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 いや、うん、これはね。
やはりここは、こうすべきだよね。

「えっと、陽菜。私、榎森さんとおまいりに行ってくるから。あとは田中さんと二人で、どうぞっ」

 榎森さんのコートをちょこんとひっぱって、階段を降りながら言う。
榎本さんも、田中さんに手を振って言った。

「同じく。田中、がんばれよ」

「えぇっ、有紗先輩っ」

「ありがとうございます、澤口先輩。榎森、サンキューな。今度おごる」

 陽菜がかわいい悲鳴をあげるけど、田中さんは嬉しそうに笑って手を振る。
私は「こっち、こっち」と榎森さんのコートを引っ張りながら、急ぎ足で南楼門を目指す。

 一気に人が少なくなる道をすたこら歩き、曲がり角を曲がるときに後ろを見る。
陽菜たちの姿はない。

「ふぁああ。ドキドキしたぁ」

 大きく息を吐きながら、つぶやく。

「そうですね。まさか田中があんなに急に告白するとは思いませんでした」

 榎森さんがうなずきながら、言う。

「だよね。他人事なのに、まだどきどきしているよ」

 両手で胸を押さえ、はたと気づいた。

「ご、ごめん!とっさだったから、コートひっぱっちゃって」

「あぁ。ぜんぜんかまいませんよ。えっと、こっちでいいんですか?今からお参りですよね?」

「あ、うん。こっちの門から入ろうと思っていて……」

 ゆるゆると坂道を登りながら、いう。
しかし「こっちの門から入るのが正式っぽいから!」とかいうとスピリチュアルすぎて怖がられそうなので、言葉を濁す。

 成り行きだったとはいえ、30歳近い独身の職場の先輩が本気で縁結び祈願するところに付き合わされるとか、男にとっては軽くホラーな気がする。
「このばばぁ、まさか俺に目をつけてねーよな?」なんて怯えられても困るので、本気度は押し隠して、のんびりという。

 そのくせ石の鳥居を見ると、ついつい頭を下げてしまう。
榎森くんも合わせてくれたのか、隣で一礼してくれた。

 まっすぐに伸びた背中と、礼の所作の綺麗さに目が惹かれる。
い、いや目をつけたとかそいういうわけじゃないんだけど。

 二人そろって、本殿にお参り。
二礼二拍手のタイミングが、ばっちり同じで、さらにどきどき。
お願い事をいう時間は、心の中で超早口で言ったにもかかわらず、私のほうがだいぶん長かったけど……。

「おみくじとか、します?」

 ふにゃりとした顔で、榎森さんが訊いてくれる。

「え、えーと。あの。あっちもお参りしていいかな」

 おそるおそる社務所の向かい側にある大国主社を示す。

「はい。じゃあ先に、あそこもお参りしましょう」

 華やいだ声を上げる人々の間を縫いながら、檜森さんと並んで歩く。
こうしていると、他人から見ると恋人同士に見えるんだろうか、なんて考えてしまう。ヤバい。
彼氏いない日々のせいで、いろいろこじらせている気がする。
 
 榎森さんが、会社の若い女の子に人気があるって知っている。
バレンタインとかけっこう本命チョコもらってたって噂聞いたし、誰々が狙っているらしいなんて噂もたくさん。
優しくてまじめで有能とか、そりゃ人気だよねー……。
「いい旦那様になってくれそう」とチェックしている子たちの見る目の確かさに感服するばかりです。

 朝よく見かけてて気になっていた男の人が、2歳年下で、しかも人気の高い子だってわかったとき、ちょっとだけ好きになりかけていた気持ちはぺしょんと潰れた。
身の程は、知ってる。

 すっごい幸運でなぜか一緒に初詣なんてしているけど、期待なんかしないので安心してください。
こんなばばぁに好かれても怖いだけだよね。

 ……あぁ、でも、かっこいいなぁ。

 優しい笑顔に、胸がきゅんとする。
あわせてくれる歩調とか、他人にぶつかりそうになった時にかばってくれるさりげない態度とかに、どきどきする。

 いやいや、私は結婚への近道である恋しかいらないけど!

「ここですか?」

「うん、ここー」

 大国主社の前には、最近つくられた石造りの大国主さまと白兎の像がある。
ここでも一例して鳥居をくぐると、ハート型のかわいい絵馬がたくさん飾られていた。

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