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かくりよでのこと

星降る夜に -1

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 高雄に誘われて、初音は庭園に出る。

 もう、夜だ。
空は暗く、月明かりと、遠くに見える篝火を頼りに、高雄に手をひかれるままに、初音は歩いた。

 あわただしく、今日も一日が終わりに近づいている。
高雄に出会ってから、毎日が目まぐるしく変わっていく。
自分のこころのかたちすら、あっという間に変わっていく。

 それが嫌でないのは、自分がなりたいと思い、選んだように変わっていっていると感じているからだ。
そしてなにより、この人が自分の味方だと、心から感じているからだ。

 初音は、一歩前を歩く高雄の横顔を仰ぎ見る。
煌々と光る月明かりに照らされた高雄の顔は、いつにもましてつくりものめいて美しく見えた。
すずやかな目元に月の光が落ちると、高雄の黄金の瞳が、月の光をうつしたかのように輝いて見える。
 思わず初音がみとれていると、視線に気づいた高雄は、初音をふりかえる。

「すこし暗いが、足元はだいじょうぶかい?」

「はい。月も明るいですし、高雄様が案内してくださるから、だいじょうぶです」

「それなら、よかった。だが歩けないなら、抱き上げるから。いくらでも声をかけてくれ」

「……ありがとうございます。でも、自分で歩けます」

 初音は、朝のことを思い出して赤くなる。
抱っこなんて、大人の女性がそうそうされるものではないはずだ。
なのに、高雄はすぐ初音を抱き上げようとする。

「高雄様は、わたしをあまやかしすぎです……」

「そうかい? 俺は、初音にしたいことをそのまま口にしているだけだよ。……だけど、そうだね。むしろ俺は、もっと初音をあまやかしたいと思っているかな」

「これ以上ですか?」

 高雄が残念そうに言うので、初音は悲鳴をあげた。
今でさえ、初音にとっては恥ずかしいほど、高雄はあまいと思っているのに。

「これ以上……? いまはまだ、なにも甘やかせてはいないと思うんだけど」

「じゅうぶんです!」

 不思議そうに首をかしげる高雄に、初音は遠慮をかなぐりすてて、きっぱりという。

 そうしなければ、いつまた抱き上げられるかもしれないと危機感を抱いたからだ。
人前で、あんなふうに抱き上げられるのは、初音には恥ずかしすぎた。

「見解の相違だな……」

 高雄は不服そうに言いながら、生い茂る庭木の小さな切れ間をつっと入っていく。
初音が続いて入ると、庭木にさえぎられて見えなかった小さな東屋が見えた。

 白い石の柱を持つ東屋は、瀟洒でかわいらしく、どこか公爵夫人の館を思わせるつくりだった。
深い翠に囲まれて、とつぜん姿をあらわすので、まるでお伽噺の妖精が住む小さな家のように、初音には思われた。

「綺麗……」

 月明かりに照らされてほんのりと白く輝く東屋に、初音は思わず声をあげた。
 すると高雄は嬉しそうに、

「気に入ったかい? そなたのために、火焔が昼に作ったんだ。初音が気に入ったと言えば、あいつも喜ぶだろう」

「わ、わたしのために火焔様が、この東屋をつくってくださったんですか?」

 初音は驚いて、目をしばたたかせた。


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