上 下
21 / 36
私の婚約者(王子)がお馬鹿すぎる。……でも好き、っていうこの羞恥に満ちた状況について

4

しおりを挟む
「え、エリザベス…! 君と婚約破棄したいなんて、本気じゃなかったんだ。ただ最近君が忙しくてかまってくれないのがさみしくて耐えられないと思っていた時、カインズ男爵令嬢に素晴らしい作戦を授けられて…。つい、乗ってしまただけなんだ」

 私の足元に、エドワード王子がひれ伏して泣く。
はぁ、この状況。
どうしよう。

「仮にも王族の一員ともあろう方が、公衆の面前で婚約破棄を口にして、前言をひるがえされると?」

「…君が私のことを『愛している』と言ってくれれば、すぐにこれは冗談だと、パーティの余興だと言えばごまかせると思ったんだ」

「ごまかせるはずないでしょう。それにカインズ男爵令嬢は、どうするのです?彼女はこの後、あなたと『お楽しみ』の予定みたいですけど?」

 エドワード王子は、私の足にすがりつかんばかりににじり寄ってくる。
顔が涙でぐちゃぐちゃだ。
それでもまぁ見られる顔で、つくづく美形って得だなぁと思う。

 冷ややかに足元の王子を見下げれば、王子はえぐえぐと泣きながら、

「カインズ男爵令嬢は、私の君への愛情を見透かし、協力してくれただけだぞ? もちろん未婚の淑女の評判に傷をつけるのではと思ったが、彼女は自分はもう貞淑な乙女とはみなされていないし、構わないと言ってくれてな。確かに彼女を貞淑な淑女と思っている人間は社交界にはいないし、君という素晴らしい婚約者がいる私が、彼女を愛するなんてことを信じる人間もいないだろう。もちろん見返りとして、私の個人財産で宝石やドレスをいっぱいプレゼントしたし」

 だから問題ないはずだと、王子はのたまう。
そんな王子に、カインズ男爵令嬢は頬を赤く染めて、叫ぶ。

「で、ですが王子…! 王子はわたくしのことを魅力的だと思っていらしたでしょう? 初めはエリザベス様への嫉妬をあおるおつもりでわたくしと一緒にいられたのでしょうけど、わたくしのことを子猫のようにかわいらしいと、いとおしいとおっしゃっていたではありませんか……!」

「そ、それは君が普段から恋人らしい雰囲気をつくらなければ、敏いエリザベスにやきもちをやかせることなどできないと申したからだろう……! ここでそんなことを蒸し返して、エリザベスに誤解させないでくれ!!」

「なっ……! こ、この国でいちばんかわいらしいと評判のわたくしがずっとお傍におりましたのに、少しもお心がうごいていらっしゃらなかったとでもおっしゃりたいの!?」

 カインズ男爵令嬢は、もはや絶叫と言ってもいい叫び声をあげる。
大きな目のまなじりに涙さえうかべ、彼女の女としての自信に傷をつけるエドワード王子につめよる。
 だが王子は地面にはいつくばったまま、顔だけを彼女のほうにむけ、当然のごとく言い放った。

「この国でいちばんかわいいのも、きれいなのも、エリザベスだろう? 教養や性格も、もちろんエリザベスと比べられるレベルでもないが。……なぜ君程度の容姿で、エリザベスの婚約者である私が心を動かすと思ったんだ?」

 エドワード王子は皮肉やあてこすりで、カインズ男爵令嬢に言ったのではなかった。
それは、純粋な疑問。

 カインズ男爵令嬢は、もはや言語らしい言語も口にできないようで、超音波のような音を口から吐き出している。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう

楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。 きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。 傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。 「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」 令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など… 周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...