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あら?なんだか都合のいい展開ですね?-2
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色とりどりに着飾った令嬢たちは、パーティの華だ。
そして彼女たちの多くは、まだ夢見がちで、恋の話がとても好きだ。
王子と令嬢が、命の危機にさらされて、たがいにかばい合う。
目の前で見た光景は、本来であれば王宮のパーティに暗殺者が出たという恐ろしい出来事であったはずなのに、あっというまに恋愛小説のようなあまい出来事として塗り替えられていく。
ロゼッタは、目の前の光景を舌をまいて見ていた。
(お見事ですわ……)
今世は平和で、王族は貴族や平民にまでおもねる温厚派だからと、彼らの手腕をあなどっていた。
ロゼッタの両親が、前世では考えられないほど温和な人たちであっても、公爵とその夫人として、時には苛烈なことをやってのけるということは知っていたのに、王族は別だと思っていたのだ。
だが彼らの薫陶を受けている王子の側仕えたちは、この場に残り、恐怖をささやきあう人々の中に紛れ込み、話を王子とリィリィの恋物語へと誘導していった。
この場に高位の女性ばかりが残っているのも、このような話の流れをつくるために、男たちを射手探しに連れ出したのではないだろうか。
もちろん側仕えたちの思惑に、気づいている女性たちもいた。
けれど彼女たちも、側仕えたちの話に同調しはじめた。
側仕えたちの動きに、王子や王族の意思を感じ取り、それを後押ししようとする者もいた。
また王宮に暗殺者が出るという諸外国に知られればどうあっても侮られる事件を、隠し通せないのであればいっそロマンスとして広めてしまったほうがよいのではないかと考えて、同調する者もいた。
あるいは個人的な理由から、王子と成り上がりの男爵令嬢の恋を応援したいと願う者も、いた。
「お相手の女性はリィリィ・ガストン男爵令嬢なんでしょう? 確か、王子の婚約者候補のおひとりでしたわよね」
うっすらと頬を染めて、弾んだ声で言うバスザスト伯爵夫人も、その一人だ。
彼女は数年前、成り上がりの男爵嫡男と結婚している。
はじめは戸惑うことも多かったが、平民あがりの夫は意外なほどしたたかに貴族社会に馴染み、そのくせ妻だけを一途に大切にしてくれるできた男だった。
今ではすっかり夫と愛し合っているバスザスト夫人は、周囲の女性たちが、自分のことをいつまでも「平民あがりの夫に爵位こみで買われたかわいそうな令嬢」として扱い、どんなに自分が夫は素晴らしい人で自分たちは愛し合っているのだといっても信じてもらえない現状にうんざりしていた。
それに、とバスザスト夫人はそっと自分の腹を撫でて思う。
今のままでは、この子も平民あがりの父を持つ子として、貴族たちから侮られかねない。
だがこの国で最も尊い王族のひとりであるクレイン王子が、平民あがりの男爵令嬢と結婚すれば、それよりはずっと爵位の差がない自分たち夫婦のことを「かわいそう」と蔑むことはできなくなるだろう。
子どもたちも侮られることは少なくなるはずだ。
それに、できた夫を側でみてきたバスザスト伯爵夫人は、成り上がりの男爵たちの実力を高く買っていた。
彼らは、まちがいなくこの国の未来を背負う一翼だ。
取り込めるのならば取り込んで損はない、と。
バスザスト夫人は、恋の話に夢中のように見えるきらきらした表情で、リィリィ・ガストンについて高く評価していた知人を見る。
するとおしゃべり好きな知人は、頼もしい笑顔を見せてくれた。
「そうですわ。わたくしの娘はいま、エレメンタール学院に通っているのですが、ガストン男爵令嬢は監督生もつとめていらっしゃる優秀で人望もある方だそうですわ」
「まぁ。エレメンタール学院で監督生を? それは優秀な方なのね」
「とてもかわいらしい方でしたわね。初々しくて。でもエレメンタール学院で監督生をつとめていらっしゃるからかしら。王宮のパーティでも浮かれたところもなくて、とても上品にふるまっていらしたわ」
女性たちは、くちぐちにリィリィを褒め始めた。
ロゼッタは意外な話の流れにとまどいつつも、リィリィへの賛辞を聞いて顔がほころんだ。
だが王子とリィリィの恋を容認しようとすれば、当然、話は現在王子の婚約者と内定しているロゼッタへ飛び火する。
ひとりの夫人が、扇で顔を隠しながら、困ったように口を開く。
「ここだけの話ですけれど……」
そして彼女たちの多くは、まだ夢見がちで、恋の話がとても好きだ。
王子と令嬢が、命の危機にさらされて、たがいにかばい合う。
目の前で見た光景は、本来であれば王宮のパーティに暗殺者が出たという恐ろしい出来事であったはずなのに、あっというまに恋愛小説のようなあまい出来事として塗り替えられていく。
ロゼッタは、目の前の光景を舌をまいて見ていた。
(お見事ですわ……)
今世は平和で、王族は貴族や平民にまでおもねる温厚派だからと、彼らの手腕をあなどっていた。
ロゼッタの両親が、前世では考えられないほど温和な人たちであっても、公爵とその夫人として、時には苛烈なことをやってのけるということは知っていたのに、王族は別だと思っていたのだ。
だが彼らの薫陶を受けている王子の側仕えたちは、この場に残り、恐怖をささやきあう人々の中に紛れ込み、話を王子とリィリィの恋物語へと誘導していった。
この場に高位の女性ばかりが残っているのも、このような話の流れをつくるために、男たちを射手探しに連れ出したのではないだろうか。
もちろん側仕えたちの思惑に、気づいている女性たちもいた。
けれど彼女たちも、側仕えたちの話に同調しはじめた。
側仕えたちの動きに、王子や王族の意思を感じ取り、それを後押ししようとする者もいた。
また王宮に暗殺者が出るという諸外国に知られればどうあっても侮られる事件を、隠し通せないのであればいっそロマンスとして広めてしまったほうがよいのではないかと考えて、同調する者もいた。
あるいは個人的な理由から、王子と成り上がりの男爵令嬢の恋を応援したいと願う者も、いた。
「お相手の女性はリィリィ・ガストン男爵令嬢なんでしょう? 確か、王子の婚約者候補のおひとりでしたわよね」
うっすらと頬を染めて、弾んだ声で言うバスザスト伯爵夫人も、その一人だ。
彼女は数年前、成り上がりの男爵嫡男と結婚している。
はじめは戸惑うことも多かったが、平民あがりの夫は意外なほどしたたかに貴族社会に馴染み、そのくせ妻だけを一途に大切にしてくれるできた男だった。
今ではすっかり夫と愛し合っているバスザスト夫人は、周囲の女性たちが、自分のことをいつまでも「平民あがりの夫に爵位こみで買われたかわいそうな令嬢」として扱い、どんなに自分が夫は素晴らしい人で自分たちは愛し合っているのだといっても信じてもらえない現状にうんざりしていた。
それに、とバスザスト夫人はそっと自分の腹を撫でて思う。
今のままでは、この子も平民あがりの父を持つ子として、貴族たちから侮られかねない。
だがこの国で最も尊い王族のひとりであるクレイン王子が、平民あがりの男爵令嬢と結婚すれば、それよりはずっと爵位の差がない自分たち夫婦のことを「かわいそう」と蔑むことはできなくなるだろう。
子どもたちも侮られることは少なくなるはずだ。
それに、できた夫を側でみてきたバスザスト伯爵夫人は、成り上がりの男爵たちの実力を高く買っていた。
彼らは、まちがいなくこの国の未来を背負う一翼だ。
取り込めるのならば取り込んで損はない、と。
バスザスト夫人は、恋の話に夢中のように見えるきらきらした表情で、リィリィ・ガストンについて高く評価していた知人を見る。
するとおしゃべり好きな知人は、頼もしい笑顔を見せてくれた。
「そうですわ。わたくしの娘はいま、エレメンタール学院に通っているのですが、ガストン男爵令嬢は監督生もつとめていらっしゃる優秀で人望もある方だそうですわ」
「まぁ。エレメンタール学院で監督生を? それは優秀な方なのね」
「とてもかわいらしい方でしたわね。初々しくて。でもエレメンタール学院で監督生をつとめていらっしゃるからかしら。王宮のパーティでも浮かれたところもなくて、とても上品にふるまっていらしたわ」
女性たちは、くちぐちにリィリィを褒め始めた。
ロゼッタは意外な話の流れにとまどいつつも、リィリィへの賛辞を聞いて顔がほころんだ。
だが王子とリィリィの恋を容認しようとすれば、当然、話は現在王子の婚約者と内定しているロゼッタへ飛び火する。
ひとりの夫人が、扇で顔を隠しながら、困ったように口を開く。
「ここだけの話ですけれど……」
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