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お兄様も、本当はわかっていらっしゃるはずだ。
お父様が、お兄様に不満など抱いていらっしゃらないって。

それでも不安に思われることはあるのだろう。
お兄様は、エミリオを弟として迎えることに異を唱えたりされなかった。
けれど、エミリオを養子に迎えるという話を聞いてから、時折こんなふうに不安げな表情をされるようになった。

憂い顔のお兄様も素敵だけど、やっぱり好きな人には笑っていてほしい。
わたくしは手を離し、そっとお兄様の肩に頬を寄せた。

「わたくし、お兄様が大好きですわ」

ゲームの中のエミリオは、公爵家になじめないことから少しばかり性格が歪んでしまっていた。
もちろんゲームのエミリオとわたくしの弟となる現実に存在するエミリオは、別物だ。
けれどゲームのエミリオのことを思案にいれなくても、下層庶民の生活から公爵家の生活になじむのは、大変だろう。
だからわたくしは家族として、彼を大切にしたいと思う。

正直にいえば前世でのゲームの内容を思い出すまでは、この年齢になって急にできた歳の近い弟にどのようにふるまっていいのかまよっていたし、あまり馴れ馴れしくふるまうつもりはなかった。
けれどゲームのエミリオを知ってしまうと、少しばかり馴れ馴れしいくらいのふるまいのほうが、彼にとってはいいのではないかと思い直す。
ゲームの中でも、公爵家の養子である自分に対して屈託なく親し気にふるまってくれたヒロインに好意をもっていたことだし。

……困ったわ。
ゲームの彼と現実の彼は別物だと思いつつ、ゲームの知識から離れられていない。
でも。エミリオがヒロインと恋をしようとしまいとわたくしには関係ないけれど、我が家に迎えた弟のことは、家族としては慈しみたいと思う。
それがこのハッセン公爵家の実子としてうまれたわたくしが持つ、数少ない仕事だと思うのだ。

けれど、恥ずかしくて言えないけれど、わたくしにとってのお兄様は特別で、同じ養子といえどエミリオと同列には思えない。
お兄様にとって、わたくしの想いなんてあまり意味はないかもしれなけれど、お慕いしているという気持ちはお伝えしたいと思う。

すこしでもお兄様の憂いを晴らすことができれば、嬉しい。
子どものように、すりっとお兄様の肩に頬をこすりつけてあまえると、お兄様はそぅっとわたくしの頭をなでてくださった。

「リアには、かなわないな……」

お兄様がわたくしの頭を抱きしめるように手に力をこめてくださるので、わたくしは調子に乗ってお兄様のおひざの上に座り、すりすりと頬をよせる。
おかげでお兄様の表情をうかがうことはできなかったけれど、わたくしの名前を呼ぶお兄様の声音は、さきほどよりも暖かい気がして。
こんなわたくしでも、お兄様のお心をお慰めできたかと思うと、とても嬉しかった。

「お兄様、大好き」

頬から感じるお兄様の体温が、心地いい。
ゆっくりと頭をなでるお兄様の指の動きにうっとりと目を細め、わたくしはいつしかまた眠ってしまった。
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