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悪役令嬢兼魔王だけど、王太子に婚約破棄されたので、正体をバラしてみた
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「マリアンヌ・オットー・ウルシェンヌ公爵令嬢。君との婚約は破棄する!」
壇上から、そう宣言したのはこの国の王太子アークドィだった。
国の貴族の子女たちが集まる魔法学院の卒業パーティの最中、王太子として開会の挨拶をする予定だった彼は、とつぜんの婚約破棄を宣言した。
会場は驚きにどよめき、壇上にたつ王太子とその友人たち、そして婚約破棄を告げられた少女を注視する。
その視線はおおむね、卒業パーティという公の場で、婚約破棄という繊細な問題を突然宣言した王太子への非難だった。
だが、王太子はまったく意に介していなかった。
むしろ周囲の人々の視線に力を得たように、彼は美しい緑の目に怒りを込め、一人の少女を睨み付ける。
鍛えられれた体に整った顔。
まとう雰囲気は王太子らしく気品があり、なおかつ野性的。
国中の女性を虜にしてやまない王太子が激怒する様は、迫力に満ちていた。
けれどにらまれた少女マリアンヌは、その年齢にふさわしくない落ち着きでもって、それを受け止める。
「まぁ、怖い」
くすりと笑って、マリアンヌは囁く。
赤い唇が弧を描き、蠱惑的に壇上の王太子を見上げれる。
王子は反射的に顔を赤く染め、そしてそんな自分を恥じるようにますます声を荒立てる。
「なにが、怖いだ!君がリリスにしたことのほうがよほど恐ろしい!」
王太子はそう怒鳴りながら、彼の隣に寄り添ってたつ少女の肩に手をおいた。
王太子にすがるように立っている栗色の髪の小柄な少女の名は、リリス。
平民育ちだったが、その魔力の大きさに目をとめられ、男爵家の養女となった少女だ。
「お、王太子さまぁ。わたし、怖かった…。怖かったんです…っ」
リリスが甘えをふくんだかわいらしい声を震わせ、王太子に抱き付いた。
王太子は彼女をなだめるようにその胸に強く抱いた。
「ああ、リリス。もう恐れることなんて、なにもないよ。マリアンヌとの婚約は解消した。君との婚約もすぐに整うさ。君の魔力量は国でも有数だ。父王たちも、認めてくれるだろう。君はもう、マリアンヌなど恐れずにいられる立場と守りを得られるんだよ」
すると王太子たちをとりまいていた少年たちも、口々にマリアンヌを罵りはじめた。
「そうですよ、リリス。私たちがあなたを守ります! ……ウルシェンヌ公爵令嬢。君はこのリリス男爵令嬢につらくあたったそうですね」
「とぼけても無駄だよ? 君がリリス令嬢を階段から突き落としたこと、下校時に暴漢に襲わせたこと、机に毒虫をしこんだこと、すべて証拠はあがっているんだからな!」
「こんなかわいいリリスちゃんに、よくそんなひどいことができたね!お前なんて、悪魔だよ!」
男たちは、それぞれこの国の宰相の息子、騎士団長の息子、大商人の息子と身分・財力に優れていた若者だ。
しかもそれぞれタイプの異なる美形だった。
彼らに弾劾されたマリアンヌは、よくここまでタイプの違う美形を揃えたものだなと、改めて感慨にふける。
そして性格的に難はあるにしろ、それなりに有能だった彼らをここまで自分に惑わせたリリスの手腕に感心した。
(まぁ、それはさておき)
マリアンヌは、いい加減この茶番に飽き始めていた。
せっかく楽しめるゲームかと思ったのに、こんなにあっさり終わってしまうとは残念だった。
けれど、王太子にすがりついて泣いているリリスを見て、仕方ないと終幕の言葉を告げる。
「ふふっ、わたくしが悪魔、ですか」
「そうだよ!こんな可憐な女の子を殺そうなんて、悪魔の所業としかいいようがないね!」
「対象が可憐な少女じゃなくとも、人が人を殺害しようとしていれば咎めるべきかと思いますけれど。まぁ、それはさておき、わたくしが悪魔だというのは認めましょう」
豊満な胸に手をおき、マリアンヌは嫣然と笑う。
そのあふれ出る色気にあてられつつも、王太子は胸に抱いたリリスのぬくもりに力を得たように、マリアンヌを睨み付けた。
「どういう意味だ」
マリアンヌは、幼いころから王太子の婚約者として、傍にいた。
彼女がくだらない冗談を口にしないことなど、わかっている。
マリアンヌはくすくすと笑って、小首をかしげる。
「いやですわね、アークドィ様。その通りの意味ですわ」
壇上から、そう宣言したのはこの国の王太子アークドィだった。
国の貴族の子女たちが集まる魔法学院の卒業パーティの最中、王太子として開会の挨拶をする予定だった彼は、とつぜんの婚約破棄を宣言した。
会場は驚きにどよめき、壇上にたつ王太子とその友人たち、そして婚約破棄を告げられた少女を注視する。
その視線はおおむね、卒業パーティという公の場で、婚約破棄という繊細な問題を突然宣言した王太子への非難だった。
だが、王太子はまったく意に介していなかった。
むしろ周囲の人々の視線に力を得たように、彼は美しい緑の目に怒りを込め、一人の少女を睨み付ける。
鍛えられれた体に整った顔。
まとう雰囲気は王太子らしく気品があり、なおかつ野性的。
国中の女性を虜にしてやまない王太子が激怒する様は、迫力に満ちていた。
けれどにらまれた少女マリアンヌは、その年齢にふさわしくない落ち着きでもって、それを受け止める。
「まぁ、怖い」
くすりと笑って、マリアンヌは囁く。
赤い唇が弧を描き、蠱惑的に壇上の王太子を見上げれる。
王子は反射的に顔を赤く染め、そしてそんな自分を恥じるようにますます声を荒立てる。
「なにが、怖いだ!君がリリスにしたことのほうがよほど恐ろしい!」
王太子はそう怒鳴りながら、彼の隣に寄り添ってたつ少女の肩に手をおいた。
王太子にすがるように立っている栗色の髪の小柄な少女の名は、リリス。
平民育ちだったが、その魔力の大きさに目をとめられ、男爵家の養女となった少女だ。
「お、王太子さまぁ。わたし、怖かった…。怖かったんです…っ」
リリスが甘えをふくんだかわいらしい声を震わせ、王太子に抱き付いた。
王太子は彼女をなだめるようにその胸に強く抱いた。
「ああ、リリス。もう恐れることなんて、なにもないよ。マリアンヌとの婚約は解消した。君との婚約もすぐに整うさ。君の魔力量は国でも有数だ。父王たちも、認めてくれるだろう。君はもう、マリアンヌなど恐れずにいられる立場と守りを得られるんだよ」
すると王太子たちをとりまいていた少年たちも、口々にマリアンヌを罵りはじめた。
「そうですよ、リリス。私たちがあなたを守ります! ……ウルシェンヌ公爵令嬢。君はこのリリス男爵令嬢につらくあたったそうですね」
「とぼけても無駄だよ? 君がリリス令嬢を階段から突き落としたこと、下校時に暴漢に襲わせたこと、机に毒虫をしこんだこと、すべて証拠はあがっているんだからな!」
「こんなかわいいリリスちゃんに、よくそんなひどいことができたね!お前なんて、悪魔だよ!」
男たちは、それぞれこの国の宰相の息子、騎士団長の息子、大商人の息子と身分・財力に優れていた若者だ。
しかもそれぞれタイプの異なる美形だった。
彼らに弾劾されたマリアンヌは、よくここまでタイプの違う美形を揃えたものだなと、改めて感慨にふける。
そして性格的に難はあるにしろ、それなりに有能だった彼らをここまで自分に惑わせたリリスの手腕に感心した。
(まぁ、それはさておき)
マリアンヌは、いい加減この茶番に飽き始めていた。
せっかく楽しめるゲームかと思ったのに、こんなにあっさり終わってしまうとは残念だった。
けれど、王太子にすがりついて泣いているリリスを見て、仕方ないと終幕の言葉を告げる。
「ふふっ、わたくしが悪魔、ですか」
「そうだよ!こんな可憐な女の子を殺そうなんて、悪魔の所業としかいいようがないね!」
「対象が可憐な少女じゃなくとも、人が人を殺害しようとしていれば咎めるべきかと思いますけれど。まぁ、それはさておき、わたくしが悪魔だというのは認めましょう」
豊満な胸に手をおき、マリアンヌは嫣然と笑う。
そのあふれ出る色気にあてられつつも、王太子は胸に抱いたリリスのぬくもりに力を得たように、マリアンヌを睨み付けた。
「どういう意味だ」
マリアンヌは、幼いころから王太子の婚約者として、傍にいた。
彼女がくだらない冗談を口にしないことなど、わかっている。
マリアンヌはくすくすと笑って、小首をかしげる。
「いやですわね、アークドィ様。その通りの意味ですわ」
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