乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、この恋は諦められません

木村 真理

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エミリオ 13

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抱きしめようと伸ばしかけた手を、止める。
……いまやったばっかの失敗を繰り返してどーする!

けど、眉をひそめて俺を見てくるリーリアは、すごくか弱く見えて。
抱きしめたい、と思ってしまう。

「弱いって?リーリア姉様が?」

だからこそ、俺は首をかしげ、さりげなくリーリアから一歩遠ざかった。
近くにいると、つい抱きしめてしまいそうだからな……。

「ええ……」

リーリアは、あわく笑ってつぶやく。
そーいうの、やめて。
マジではかなくみえて、俺のこの手が、ぎゅってしたいってうずうずするから。

けど……、それはそれとして。
マジか。

とろけそうな金髪に、すけるような白い肌。
どこもかも小さくて華奢なリーリアは、そりゃか弱く見える。
いつもの「ハッセン公爵家の令嬢」の鎧が揺らいでいる今なんて、抱きしめて慰めたいって思わされる。

けど、この人が弱いって、そりゃねーだろ。
貴族基準じゃ、弱いのか?この人で?
それ、いくらなんでも無茶ぶりだろ?

「リーリア姉様。俺は、貴族のことがよくわかっていません。だから俺の言葉は見当違いかもしれねーけど……、俺には、リーリア姉様はすごく強く見えてます」

「え?」

リーリアは、俺の言葉に目を瞬かせる。

「ガイ様を見送った時の気丈な態度もだし、お父様やガイ様が不在の間の手配もしっかりしてただろ。今だって、そうだよ。お父様の行方がわからないって時でも、使用人たちにちゃんと”主人”の顔してみせてるじゃん」

「それは……、わたくしの立場なら当たり前のことです。それに、わたくしはあまりうまくその役目をこなせていませんもの……」

「リーリア姉様の立場なら当たり前かもしれねーけど。俺には、貴族基準なんてわかんねーんだよ。だから、俺は俺の見えてる範囲で考えているんです。俺は、ねーちゃんとマリオがザッハマインの騒動に巻き込まれたかもってだけで、すげー動揺してた。リーリアも覚えているだろ?」

こくん、とリーリアがうなずく。

あ、うっかり「姉様」ってつけるの忘れた。
言葉も敬語使わなきゃダメだったって思い出して、敬語にもどそうとしたのに、ふつーにしゃべるの混ざってしまう。

けどリーリアは、さっきみたいに「姉様をつけるように」とは言わないで、俺のことをじっと見てくる。
その目には、俺だけがうつっていて。
まるで俺の言葉に希望を見出したみたいな顔をするから、俺は調子に乗って、言葉を重ねた。

「リーリアからすれば、情けねーかもしれねーけど。俺らのまわりじゃ、それってフツーだったんだよね。だって、家族だよ?大切な人間が危ない目にあってるかもしれねーって時って、慌てて当然じゃんって」

リーリアが、とまどったように視線を揺るがす。
俺は、じっとその青い目を見て語りかけた。

「お父様とガイ様は、ザッハマインに行ったのは仕事だから、また違うかもだけどさ。でも危険があるのはリーリアだってわかってて、心配してただろ?なのに、自分も仕事に行って、家でも采配ふるってさ。王子のことや、俺のことまで考えてくれててさ」

「それは…、わたくしの立場なら当然のことで」

「うん。リーリアがそう考えてるのは、わかってるって。でも、俺には、それってすげーことなんだよ。貴族基準じゃ当たり前っていうけど、それでもみんながみんなできるって思わねーよ。だから、俺は。リーリアが弱いなんて思わねぇ」

「……そ、れは」

「当たり前のことだろーが、なんだろうが。やるべきことを、ちゃんとやれてるってだけでも、ほんとはすげーことなんだよ、リーリア。俺としては、ほんとはちょっと頼ってほしい。リーリアは、強すぎて、むしろ心配なんだよ」
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