乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、この恋は諦められません

木村 真理

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だが、公爵はまた養子を迎えられた。
それもリアと釣り合うひとつ年下の少年である。

エミリオとはこれまで受けてきた教育が異なるため、武術や知力は私のほうがずっと上だろう。
が、彼は魔力の扱いは突出して長けていると聞く。

これから成人まで公爵が鍛えれば、彼が次期ハッセン公爵となることも不可能ではないだろう。

そんな少年を今頃養子に迎えられたのは、私にはリアはもったいないと、ハッセン公爵が考えられたからではないだろうか。
ハッセン公爵は、私ではなく、エミリオに公爵家を継がせ、リアを彼の妻にするつもりではないだろうか。

そんなはずはないと思う一方、否定してもしきれない疑いが胸をやく。

ハッセン公爵の座など、リアに比べればなんということもない。
私の実力なら、別の公爵の座であっても望んで得られないということはないだろう。
公爵の座は、ひとつではない。

けれどリアは、この世でひとりしかいない。

今のリアは、兄である私にほのかな想いを寄せてくれているような気がする。
うぬぼれかもしれないが……。
彼女が私を好きだという時、家族としてだけではない気持ちも、いくばくかはあるのではないかと感じるのだ。

けれどそれは、リアがよく知る年の近い異性が私だけだからかもしれない。

実際、私は仕事の能力はそれなりに高いが、人好きのする性格ではない。
公爵家の跡取り候補として社交の術も学んでいるし、それなりに表面は対応できる。
が、基本的な性格は四角四面で融通のきかない面白味のない男だ。
とてもリアのような心の優しい少女が好む人間とは思えない。

……昨夜会ったエミリオは、ずいぶん人懐っこく明るい少年だった。
ああいう人間は、きっと同性にはよき友として、異性にはあまやかな思慕の対象として、人気があるのだろう。
彼が弟として傍にいれば、リアはいつかエミリオに心を寄せるようになるかもしれない。

私が成人しリアに求婚する権利を得る前に、リアが他の男を望めば。
私は自分の願いを口にすることさえ許されず、彼女を永遠に失うかもしれない。
そんな可能性を考えただけで、背筋が凍った。

だから。
最も危険性が高いライバルとして急浮上したエミリオを、牽制するのは当たり前だと思う。

新しく迎える弟にどのように接すべきか悩んでいたリアに、エミリオと距離を置くよう助言した。

年頃の少年だから年の近い異性であるリアが親し気にするのは気恥ずかしく思うだろうとか、異性として好意をもたれていると誤解され戸惑わせるのではないかなど、思いつくままに、リアがエミリオと距離を置かねばと思わせるようなことを囁いた。

それがハッセン公爵のお気持ちに反することであっても、リアとエミリオの間に距離を保たせられるのであれば、私にとっては必要不可欠なことなのだ。

我ながら、姑息なことだ。
けれど、リアを得るための手を抜くなどあり得ないことだ。
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