京都守護大学オカルト研究会 : キャンパスでの冥婚のおまじないは禁止ですっ!

木村 真理

文字の大きさ
上 下
1 / 14

1

しおりを挟む
 その日まで、知花の生活は平穏そのものだった。

 中学校と高校は女子校だったから、男子が同じ教室にいる大学生活は驚愕の連続だったし、大学の授業システムは高校までと違い過ぎて、戸惑うことも多かった。

 だけど四月一日の入学式から3週間。
歓迎会やオリエンテーションなどの行事も滞りなくすぎ、いつも一緒に行動する友達と、それなりに仲のいい友達もできて、そろそろ自分が大学生ということにも慣れ始めたある日。

 あの、赤い封筒が、知花の目の前に現れたのだ。

 その封筒は、ごく普通の、無地の封筒だった。
深い赤は派手ではあるけれど綺麗な色で、クリスマスに外国製のカードと一緒に売られているような、まがまがしさなんてかけらもないものだった。

 なのに、リビングの机の上にそれを見た時、なぜか知花の背筋がすっと寒くなった。

(あれは、よくないものだ)

 なんの根拠もなく、そう思う。
そして、封筒から距離をおくように、後ずさりした。

 ただの赤い封筒なのに、なぜか怖くて仕方がない。
馬鹿馬鹿しい、ただの封筒じゃないと思うのに、その封筒に近寄ることもできず、さりとて目を離すこともできず、知花は息をつめて、ただその封筒を見ていた。

 そして、数秒後。
知花の目の前で、その封筒は、消えた。
すうっと、端のほうから幻のように。

「み、まちがい……?」

 封筒が消えた瞬間、背筋の寒気も消えた。
ほっと息を吐きながら、知花は空笑いをしながら言った。
けれど言いながらも、見間違いなんかじゃないことは、知花自身がよくわかっていた。
ただの見間違いだと思うには、あまりにもその封筒は強烈な印象だった。

 それに、あの寒気。

 リビングは一面が全面窓ガラスになっていて、春の日差しがうららかに差し込んできている。
四月といえども寒い日もあるけれども、今日は春らしい陽気のあたたかな日だ。
時刻もまだ夕方の四時で、日暮れにはほど遠い。

 それなのに、どんな冬の日も感じたことのないぞっとするような寒気がしていた。

(あれは、なんだったの……?)

 知花は怖くなったが、ふるりと頭をふって、忘れることにした。
あの赤い封筒がなんなのかは、わからない。
だけど、あんなものを見たのは初めてだし、これきりのことのはずだ。
あれこれ考えるのは、かえってよくない、気がした。

 だから、忘れることにしたのに……。

 そう決めた瞬間、知花は気づいた。
なにかが、いる。

 知花のななめうしろから、視線を感じる。
これも、気のせいなのか。

 けれど、視線というのは、自分に向けられていると、案外感じるものだ。
気のせいだと思いたくても、それを無視することはできなかった。

 おそるおそる、知花はゆっくりと振り返る。
誰も、いなかった。

 だが、リビングの入口のすりガラスの向こうに、なにかがいる気配を感じた。
視線は、そこからまっすぐに知花を眺めている。

「……っ」

 知花の喉から、小さな悲鳴が漏れた。
その瞬間。
「なにか」は消えた。
 すうっと、知花に向けられていた視線はなくなった。

 知花は、へたへたとその場に座り込んだ。

「な、なんなの……?」

 がくがくと震える自分の脚を見ながら、知花はぼんやりと声にだして言ってみた。
そして、母が仕事を終えて帰ってくるまで、ずっとその場に座り込んでいた。

 後で思い出せば、これがすべての始まりだったのだ。
そのことを、あの日の知花は、知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧校舎のシミ

宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。

視える僕らのルームシェア

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

一ノ瀬一二三の怪奇譚

田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。 取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。 彼にはひとつ、不思議な力がある。 ――写真の中に入ることができるのだ。 しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。 写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。 本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。 そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。 だが、一二三は考える。 「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。 「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。 そうして彼は今日も取材に向かう。 影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。 それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。 だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。 写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか? 彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか? 怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ガーディスト

鳴神とむ
ホラー
特殊な民間警備会社で働く青年、村上 祐司。 ある日、東つぐみの警護を担当することになった。 彼女には《つばき》という少女の生霊が取り憑いていた。つぐみを護衛しつつ《つばき》と接触する祐司だが、次々と怪奇現象に襲われて……。

ドッペルゲンガー

宮田 歩
ホラー
世界に3人いるとされているドッペルゲンガー。愛菜の周りでは「あなたにそっくりな人を見た」と言う報告が相次ぐ。そしてついに——。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

死神と僕の戯れ

カラスヤマ
ホラー
小説家を目指す主人公。彼が、落選する度に訪れる喫茶店がある。そこで働く可愛い店員、彼の友達でもある優しい彼女に励ましてもらうのだ。実は、その彼女【死神】であり、以前は人間の魂を女子供問わず、奪いまくっていた。 次第に友達から彼氏彼女へ関係がシフトしていく中、彼女は彼に衝撃の告白をする。

処理中です...