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サラベス王が、物憂げにおっしゃった。
「リーリア・ハッセン。ハッセン公爵家の父子の仲の良さは、我々も承知している。そのうえで、その判断。忠義だと褒めてやりたい。しかし、わたしたちもハッセン公爵をむざむざ失うわけにはいかないのだ。彼は、あなたの大切な父であると同時に、この国にとっても大切な軍人なのだからな」
「……おそれいります」
王のお言葉は、嬉しい。
わたくしだって、本音を言えば、お父様を助けに行きたい。
ノレン様に同行するのがわたくしで間に合うのなら、即座にザッハマインへ向かうだろう。
たとえそこが、どんなに危険でも。
けれど実際には、わたくしの魔力ではだめなのだ。
お父様を助けられる時間内でザッハマインへ行けるのは、王に匹敵する魔力をもつ者だけ。
他人を連れて4日でザッハマインへ行くなんて、お父様でもできないわざだ。
「ですが、どうか。今一度お考え下さい。確かに父は優れた軍人です。ですがシャナル王子もまた、この国には欠かせない方。敵が国境障壁を襲撃したということは、この国を敵視しているはず。幼い王子は、かっこうの獲物だとみなされてしまうかもしれません」
必死で言葉をつむいでも、誰の表情もかわらない。
……そうよね。
こんなこと、皆様も承知のことばかりだ。
こんな言葉で説得など、できようはずがない。
それでも、わたくしは皆様を説得しなくてはいけないのだ。
「父は、ノレン様もおっしゃってくださったように魔力も精神力も優れています。ノレン様がザッハマインへ赴かれるまでの6日。きっと異空間で耐えて、待てるはずです。ですから、ザッハマインへはノレン様おひとりでいらしてください。そのころには王城の軍もザッハマインへついているでしょう」
お父様。
今、この瞬間も、お父様は異空間なんて謎の領域で、おひとりでいらっしゃるのでしょう。
お助けできる能力を持つノレン様がいらして、王たちもそれを支援してくださるというのに。
なぜ、わたくしが。
お父様を愛するわたくしが、お父様の救援を遅らせ、お父様の身を危険にさらす計画を推さなくてはならないの……?
……あぁ、お兄様。
せめて、お兄様が傍にいてくだされば……。
「僕、行くよ。リア」
ふわりと、わたくしの震える体を誰かが抱きしめた。
わたくしの肩ほどの小さな細い身体。
わたくしがすがりつけばあっさりと崩れてしまいそうな、大人たちから守られるべき王子。
けれど、間近でみるシャナル王子の目は、とても強い色で輝いている。
「シャナル王子……」
ぼうぜんと、わたくしはつぶやいた。
王子は、わたくしを見て、にっこりと笑う。
「ここにいても、どうせ魔力充ばっかさせられるしさー。ちょっとザッハマインへ行って、ぱぱっとノレンを置いてくる。向こうにはどうせ軍人いっぱいいるんだし、安全は保証付きだって。だよねー?お母様?」
天使のような王子の笑顔に、サラベス王も口元を緩めて応えられる。
「あぁ、もちろんだ。シュリー州の花将門を出たら、あちらの軍人たちがシャナルたちを守ってくれるだろう。シャナルの用は、シュリー州の花将門までノレンを送っていくこと。ザッハマインまでは行く必要はない。シュリー州の州庁で休んで魔力と体力を回復し、戻れそうになったらこちらへまた戻ってきたらいいだろう」
ザッハマインではなく、シュリー州の花将門まで……?
それなら、比較的安全なのかもしれない……。
冷静に考えれば、シャナル王子がザッハマインまで行く必要なんてないのだ。
王子の魔力が必要なのは、花将門を通る速駆の間だけ。
わたくしったら、なんて勘違いをしてしまったの。
愚かな思い違いで、皆様に食い下がって、無駄なお時間をとらせてしまって。
無礼ばかりしているのに、王も、七将軍も、わたくしを責めない。
そして、シュリー州までとはいえ、危険もあり、魔力も大量に使う任務をさらりと引き受けてくださるシャナル王子。
……皆さま、いい方ばかりだ。
これが、グラッハの重鎮。
わたくしは、この国の貴族に生まれたことを心から誇りに思う。
「リーリア・ハッセン。ハッセン公爵家の父子の仲の良さは、我々も承知している。そのうえで、その判断。忠義だと褒めてやりたい。しかし、わたしたちもハッセン公爵をむざむざ失うわけにはいかないのだ。彼は、あなたの大切な父であると同時に、この国にとっても大切な軍人なのだからな」
「……おそれいります」
王のお言葉は、嬉しい。
わたくしだって、本音を言えば、お父様を助けに行きたい。
ノレン様に同行するのがわたくしで間に合うのなら、即座にザッハマインへ向かうだろう。
たとえそこが、どんなに危険でも。
けれど実際には、わたくしの魔力ではだめなのだ。
お父様を助けられる時間内でザッハマインへ行けるのは、王に匹敵する魔力をもつ者だけ。
他人を連れて4日でザッハマインへ行くなんて、お父様でもできないわざだ。
「ですが、どうか。今一度お考え下さい。確かに父は優れた軍人です。ですがシャナル王子もまた、この国には欠かせない方。敵が国境障壁を襲撃したということは、この国を敵視しているはず。幼い王子は、かっこうの獲物だとみなされてしまうかもしれません」
必死で言葉をつむいでも、誰の表情もかわらない。
……そうよね。
こんなこと、皆様も承知のことばかりだ。
こんな言葉で説得など、できようはずがない。
それでも、わたくしは皆様を説得しなくてはいけないのだ。
「父は、ノレン様もおっしゃってくださったように魔力も精神力も優れています。ノレン様がザッハマインへ赴かれるまでの6日。きっと異空間で耐えて、待てるはずです。ですから、ザッハマインへはノレン様おひとりでいらしてください。そのころには王城の軍もザッハマインへついているでしょう」
お父様。
今、この瞬間も、お父様は異空間なんて謎の領域で、おひとりでいらっしゃるのでしょう。
お助けできる能力を持つノレン様がいらして、王たちもそれを支援してくださるというのに。
なぜ、わたくしが。
お父様を愛するわたくしが、お父様の救援を遅らせ、お父様の身を危険にさらす計画を推さなくてはならないの……?
……あぁ、お兄様。
せめて、お兄様が傍にいてくだされば……。
「僕、行くよ。リア」
ふわりと、わたくしの震える体を誰かが抱きしめた。
わたくしの肩ほどの小さな細い身体。
わたくしがすがりつけばあっさりと崩れてしまいそうな、大人たちから守られるべき王子。
けれど、間近でみるシャナル王子の目は、とても強い色で輝いている。
「シャナル王子……」
ぼうぜんと、わたくしはつぶやいた。
王子は、わたくしを見て、にっこりと笑う。
「ここにいても、どうせ魔力充ばっかさせられるしさー。ちょっとザッハマインへ行って、ぱぱっとノレンを置いてくる。向こうにはどうせ軍人いっぱいいるんだし、安全は保証付きだって。だよねー?お母様?」
天使のような王子の笑顔に、サラベス王も口元を緩めて応えられる。
「あぁ、もちろんだ。シュリー州の花将門を出たら、あちらの軍人たちがシャナルたちを守ってくれるだろう。シャナルの用は、シュリー州の花将門までノレンを送っていくこと。ザッハマインまでは行く必要はない。シュリー州の州庁で休んで魔力と体力を回復し、戻れそうになったらこちらへまた戻ってきたらいいだろう」
ザッハマインではなく、シュリー州の花将門まで……?
それなら、比較的安全なのかもしれない……。
冷静に考えれば、シャナル王子がザッハマインまで行く必要なんてないのだ。
王子の魔力が必要なのは、花将門を通る速駆の間だけ。
わたくしったら、なんて勘違いをしてしまったの。
愚かな思い違いで、皆様に食い下がって、無駄なお時間をとらせてしまって。
無礼ばかりしているのに、王も、七将軍も、わたくしを責めない。
そして、シュリー州までとはいえ、危険もあり、魔力も大量に使う任務をさらりと引き受けてくださるシャナル王子。
……皆さま、いい方ばかりだ。
これが、グラッハの重鎮。
わたくしは、この国の貴族に生まれたことを心から誇りに思う。
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