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目的地が一緒なので、あまり話したくないという気持ちに変わりはない。
けれど、その後も男がちらちらとこちらへ視線を向けてくるので、気にせずにはいられない。
ナンパ的なことであれば、最初に声をかけた時にもっと話しかけてくるだろうし、そもそも最初に話した時は、男はいかにも人に話しかけるのに慣れているようであった。
親しげでいて踏み込まない距離感は悪くないと思っていたのに、その好印象が崩れていく。
なんなのだと思うけれど、わざわざこちらから聞くのも業腹だ。
大昔に英語の授業で先生が「真の詐欺師は、こちらから話しかけさせる技術を持っている」と言っていたのを思い出す。
かたくなに本に目を向けるけれど、さきほどまでのように本に集中できない。
そうこうするうちに目的の駅についたので、私は素早くバッグに本をしまって、ホームに出た。
男も、続いて電車を降りる。
彼の目的地も同じ場所なのだから、当たり前だ。
けれど男と並んで伏見稲荷まで歩いていくなんてまっぴらなので、早歩きで改札へとむかう。
ICカードで手早く改札を出ると、男もなぜか慌てた様子で切符を改札にいれている。
まさかとは思うけれど、追いかけられているのだろうか。
男の様子にいやな気分になって、足早に駅を出ようとした。
と、そのとき。
『危ないっ』
腕をひかれ、後ずさる。
目の前に車が、走っていった。
危なかった。
心臓がどきどきと、大きな音を立てる。
もうすこしで、車にはねられるところだった。
「ゴメンナサイ、ワタシのセイ……」
腕をつかんでいた男が、大きな体を縮めて、深々と頭を下げる。
「いや、今のは私が悪い……」
前方不注意にもほどがある。
あやうくお正月早々、車のドライバーにも、ほかの初もうで客にもとんだご迷惑をおかけするところだった。
追いかけてきた男のせいも多少はあるけれど、別段追うというらしく追われたわけでもない。
彼だって同じ場所に行くのだから、ただ急ぎ気味に歩いていただけかもしれないのに。
『顔をあげて。私が不注意だったのが悪かったの』
英語で言うと、男はがばりと顔をあげた。
「エイゴ、ハナセル?」
『それなりに。だから、英語で話してくれていいわ。通行の邪魔になっているから、歩きましょう』
連れだって歩くつもりはなかったのだけれど、おろおろしている男が哀れになって、促した。
実際、大柄な外国人に深々と頭を下げられていると、人の視線を集める。
ガラガラだと思っていた電車にはそれなりに人が乗っていたようで、近くまで車で来たのだろう人も合流した稲荷付近の路上はそこそこの人出があった。
おとなしくついてくる男に、穏やかな声で話す。
『助けてくれて、ありがとう』
『いや、……というか、俺のせいだよね?君が慌てて駅をでようとしていたの』
眉を下げて、いかにもしょんぼりとした顔で言われる。
イケメンにそんな顔をされると、周囲の女子の視線が痛いからやめてほしい。
日本有数の観光地である京都の中でも屈指の観光地である伏見稲荷は、外国人の姿も珍しくはない。
けれども男はがっしりとした長身とそのキラキラしい顔で、女の子たちの視線を集めているのだ。
私は、肩をすくめた。
『心当たりがあるの?』
『ある。俺が、君を見ていたからだろう?』
『見ていたの?』
『気づいていたんだろう?』
けれど、その後も男がちらちらとこちらへ視線を向けてくるので、気にせずにはいられない。
ナンパ的なことであれば、最初に声をかけた時にもっと話しかけてくるだろうし、そもそも最初に話した時は、男はいかにも人に話しかけるのに慣れているようであった。
親しげでいて踏み込まない距離感は悪くないと思っていたのに、その好印象が崩れていく。
なんなのだと思うけれど、わざわざこちらから聞くのも業腹だ。
大昔に英語の授業で先生が「真の詐欺師は、こちらから話しかけさせる技術を持っている」と言っていたのを思い出す。
かたくなに本に目を向けるけれど、さきほどまでのように本に集中できない。
そうこうするうちに目的の駅についたので、私は素早くバッグに本をしまって、ホームに出た。
男も、続いて電車を降りる。
彼の目的地も同じ場所なのだから、当たり前だ。
けれど男と並んで伏見稲荷まで歩いていくなんてまっぴらなので、早歩きで改札へとむかう。
ICカードで手早く改札を出ると、男もなぜか慌てた様子で切符を改札にいれている。
まさかとは思うけれど、追いかけられているのだろうか。
男の様子にいやな気分になって、足早に駅を出ようとした。
と、そのとき。
『危ないっ』
腕をひかれ、後ずさる。
目の前に車が、走っていった。
危なかった。
心臓がどきどきと、大きな音を立てる。
もうすこしで、車にはねられるところだった。
「ゴメンナサイ、ワタシのセイ……」
腕をつかんでいた男が、大きな体を縮めて、深々と頭を下げる。
「いや、今のは私が悪い……」
前方不注意にもほどがある。
あやうくお正月早々、車のドライバーにも、ほかの初もうで客にもとんだご迷惑をおかけするところだった。
追いかけてきた男のせいも多少はあるけれど、別段追うというらしく追われたわけでもない。
彼だって同じ場所に行くのだから、ただ急ぎ気味に歩いていただけかもしれないのに。
『顔をあげて。私が不注意だったのが悪かったの』
英語で言うと、男はがばりと顔をあげた。
「エイゴ、ハナセル?」
『それなりに。だから、英語で話してくれていいわ。通行の邪魔になっているから、歩きましょう』
連れだって歩くつもりはなかったのだけれど、おろおろしている男が哀れになって、促した。
実際、大柄な外国人に深々と頭を下げられていると、人の視線を集める。
ガラガラだと思っていた電車にはそれなりに人が乗っていたようで、近くまで車で来たのだろう人も合流した稲荷付近の路上はそこそこの人出があった。
おとなしくついてくる男に、穏やかな声で話す。
『助けてくれて、ありがとう』
『いや、……というか、俺のせいだよね?君が慌てて駅をでようとしていたの』
眉を下げて、いかにもしょんぼりとした顔で言われる。
イケメンにそんな顔をされると、周囲の女子の視線が痛いからやめてほしい。
日本有数の観光地である京都の中でも屈指の観光地である伏見稲荷は、外国人の姿も珍しくはない。
けれども男はがっしりとした長身とそのキラキラしい顔で、女の子たちの視線を集めているのだ。
私は、肩をすくめた。
『心当たりがあるの?』
『ある。俺が、君を見ていたからだろう?』
『見ていたの?』
『気づいていたんだろう?』
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