紫に抱かれたくて

むらさ樹

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永久指名①

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「いらっしゃいませ」

ウエルカムホストに導かれ、あたしは“club-shion”の店内奥へと案内された。


開店直後はお客も少なく、店内の盛り上がりを伺うにはもの足りないだろうと思って、今日は夜の9時頃に来てみたわけだ。

すると案の定お客の入りは多く、店内は既に賑やかになっていた。


「ありがとうございます!
ピンドン入りましたー!」

この一声からホストたち総動員で駆け寄り、みんな声をあげてパフォーマンスを見せる。


「はい、飲んで飲んで飲んで!」

「さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!」


…来て早々にあ然。
ピンドンってのは、ピンクのドンペリニヨン?

10万円からする最高級のシャンパンに、ホストたちは手を叩きかけ声をあげていたのだ。

まるでお祭りのような騒ぎ立て。
もちろん高いお酒を注文するんだから、それくらいの見返りはあってもいいものなんだろうけど。


さて、どんな女がどのホストにオーダーをかけたんだろう。

案内されたテーブルから、チラリとピンドンのあった方を見てみた。

すると…

「あっ」

残りの瓶を一気飲みしたホストの後ろ姿を見て、ドキッとした。


あの金に近い明るい茶髪。
振り向き様に見えた、あの柔らかい笑み。


「キャー!紫苑!」

恐らくピンドンを注文した本人だろう女が、そのホストに黄色い声をあげていた。


__紫苑!!


「ありがとう。
ありがとう、ごちそうさま!!」

まわりのホストたちに手を挙げて声援に応えたのは、あの日初めて来たあたしにも柔らかい笑みを見せてくれたオーナーの紫苑だった。


オーナーだから、いつも店にいるわけじゃないって聞いてた紫苑がいる!

なんてラッキーな偶然!?
それとも、日頃頑張ってるあたしへのご褒美かも!


何にしても、そうとわかれば今日は紫苑を指名したい!

一緒に話をしてみたい。
良いお酒をご馳走したい。


あたしは腰を上げて紫苑を呼んでもらおうとした。
…のだけど。


「えぇっと。
愛さん、いいかな?」

「え?」

この席まで案内し、そのまま一緒にソファに座ったホストがあたしを呼んだ。


「確か、愛さんはここ2回目ですよね。
うちは基本的に永久指名制だから、2回目の時には指名ホストを選んでもらわないといけないんだ」


永久指名。

それはホストクラブを利用するにあたり、指名するホストを固定化させるもの。

前回来た時、我先にと群がってきたホストがいたっけ。

そうやってお客に永久指名を受けようと、自己アピールしてたわけだ。

それがここのお店のやり方なら仕方ないものね。


改めて、喫茶店のメニュー表のように顔写真が載っている冊子を見せてもらった。



まず一番初めに載っていたのが、ナンバーワンのクロウだ。

1ページ丸々使った大胆なアピール。
名前通り黒を基調とした感じが彼のキャラなんだろうな。


次のページにはナンバーツーとナンバースリーの2人が同じページに載っていた。


クロウってのとはまたキャラが全然違うんだけど、でもイケメンには違いないわね。


その次のページからはランクインしていないホストたちが十数名。



今あたしの側にいるホストも写真があって、殆ど終わりの方に載っていた。

しゃべり方もたどたどしいし、きっとまだヘルプ止まりの新人ホストに違いないだろうな。

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