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その駅は、婚約破棄された不幸な令嬢を招き食らう
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「婚約破棄してほしい」、「他に好きな女がいる」と。
苦し気に、ウェッドは言った。
そのかたわらには、はかなげな美しい女が寄り添っていた。
女のことを、ヴェロニカは知っていた。
アイリーン・ガボール。
ウェッドの妹であるアリスの家庭教師だ。
ヴェロニカは、信じられない気持ちでウェッドを見た。
憧れの旦那様が、見知らぬ人のように見えた。
ヴェロニカとウェッドの婚約は、ただの婚約ではない。
お互いの実家である商店の契約でもあるのだ。
そしてこの契約は、互いに利があってする対等なものだった。
一方の勝手な言い分で破棄などすれば、彼の家の商店は大きな損害を出す。
直接ヴェロニカの実家に支払わねばならない慰謝料・違約金も莫大だろうが、それ以上に損なわれるのは信頼。
商人にとって、命と金と並ぶほど大切なものだ。
そして、失った信頼を取り戻すのは容易ではない。
アイリーンは、確か田舎の教会の牧師の娘だったはず。
と、ヴェロニカは、以前アリスから聞いたことを思い出す。
あまり裕福な家ではなく、二人の姉に持参金を持たせたため、アイリーンは結婚もできないのだと。
ケンブリッジで神学を学んだ父親は、幼いころからアイリーンに結婚はあきらめろと教え、そのぶん彼女に教養を与えたのだと。
歴史も、絵画も、フランス語も、確かに彼女の腕はよかった。
だから、若くて美人なのにも関わらず、アリスの家庭教師にもなれたのだ。
家庭教師は、アッパーミドルクラスの娘がつけるほとんど唯一の職だ。
けれど同じ階級の独身の女性を家に住まわせるのだから、たいていの女主人は若くて美しい娘は雇わない。
ウェッドの父親は、妻以外の女性の存在に気づいているのか怪しいほど妻を溺愛していたし、ウェッドも去年までほとんど家にいなかったから、ウェッドの母は腕がよいならとアイリーンを雇ったのだろう。
それが、このような大惨事を招いてしまったのだ。
「本気ですの……?この方は、いくら同じ階級の出身とはいえ、わたしたちとは全く違う生活をされているかたですのよ?」
苦し気に、ウェッドは言った。
そのかたわらには、はかなげな美しい女が寄り添っていた。
女のことを、ヴェロニカは知っていた。
アイリーン・ガボール。
ウェッドの妹であるアリスの家庭教師だ。
ヴェロニカは、信じられない気持ちでウェッドを見た。
憧れの旦那様が、見知らぬ人のように見えた。
ヴェロニカとウェッドの婚約は、ただの婚約ではない。
お互いの実家である商店の契約でもあるのだ。
そしてこの契約は、互いに利があってする対等なものだった。
一方の勝手な言い分で破棄などすれば、彼の家の商店は大きな損害を出す。
直接ヴェロニカの実家に支払わねばならない慰謝料・違約金も莫大だろうが、それ以上に損なわれるのは信頼。
商人にとって、命と金と並ぶほど大切なものだ。
そして、失った信頼を取り戻すのは容易ではない。
アイリーンは、確か田舎の教会の牧師の娘だったはず。
と、ヴェロニカは、以前アリスから聞いたことを思い出す。
あまり裕福な家ではなく、二人の姉に持参金を持たせたため、アイリーンは結婚もできないのだと。
ケンブリッジで神学を学んだ父親は、幼いころからアイリーンに結婚はあきらめろと教え、そのぶん彼女に教養を与えたのだと。
歴史も、絵画も、フランス語も、確かに彼女の腕はよかった。
だから、若くて美人なのにも関わらず、アリスの家庭教師にもなれたのだ。
家庭教師は、アッパーミドルクラスの娘がつけるほとんど唯一の職だ。
けれど同じ階級の独身の女性を家に住まわせるのだから、たいていの女主人は若くて美しい娘は雇わない。
ウェッドの父親は、妻以外の女性の存在に気づいているのか怪しいほど妻を溺愛していたし、ウェッドも去年までほとんど家にいなかったから、ウェッドの母は腕がよいならとアイリーンを雇ったのだろう。
それが、このような大惨事を招いてしまったのだ。
「本気ですの……?この方は、いくら同じ階級の出身とはいえ、わたしたちとは全く違う生活をされているかたですのよ?」
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