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召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
28: Side サイラス 10
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妹の葬儀は、サイラスにとって大変なことだった。
まだ若い娘が自ら死を選んだことで、口さがない連中が、あることないこと噂をした。
サイラスたちが金に困り、妹を年寄りの金持ちの後妻として売ろうとし、妹がそれを厭って自ら死を選んだのだ、などと囁かれた。
サイラスは、噂をかきけすためにも、妹の葬儀を立派にあげざるをえなかった。
高い階級の司祭を呼び、棺にいれる花も高貴な百合をふんだんに用意した。
たった一日の葬儀のために、妹が死ぬ前の夜に得た金がなくなりそうな大金がかかった。
だが、葬儀のために金がなくなれば、妹はなんのためにあの一夜をすごし、命を散らしたのかわからない。
妹の死を無意味なものにはしない、と思ったサイラスは、恥をしのんでカミーユに葬儀の金を頼んだ。
サイラスにほれ込んでいるカミーユは、サイラスと結婚したさに金をほいほい出した。
カミーユの両親も、妹の葬儀のためであればと、金を出し惜しんだりはしなかった。
葬儀は、金になる。
ちらりと、サイラスは思った。
もちろん、妹はまだ若かった。
死にさえしなければ、どこかの金持ちに縁づいたかもしれないし、その時にサイラスは大金を得られたかもしれない。
この間のような、貞操も傷つけず、金も得られるという好機も、また舞い込んだかもしれなかった。
そう考えると、葬儀などより、妹が生きていたほうがずっと稼げただろう。
だから、死んでほしいとまでは思わない。
だが、しかし、妹は死んでしまった。
ああ、俺が女なら。
サイラスは鏡を見て、溜息をついた。
いくらでも、年寄りの男と寝台を共にするだろう。
金さえあればの話だが。
そして爺をうまく転がして、大金をしぼりとってやるのに。
若い女だというだけで、金をしぼりとるチャンスはごろごろ転がっている。
幸運にも、妹がチャンスをつかんだように。
なのに、あの妹ときたら軟弱にも、ちょっと爺に触られたくらいで、死を選ぶとは。
俺なら、もっとうまくやるのに。
せっかく俺が食わせてやっているというのに、まったく役に立たないものだ。
だが、妹はもうひとりいる。
まだ幼く、ふつうの男なら触手が動かない幼さだが、需要はあるらしい。
変態のほうが金払いはよいというのが、相場だろう。
なに、年ごろになれば、ふつうの男も金を出すようになるだろうし。
カッシモなら、いい話をもってきてくれそうだ。
サイラスはそう考えていたが、カッシモはしばらくサイラスから足が遠のいていた。
サイラスの妹の死が、カッシモの心を脅かしていたのだ。
カッシモは、自身が遊び人で、周囲の女たちも、貞操を重んじる人間ではなかった。
平民でも貴族でも、遊び慣れた女ばかり相手にしていたので、あの程度のことで死を選ぶ人間がほんとうにいるとは思ってもみなかったのだ。
自分は、とんでもないことをしてしまったのではないか?
カッシモは、初めて自分のしていることに罪悪感を抱いた。
ちょっとしたゲーム、あるいは悪戯程度の悪さをしたつもりだった。
だが、結果はどうだ?
まだ若い少女が、死を選ぶほどの絶望を抱いたのだ。
彼女の未来を、自分が奪ったんだ。
カッシモは、サイラスの屋敷を尋ねたが、サイラスには会わず、サイラスの母の元へ出向いた。
そして、これまでのことを謝罪した。
彼女は昏い目でカッシモを見て、言った。
「ぜったいに許さない」
カッシモは、彼女の前で膝をつき、ただただ謝罪の言葉を重ねた。
カッシモも、サイラスの母も、自分たちの感情に気をとられ、彼女たちに災厄をもたらした男のことを忘れていた。
同じ屋敷に、彼女の息子が、彼女のもうひとりの娘の売り出し先を考えていたというのに。
まだ若い娘が自ら死を選んだことで、口さがない連中が、あることないこと噂をした。
サイラスたちが金に困り、妹を年寄りの金持ちの後妻として売ろうとし、妹がそれを厭って自ら死を選んだのだ、などと囁かれた。
サイラスは、噂をかきけすためにも、妹の葬儀を立派にあげざるをえなかった。
高い階級の司祭を呼び、棺にいれる花も高貴な百合をふんだんに用意した。
たった一日の葬儀のために、妹が死ぬ前の夜に得た金がなくなりそうな大金がかかった。
だが、葬儀のために金がなくなれば、妹はなんのためにあの一夜をすごし、命を散らしたのかわからない。
妹の死を無意味なものにはしない、と思ったサイラスは、恥をしのんでカミーユに葬儀の金を頼んだ。
サイラスにほれ込んでいるカミーユは、サイラスと結婚したさに金をほいほい出した。
カミーユの両親も、妹の葬儀のためであればと、金を出し惜しんだりはしなかった。
葬儀は、金になる。
ちらりと、サイラスは思った。
もちろん、妹はまだ若かった。
死にさえしなければ、どこかの金持ちに縁づいたかもしれないし、その時にサイラスは大金を得られたかもしれない。
この間のような、貞操も傷つけず、金も得られるという好機も、また舞い込んだかもしれなかった。
そう考えると、葬儀などより、妹が生きていたほうがずっと稼げただろう。
だから、死んでほしいとまでは思わない。
だが、しかし、妹は死んでしまった。
ああ、俺が女なら。
サイラスは鏡を見て、溜息をついた。
いくらでも、年寄りの男と寝台を共にするだろう。
金さえあればの話だが。
そして爺をうまく転がして、大金をしぼりとってやるのに。
若い女だというだけで、金をしぼりとるチャンスはごろごろ転がっている。
幸運にも、妹がチャンスをつかんだように。
なのに、あの妹ときたら軟弱にも、ちょっと爺に触られたくらいで、死を選ぶとは。
俺なら、もっとうまくやるのに。
せっかく俺が食わせてやっているというのに、まったく役に立たないものだ。
だが、妹はもうひとりいる。
まだ幼く、ふつうの男なら触手が動かない幼さだが、需要はあるらしい。
変態のほうが金払いはよいというのが、相場だろう。
なに、年ごろになれば、ふつうの男も金を出すようになるだろうし。
カッシモなら、いい話をもってきてくれそうだ。
サイラスはそう考えていたが、カッシモはしばらくサイラスから足が遠のいていた。
サイラスの妹の死が、カッシモの心を脅かしていたのだ。
カッシモは、自身が遊び人で、周囲の女たちも、貞操を重んじる人間ではなかった。
平民でも貴族でも、遊び慣れた女ばかり相手にしていたので、あの程度のことで死を選ぶ人間がほんとうにいるとは思ってもみなかったのだ。
自分は、とんでもないことをしてしまったのではないか?
カッシモは、初めて自分のしていることに罪悪感を抱いた。
ちょっとしたゲーム、あるいは悪戯程度の悪さをしたつもりだった。
だが、結果はどうだ?
まだ若い少女が、死を選ぶほどの絶望を抱いたのだ。
彼女の未来を、自分が奪ったんだ。
カッシモは、サイラスの屋敷を尋ねたが、サイラスには会わず、サイラスの母の元へ出向いた。
そして、これまでのことを謝罪した。
彼女は昏い目でカッシモを見て、言った。
「ぜったいに許さない」
カッシモは、彼女の前で膝をつき、ただただ謝罪の言葉を重ねた。
カッシモも、サイラスの母も、自分たちの感情に気をとられ、彼女たちに災厄をもたらした男のことを忘れていた。
同じ屋敷に、彼女の息子が、彼女のもうひとりの娘の売り出し先を考えていたというのに。
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