乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、この恋は諦められません

木村 真理

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ハウアー 5

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だがそれ以降。
リーリアの情報をせっせと収集し、「リアをお嫁さんにしたい」と公言し、人目のあるところで彼女にべったりしたり、「リアのお願いなら魔力補充もするよ?」などと各所にいいふらしているシャナル王子を見ていると、シャナル王子が単純にリーリアを慕って行動しているのかわからなくなる。
なぜなら王子は、そんなあからさまにリーリアに惚れているようにふるまいながらも、時折ひどく冷たい眼差しでリーリアを見ているからだ。

シャナル王子が王になられたあかつきには、その時の王子が本当にリーリアを望み、リーリアが傍にいることでその心に安らぎを得れるというのならば、リーリアを王配に迎えてもよいと思う。

現在のリーリアでは魔力量がすこしたりないが、今後の努力次第では王配としてなら王族に迎えられるレベルの能力はある。
7歳の年の差も、ご本人同士がよいのであれば問題ない範囲だし、シャナル王子が成人する頃、リーリアは27歳。
女性の結婚適齢期としては後半ではあるが、遅いというわけでもない。

成人後もリーリアは仕事を続けるだろうし、正式に官吏となれば覚えることは膨大で、7年などあっというまに過ぎる。
むしろちょうど仕事にも慣れ、結婚を考えるのにいい頃合いだろう。
お二人のお気持ちさえ明らかなら、そのように世間の流れをつくっていくのも難しくはない。

……最大の難関は、リーリア自身だろう。
シャナル王子のせいで、私はリーリアについてずいぶん詳しくなった。

彼女はあの生真面目な性格ゆえ、王子であるシャナル王子の伴侶に自分がふさわしいとは考えていない。
王子の伴侶には、もっと力の強い、王子と年頃の近い女性をと望んでいるようで、時折さりげなく知り合いの令嬢の話をしては、王子が興味をだかないか探っている。

そして彼女自身は、強烈なファザコンかつブラコンだ。

ハッセン公爵もガイ・ハッセンも、ともに黒髪黒目の美形で、軍部に所属しているためか、すらりとしてみえてなかなか逞しい体つきの男だ。
ハッセン公爵はいうに及ばず、ガイ・ハッセンもあの年齢にしては有能で、落ち着きのある頼りがいのある男だという話である。

リーリアにとって、理想の男性像はそういうものなのだろう。

つまり、年下であまえっことしてふるまっているシャナル王子は、彼女の眼中にもない。

王子に膝の上に乗られ、胸に顔を寄せられても、リーリアは完全に子ども扱いをしていた。
女子らしいときめきも、次期王の妻という地位への野心もかけらもなさそうだ。

とはいえ、それもシャナル王子が成長すれば、変わる可能性はあるだろうが。

年齢差は埋められない。
が、精神的に頼りがいのある男になることは可能だし、体を鍛えることもできる。
身長も、今よりは伸びられることだろうし。
7歳年下という現在では不利なばかりの年齢差も、20年後、30年後を見据えれば高ポイントにかわるはずだ。

……とはいえ、何度王子にプロポーズされても、お子様な王子の戯言だとは思わず、毎回きちんと断るリーリアを見ていると、あの鉄壁の生真面目人間に考えをかえさせるのは難しいかもしれないとも思う。

リーリアが親しくしている男は、シャナル王子を除けば父と兄くらいである。
だからおそらくリーリアに好きな男がいないだろうことだけは、王子に有利かもしれない。

礼族の私たちとは異なり、貴族は養子の兄妹が結婚することは多いと聞くが、リーリアは兄も父も同じように愛しているようなので、ただの重度のファザコンブラコンだろうしな。

シャナル王子は、ガイ・ハッセンのことをライバル視しているようだが、それは考えすぎだろう。
……まぁ新しく養子にはいったというエミリオ・ハッセンは、思いがけない伏兵だろうが。

けれど、なによりも。

私は、通りすがりの女官にかわいこぶって笑いかけるシャナル王子を苦い目で見下ろした。

そもそも私には、シャナル王子のお心が、わからない。

リーリアは本当に王子の「お気に入り」なのか。
それとも王子は何かを企んで、リーリアにあまえてみせているのか。

百手先を読む王子のお考えは、私たちにはわからない。
このあまったれた笑顔の下で、彼がなにを考え、望んでいるのか、私にはわからない。

わかったと思った瞬間、それが間違っていると気づかされることなど、よくあることだ。
王子のお考えをすべて知る必要などないと言われればそれまでだが、シャナル王子のそこはかとない得体のしれなさが、不安をあおる。

……私たちは、魔力量が多いとはいえ、こんなにもお心のわからない王子を王にと望んでもよいのだろうか。と。

王の魔力は、国の土台だ。
王の魔力が国を包み、国を導く。
とすれば悪辣な考えを抱く王が王として坐すれば、国は悪辣に染まるのではないだろうか。
そして、シャナル王子はそんな王ではないと、王子のお傍に仕える私には言いきれない。

側仕えとしては失格だろうが、私は最近、そんなことばかり考えている。
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