外厳しいって言うんでしょ」

それは自分の仕事にも通じる部分があるから、何となくわかる。
キレイなドレスを着て一緒にお酒を飲んで、一生懸命お客に気持ちいい思いをさせる。

好きだからできるんだろうって思われがちかもしれないけど、実際はそんなわけない。


「確かに厳しい部分もあるんだけどね。
だけど、そんな仕事でありながらクロウさんや紫苑さんなんかキラキラ輝いている。
おれも、いつかあんな風になれたらと憧れてるんです」

「…………………」

そんな目標を持って仕事してるなんて、思わなかった。

金ヅル女をもてなして、収入以外に何が楽しいのかしら。


キラキラ輝いてる…か。
ドロドロ汚い仕事してるあたしには、絶対ありえない言葉かもしれないな。


「そんなおれも、愛さんみたいな美人なお客さんに指名受けて一歩前進かな」

なんて八重歯を覗かせながら、あどけない笑顔を見せる煌。


「コラコラ、調子乗りすぎ」

「へへっ」

初めて指名を受けたのが、よっぽど嬉しいんだと思う。

作り笑いなんかには見えない彼の笑顔。
これがホストならではの技なんだとしたら、既にプロだと言っても過言じゃないだろうな。



「ね、そういう愛さんは何してる人?」

「え…」

「美人だしセクシーだし、彼氏だっているんでしょう?
22歳くらいかな」

「あー……」

何のイヤミもこもってなどいない煌の純粋な質問攻め。

普通に話がしたくて、あたしの事を訊いてるつもりなんだと思うけど…。

「どっかの会社の受付嬢かな。
こんな所に来るぐらいだから、お金持ちだよね。
もしかしてお嬢様だったりして」

「………………っ」

…そこまで勢いよく訊かれると、なんて返していいか言葉に詰まってしまう。


あたしの仕事は受付嬢みたいな綺麗どころじゃない。
夜な夜なお酒臭いエロジジイに抱かれてお金もらってるような、汚い仕事。

せっかく出来た彼氏もあたしの仕事を知った途端に離れていって、以来あたしは彼氏というものすら作っていない。


そんな事、煌には予想すらつかないでしょうけどね。

そうやって得た汚いお金で、あたしはホストクラブに来てるんだよ…。


「愛さんの事、知りたいんだ。
ね、教えてよ」

「あ…うん…」

大きな目を輝かせながら煌の勢いについ身体を引いていると、そんなあたしたちの席に誰かの姿が覗いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹
恋愛
私…誘拐されちゃった!? 春うらら 明日から社会人1年生になるってのに、まさか銀行強盗の人質になり、更には誘拐までされてしまうなんて! でも私にとってのまさかは、人質になってしまう事なんかじゃなかった 人質になったからこそ出会えた 誘拐されたからこそ惹かれた そんな銀行強盗兼誘拐犯な、彼 そして、私 でもこれから 一体どうなるの…?

処理中です...