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エミリオは、わたくしのカップにはちみつとミルクをたっぷり入れる。
とろりと、ミルクがお茶に渦をまいて混ざっていく。
濃い薔薇色のお茶が、あわくお茶の色をしたミルク色にと染まっていく。

ぼんやりとお茶とミルクが混ざる様子を見ていると、エミリオが銀のスプーンでお茶をくるくると混ぜてくれた。

「飲んで」

エミリオは優しく、強く、うながすように言う。
わたくしはお茶のよい香りと、エミリオの言葉にぼんやりとしたがって、カップに口をつけた。

こくりと一口お茶を飲むと、あまいあまいはちみつの味がした。
ずいぶんたっぷりとミルクとはちみつを入れるのねと思っていたけれど、いくらなんでも、これでははちみつのいれすぎだ。
お茶の味なんてしない。

けれどもせっかくのエミリオの気遣いだ。
文句を言うのも申し訳なく、無言でお茶を飲み干す。

はちみつ入りミルクのようなあまいあまいお茶はあたたかくて、小さな頃、眠れなくてぐずっていたわたくしにお父様が用意してくださったホットミルクのような優しい味がした。

……お父様。
きっと、ご無事だと、信じているけれど。

お父様は、いま、行方がわからなくて。

あぁ、そうだ。
エミリオに、言わなくてはならないことがあるんだったわ。

わたくしはぼんやりと見ていたカップから目をあげ、エミリオの顔を見る。
たった数日の、わたくしの弟。
まだよく知らないけれど、甘えん坊で人懐っこい、いい子だった。

お父様とお兄様がいらっしゃらない今、この子の存在に救われていたところもあったかもしれない。
そのエミリオとも、お別れになるかもしれない……。

「エミリオ。あなたも、お父様が戻られなかった場合のことを考えると、自分の今後が気になるでしょう。けれど、安心してください。今日、クベール公爵からお話がありました。もしお父様がこのまま戻られない場合、あなたをクベール公爵の養子としてむかえると……」

エミリオまでこの家を去ったら、わたくしはきっと今よりも寂しく思うだろう。
けれど彼の未来は、彼自身に決める余地があるべきだ。

できれば、今はもう少しこの家にいてほしい。
せめて、お兄様がここに戻られるまでは。
けれどもそれは、わたくしのわがままかもしれない……。

エミリオにとっては、もしお父様が戻られなければ今後自分はどうなるのかというのは重要なことだろう。
そう思って、エミリオを安心させようとわたくしが言いかけた言葉は、エミリオに止められた。

エミリオは指をいっぽん、わたくしの唇に押しあてて、言う。

「……いいから、ちょっと黙ってて。リーリア姉様」

ふに、とわたくしの唇を指で押しながら、エミリオが言う。
とつぜん、唇に触れられるなんて思っても見なかったので、わたくしは軽く抑えられているだけなのに、言葉を失う。

おどろいて、じっとエミリオを見た。

エミリオは「はぁ」と大きなため息をつく。
そして、わたくしの手からカップを奪い、カップをテーブルの上に置いた。

……そして。わたくしを、ぎゅっと抱きしめた。
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