68 / 73
召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
25: Side サイラス 7
しおりを挟む
カッシモは一瞬眉をしかめたが、すぐに笑顔をつくりなおした。
「へぇ、そうか。母上を愛人に売るつもりだったのか。なら、ちょうどよかったな。お母上も、かわいい息子の役に立てて、さぞお喜びだろうよ」
カッシモが言うと、サイラスは大きくうなずいた。
「まったくだ。売った後でその話を聞いていたらと思うと、ぞっとする。さすが俺は、運までいいようだ」
カッシモは、乾いた笑みを浮かべた。
「俺もたいがいクズだと思っていたが、上には上がいるもんだな」
「ん? なんだカッシモ? 聞こえなかった」
「いや、なんでもない。サイラス、お前がすげぇやつだって、改めて気づかされたってだけだよ」
サイラスは、胸をはった。
カッシモは、サイラスにとって人生の師匠のようなものだった。
遊び慣れたカッシモの余裕のある態度は、サイラスの憧れだ。
その師匠に褒められたのだから、嬉しくないはずがなかった。
「そうかな、照れるな」
カッシモの皮肉を真に受けて、サイラスはにやりと笑う。
こちらを疑う知恵も、人間なら持つべき罪悪感のかけらも、サイラスはもっていなかった。
カッシモは、いっそ感心さえさせられた。
「で、サイラス。いつならいけそうだ? こういうことは、はやいほうがいいだろうが」
「そうだな。母上を差し出す前に、俺が騎士団を退団させられたら意味がない。……そうだ、5日後から1週間のうちならいつでもいいぞ。妹たちは心の傷を癒すためだとか言って、しばらく田舎の叔母の家に行く。俺の婚約者も、その日から魔獣狩りのために遠征にでているから、うるさく目を光らせる人間がいなくなる」
「なるほど、ね。じゃぁ、6日後と、10日後だな。その日が上官たちの休養日だ。日数が増えたり変更する必要があったら、また連絡する」
カッシモはそういうと、足早に部屋を出た。
サイラスは、この危機を乗り越えられて安堵した。
まったく、カッシモといういい友人がいなければ、知らぬ間に騎士を退団させられるところだった。
あぶないところだった、と。
そして、6日後。
カッシモは、上官だという男を伴って、屋敷にやってきた。
サイラスは、上官が見舞いに来てくれたといって、母を部屋に呼んだ。
そして、母の隙を見て茶に強い睡眠薬を混ぜ、母に飲ませた。
母は、すぐに薬がきいて、眠ってしまった。
上官だという男は、母を抱き上げて、寝室へと引き上げた。
そして彼は数時間、そこから出てこなかった。
待つのにあきたサイラスとカッシモは、ふたりでカードゲームをしていた。
サイラスのトランプは、今日は妙にいい札ばかりが集まった。
「残念だな。なにか賭けていればよかった」
サイラスが言うと、カッシモは笑った。
「いやだね、ついてるときってのは誰でもつきまくるもんだからな。みすみすお前を勝たせるために、かけ事なんてしないさ。むしろ俺が、おこぼれをほしいぐらいだ」
「はは。おこぼれでいいなら、くれてやるさ」
カッシモは、遠くで悲鳴を聞いた気がした。
それはいつもカッシモがこの館を訪れると、穏やかな笑顔で迎えてくれたサイラスの母の悲鳴のように思えた。
あの上官は、夫に操をたてた貞淑な妻を、彼女が寝ている最中に犯すのが趣味なので、それは気のせいにすぎないだろうが。
俺もおこぼれをもらっていいかな。
サイラスが持つトランプを見つめながら、カッシモは舌なめずりをした。
「へぇ、そうか。母上を愛人に売るつもりだったのか。なら、ちょうどよかったな。お母上も、かわいい息子の役に立てて、さぞお喜びだろうよ」
カッシモが言うと、サイラスは大きくうなずいた。
「まったくだ。売った後でその話を聞いていたらと思うと、ぞっとする。さすが俺は、運までいいようだ」
カッシモは、乾いた笑みを浮かべた。
「俺もたいがいクズだと思っていたが、上には上がいるもんだな」
「ん? なんだカッシモ? 聞こえなかった」
「いや、なんでもない。サイラス、お前がすげぇやつだって、改めて気づかされたってだけだよ」
サイラスは、胸をはった。
カッシモは、サイラスにとって人生の師匠のようなものだった。
遊び慣れたカッシモの余裕のある態度は、サイラスの憧れだ。
その師匠に褒められたのだから、嬉しくないはずがなかった。
「そうかな、照れるな」
カッシモの皮肉を真に受けて、サイラスはにやりと笑う。
こちらを疑う知恵も、人間なら持つべき罪悪感のかけらも、サイラスはもっていなかった。
カッシモは、いっそ感心さえさせられた。
「で、サイラス。いつならいけそうだ? こういうことは、はやいほうがいいだろうが」
「そうだな。母上を差し出す前に、俺が騎士団を退団させられたら意味がない。……そうだ、5日後から1週間のうちならいつでもいいぞ。妹たちは心の傷を癒すためだとか言って、しばらく田舎の叔母の家に行く。俺の婚約者も、その日から魔獣狩りのために遠征にでているから、うるさく目を光らせる人間がいなくなる」
「なるほど、ね。じゃぁ、6日後と、10日後だな。その日が上官たちの休養日だ。日数が増えたり変更する必要があったら、また連絡する」
カッシモはそういうと、足早に部屋を出た。
サイラスは、この危機を乗り越えられて安堵した。
まったく、カッシモといういい友人がいなければ、知らぬ間に騎士を退団させられるところだった。
あぶないところだった、と。
そして、6日後。
カッシモは、上官だという男を伴って、屋敷にやってきた。
サイラスは、上官が見舞いに来てくれたといって、母を部屋に呼んだ。
そして、母の隙を見て茶に強い睡眠薬を混ぜ、母に飲ませた。
母は、すぐに薬がきいて、眠ってしまった。
上官だという男は、母を抱き上げて、寝室へと引き上げた。
そして彼は数時間、そこから出てこなかった。
待つのにあきたサイラスとカッシモは、ふたりでカードゲームをしていた。
サイラスのトランプは、今日は妙にいい札ばかりが集まった。
「残念だな。なにか賭けていればよかった」
サイラスが言うと、カッシモは笑った。
「いやだね、ついてるときってのは誰でもつきまくるもんだからな。みすみすお前を勝たせるために、かけ事なんてしないさ。むしろ俺が、おこぼれをほしいぐらいだ」
「はは。おこぼれでいいなら、くれてやるさ」
カッシモは、遠くで悲鳴を聞いた気がした。
それはいつもカッシモがこの館を訪れると、穏やかな笑顔で迎えてくれたサイラスの母の悲鳴のように思えた。
あの上官は、夫に操をたてた貞淑な妻を、彼女が寝ている最中に犯すのが趣味なので、それは気のせいにすぎないだろうが。
俺もおこぼれをもらっていいかな。
サイラスが持つトランプを見つめながら、カッシモは舌なめずりをした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
42
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる