紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「あれ…?」

そんな永久指名を決めるホストたちの顔写真を一通り見てみたのだけど、紫苑の写真だけはどこを探しても見当たらなかった。

「愛さん、どうしたの?
指名するホスト、決まらない?」

「ねぇ、この中に紫苑がいないわ。
あたし、紫苑を指名したいんだけど」

永久指名なら、あたしが来る時には毎回紫苑と過ごせるかもしれない。

いつもいないっていう紫苑が今日来てるのも、もしかして紫苑を永久指名してるお客が予め予約入れてたからだったりして?


「えっ、紫苑さん?
あー…多分紫苑さんはオーナーだから、指名リストの中に入らないと思うんだよね…」

多分だなんて。
自信なさげに頭を掻きながら言うあたり、やっぱり彼は新人なんだわ。

「でも、あっちの人見て」

紫苑のいる席の方に視線を向ける。

お客の女と一緒のソファに座り、さも親密そうにグラスを片手に話をしている。

あたしより年くってるケバそうな女。
馴れ馴れしくも、紫苑に身体を寄せている。

でもあれは紫苑を指名したから、あんな風に一緒の席でお酒を飲めるって事でしょ。


「あぁ、あの人は紫苑さんの昔からの常連さんみたいでね、紫苑さんがオーナーになってからもよく来てくれるうちの上得意さんでもあるみたいなんだ」

昔からの常連?上得意?
それくらいにならないと、紫苑を指名する事もできないっていうの?

それじゃあ、まだ2回目のあたしには当分先じゃない!

紫苑と話がしたくてここに来たってのに、しばらくは他の女といる所を指くわえて見てなきゃならないなんてっ。

「あ でも紫苑さんなら時々全体をまわってくれたりするから、全然話せないってわけでもない…と思うよ」

自分のお店の事もあんまりわかってない、この新人君。
よくそんなで、あたしに永久指名の登録をさせようとしたわね。


「じゃあ指名するホストを2人、決めてくれるかな」

「え、2人まで選んでいいの?」

「うん。
うちは定休日もないから休みバラバラで、必ず毎回みんないるわけじゃないんだ。
もちろんどっちもいない時は、その日は誰でも指名できるんだけど」

「あ、そう」

2人まで選べるのは太っ腹だけど、でも紫苑を永久指名に選べないのはつまんない。

でもま、目的の為なら仕方ないかぁ。
時々まわってくるって言ってたから、少しくらいならチャンスあるかもしれないし。

…って。
この時にはすっかり通う気満々になっている自分がいた事に、後から気付いた。


「じゃあ…1人目は、このナンバーワンのクロウにするわ」

どうせ同じ選ぶなら、ランクの高いホストにしよう。

カラスをイメージした髪やスーツで、随分個性的なキャラだった。

「クロウですか。
はい、もう1人は?」

「後は…」

どうせなら真逆のキャラにしてみようか。
クロウみたいにこれといった特徴もなく、ランクも低そうな…

「…ぁ」

ふと、あたしは隣に座る新人君に視線を移した。

まだ二十歳なりたてってとこだろうか、ナヨナヨっとした頼りなさげな雰囲気に、せっかくの白いスーツが着てるっていうより着せられてるって感じ。

いかにもウィッグのような茶髪は、色白お肌には似合うような似合わないような。

「…もう1人は、あなたにするわ」

「えっ
おれですか!」

「そう。
自己紹介、してよ」

「ありがとうございます!
おれ、ヘルプばっかりで指名なんて初めて受けました!
きらって言います」

なんて言って、喜んであたしに笑顔を向けた煌と名乗った新人ホストクン。

ホストクラブは自分の手でトップへと導いてあげる育成ゲーム、か…。

だからって彼をトップにする気なんて、あたしには毛頭ないんだけどね。
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