上 下
131 / 190

91

しおりを挟む
がくがくと震える手を隠すように、膝の上においた。
スカートを握りしめていると、隣に座っていたシャナル王子がわたくしの手を上から握ってくださる。

その手の暖かさに勇気をいただいて、スノー様のお顔をまっすぐに見つめた。
スノー様は眉をひそめて、おっしゃる。

「いや……、ハッセン公爵が賊の手に落ちたのか、否か、それすらわかっていないんだよ。なにしろ、このような事態は今までにも聞いたことがないことなんだ」

「それは、どういうことでしょう……?」

スノー様は、言いづらそうに言葉を濁されるけれども、お言葉を待っているわたくしには、言葉を濁らされれば不安が募るばかりだ。
不安で胸がつぶれそうになりながら先を促すと、スノー様は「落ち着いて聞いてほしい」と重苦しくおっしゃっる。

「ハッセン公爵は、ともにザッハマイン襲撃の犯人を追っているシュリー州の軍人たちの前で、姿を消したそうだ。文字通りこつぜんと彼らの目の前で、主犯とともに、姿が見えなくなったという」

「……そ、れは……」

どういう、ことなの?
突然に人の姿が消えた、だなんて……。
あまりにも非現実的なスノー様のお言葉に、わたくしは言葉を失った。

「魔術、じゃないよね?」

わたくしの隣で、シャナル王子も困惑気に尋ねられる。
花将門のような移動用の門を渡って速駆する場合でも、その姿が見えなくなるということはない。
こつぜんと姿を消す術など、聞いたこともなかった。

スノー様は難しい表情でシャナル王子を見ると、小さく首を横に振る。

「いや、一概に魔術じゃないとも言えないんだよ」

そう言って、言葉を濁されるスノー様の横から、卓についてる文官のひとりが手をあげた。

「ここは、わたくしがご説明させていただいてもよろしいでしょうか」

スノー様がうなずいて促されると、文官は「こほん」と軽い咳ばらいをして、口を開いた。

「文化部研究院のジャッタ・ノレンです。禁術……古くに使用が禁じられた魔術の管理・研究をしています」

文官は、シャナル王子とわたくしに短い自己紹介をする。
文化部研究院の研究者は、七賢人とは別種の上官だ。
彼らは国政に関わることはないけれども、それぞれに重要な研究に携わっている。
その多くがわたくしたちには明かされることはなく、謎めいた存在だけれども、目の前の方がその研究者の一人なのか。

ノレン様は、ご高齢の男性だった。
禁じられた術の管理というどこか恐ろしいご研究をなさっているそうだけれども、その英知を宿した眼差しは明るい。

禁術という聞きなれない言葉にとまどうわたくしに、ノレン様は表情を和らげておっしゃった。

「今からきちんと説明します。お父上はご無事である可能性が高いですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

他の令嬢に心変わりしたので婚約破棄だそうです。え?何で私が慰謝料を要求されているのですか?

火野村志紀
恋愛
ツィトー男爵家の令嬢ラピスはマーロア公爵令息リネオと婚約していたが、リネオはラピスの知らぬ間に他の令嬢と恋に落ちていたらしく、婚約破棄を言い渡された。 公務そっちのけで遊び歩いてばかりだったリネオに呆れていたラピスはそれを了承する。 ところが、「慰謝料を払うのは君の家だ」と言い始めるリネオ。 弁護士や裁判官は皆マーロア家と繋がりが深い者ばかり。 愛人になるなら慰謝料を払う必要がないとリネオは言うが、ラピスには受け入れがたい話。両親は世間の目とマーロア家からの援助欲しさに、リネオの愛人になれと娘に迫り…… 「もう疲れました」とラピスは全てを捨てることにした。

悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい

真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。 そして、クラリスのとった行動は……。 断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。 ……なんかすみません。 カオスなコメディを書きたくなって……。 さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)

元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情

ayame
ファンタジー
気がつけば乙女ゲームとやらに転生していた前世アラサーの私。しかもポジションはピンクの髪のおバカなヒロイン。……あの、乙女ゲームが好きだったのは私じゃなく、妹なんですけど。ゴリ押ししてくる妹から話半分に聞いていただけで私は門外漢なんだってば! え?王子?攻略対象?? 困ります、だって私、貧乏男爵家を継がなきゃならない立場ですから。嫁になんか行ってられません、欲しいのは従順な婿様です! それにしてもこの領地、特産品が何もないな。ここはひとつ、NGO職員として途上国支援をしてきた前世の知識を生かして、王国一の繁栄を築いてやろうじゃないの! 男爵家に引き取られたヒロインポジの元アラサー女が、恋より領地経営に情熱を注ぐお話。(…恋もたぶんある、かな?) ※現在10歳※攻略対象は中盤まで出番なし※領地経営メイン※コメ返は気まぐれになりますがそれでもよろしければぜひ。

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...