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番外編(高田の話)
「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -12
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しかし、だからってばらすことはないだろう。
どうせご主人さまのことだから、万智子お嬢様が夢いっぱいに俺と結婚したいと言ったって、俺が了承することくらいわかっていたはずだ。
だとすれば、俺がお嬢様のことを悪くは思っていないと言ったってよかったはずなのに。
なぜ、そんなことを馬鹿正直に言ってしまうのか。
このお嬢様の反応からすると、俺がそれに気づいていてお嬢様をつきはなしていたことにも気づかれているんだろう。
……いまさら、とりつくろっても仕方がないか。
「なるほど、好きな男を手に入れるために、お優しいお父様に泣きついたってわけか」
嘲るように言う。
こんなことをして、なんになる?
俺だって、店が手に入るなら、お嬢様と結婚するのも嫌ではないと思っていたはずだ。
女の機嫌ひとつでそれが手に入るのなら、むしろ甘い言葉のひとつでもささやくべきだ。
自分でも、自分のしていることの意味がわからない。
こんなことは万智子お嬢様を無駄に傷つけるだけで、のちのちの自分のためにも悪手だと思うのに。
だが、万智子お嬢様は傷ついた顔を見せず、ただ不思議そうにゆったりと言う。
「わたくし、わたくしだけではあなたの心を得ることなんてできないと存じております。どうですか? わたくしだけでは、あなたの心を射止めることはできませんけれど、この店を加えれば、お心を得ることはできますか?」
純粋に紡がれた言葉に、めまいがしそうになった。
万智子お嬢様は目をひくような美少女ではないが、つやつやとした黒髪もやさしげな顔立ちも、どこから見ても愛されて育った裕福な淑女だ。
実際にご主人様や奥様が、この屋敷の使用人や店で働くやつらが、みんなこのお嬢様を大切に思っていることは、俺はよく知っている。
こんな、自分を卑下するようなことを口にしていい娘ではないはずだ。
親にも、最初の許嫁にも不要だと捨てられた俺なんかのために。
どうしてだ。
お嬢様は、俺のことを慕っているのなら、俺を望めばいいだけのはずじゃないか。
俺を欲しい、俺がお嬢様を愛しているように見せかけろと望めば、俺はそのようにふるまうしかなかったはずだ。
なのに、どうしてそんなことを言う?
自分だけでは、俺の心を得られなかっただろう?
店を加えれば、俺の心が得られるか?
あぁ、それはなんて傲慢な。
圧倒的な資産を持つ人間の、いいぶんだ。
それでいて、なんて卑屈な。
お嬢様の価値は、それだけじゃないはずだろう……!
幼いころから店に出入りし、着物の由来や価値をいっしょうけんめいに覚えてきたお嬢様。
お客様や出入りの商人から、その組み合わせや流行を学び、接客だのなんだのこまごま店の役にたとうと努めてきたお嬢様。
自分のおこないのせいで店に悪影響がでるのなら自決さえ覚悟するお嬢様。
女学校での成績も、友人関係も、なかなか優れているときく。
いろいろな人間に愛され、努力し、その結果も花開かせながら、なぜ。
「もし貴女と俺が結婚することがあったとしても、俺は貴女を愛することはありませんよ」
怒ればいい、と思う。
俺なんかいらないと、捨てればいいと思う。
俺の親がしたように。
初めの許嫁がしたように。
万智子お嬢様。
あんたみたいになにもかもに恵まれた人間の愛情を信じるなんて、俺には無理だ。
信じて、店まで手に入るって夢を見て、そしてそれがまた手に入らなかったら、今度は以前の比ではなく傷つくだろう。
だって、あんたは最初の許嫁とはくらべものにならない立派なお嬢様だ。
そのうえそんなにきれいになってしまったら、どうして俺なんかがとどめておけるだろう。
なのに、お嬢様は怒らなった。
ただ綺麗な涙を目からこぼし、それすら袖でぬぐってなかったことにする。
そして、ゆるぎない目で言う。
「怜二は、わたくしのことを愛さずともかまいません」
なにを言うんだ、と目を見張る。
返す言葉もなく、お嬢様を見つめる。
お嬢様は、しっかりと俺の目を見つめ返して、言う。
「怜二がわたくしを愛せない分も、わたくしが怜二を愛します。けっして貴方に迷惑はかけません」
「迷惑……?」
意味がわからず問い返すと、お嬢様がなぜか張り切って言葉を紡ぐ。
「はい。怜二がお仕事に打ち込みたいときは邪魔しません。会食などでお帰りが遅くなっても、泣き言をいったりはしません。一緒に出席すべき会合には一緒に出席しますし……」
つぎつぎにお嬢様と結婚したときの、よくわからないが具体的な生活を語られる。
その生活は、俺にとっては仕事に打ち込める気楽なもののようで、お嬢様にとっては夫にないがしろにされているようにしか聞こえない。
頭が痛くなりそうだ。
「待った」
どうせご主人さまのことだから、万智子お嬢様が夢いっぱいに俺と結婚したいと言ったって、俺が了承することくらいわかっていたはずだ。
だとすれば、俺がお嬢様のことを悪くは思っていないと言ったってよかったはずなのに。
なぜ、そんなことを馬鹿正直に言ってしまうのか。
このお嬢様の反応からすると、俺がそれに気づいていてお嬢様をつきはなしていたことにも気づかれているんだろう。
……いまさら、とりつくろっても仕方がないか。
「なるほど、好きな男を手に入れるために、お優しいお父様に泣きついたってわけか」
嘲るように言う。
こんなことをして、なんになる?
俺だって、店が手に入るなら、お嬢様と結婚するのも嫌ではないと思っていたはずだ。
女の機嫌ひとつでそれが手に入るのなら、むしろ甘い言葉のひとつでもささやくべきだ。
自分でも、自分のしていることの意味がわからない。
こんなことは万智子お嬢様を無駄に傷つけるだけで、のちのちの自分のためにも悪手だと思うのに。
だが、万智子お嬢様は傷ついた顔を見せず、ただ不思議そうにゆったりと言う。
「わたくし、わたくしだけではあなたの心を得ることなんてできないと存じております。どうですか? わたくしだけでは、あなたの心を射止めることはできませんけれど、この店を加えれば、お心を得ることはできますか?」
純粋に紡がれた言葉に、めまいがしそうになった。
万智子お嬢様は目をひくような美少女ではないが、つやつやとした黒髪もやさしげな顔立ちも、どこから見ても愛されて育った裕福な淑女だ。
実際にご主人様や奥様が、この屋敷の使用人や店で働くやつらが、みんなこのお嬢様を大切に思っていることは、俺はよく知っている。
こんな、自分を卑下するようなことを口にしていい娘ではないはずだ。
親にも、最初の許嫁にも不要だと捨てられた俺なんかのために。
どうしてだ。
お嬢様は、俺のことを慕っているのなら、俺を望めばいいだけのはずじゃないか。
俺を欲しい、俺がお嬢様を愛しているように見せかけろと望めば、俺はそのようにふるまうしかなかったはずだ。
なのに、どうしてそんなことを言う?
自分だけでは、俺の心を得られなかっただろう?
店を加えれば、俺の心が得られるか?
あぁ、それはなんて傲慢な。
圧倒的な資産を持つ人間の、いいぶんだ。
それでいて、なんて卑屈な。
お嬢様の価値は、それだけじゃないはずだろう……!
幼いころから店に出入りし、着物の由来や価値をいっしょうけんめいに覚えてきたお嬢様。
お客様や出入りの商人から、その組み合わせや流行を学び、接客だのなんだのこまごま店の役にたとうと努めてきたお嬢様。
自分のおこないのせいで店に悪影響がでるのなら自決さえ覚悟するお嬢様。
女学校での成績も、友人関係も、なかなか優れているときく。
いろいろな人間に愛され、努力し、その結果も花開かせながら、なぜ。
「もし貴女と俺が結婚することがあったとしても、俺は貴女を愛することはありませんよ」
怒ればいい、と思う。
俺なんかいらないと、捨てればいいと思う。
俺の親がしたように。
初めの許嫁がしたように。
万智子お嬢様。
あんたみたいになにもかもに恵まれた人間の愛情を信じるなんて、俺には無理だ。
信じて、店まで手に入るって夢を見て、そしてそれがまた手に入らなかったら、今度は以前の比ではなく傷つくだろう。
だって、あんたは最初の許嫁とはくらべものにならない立派なお嬢様だ。
そのうえそんなにきれいになってしまったら、どうして俺なんかがとどめておけるだろう。
なのに、お嬢様は怒らなった。
ただ綺麗な涙を目からこぼし、それすら袖でぬぐってなかったことにする。
そして、ゆるぎない目で言う。
「怜二は、わたくしのことを愛さずともかまいません」
なにを言うんだ、と目を見張る。
返す言葉もなく、お嬢様を見つめる。
お嬢様は、しっかりと俺の目を見つめ返して、言う。
「怜二がわたくしを愛せない分も、わたくしが怜二を愛します。けっして貴方に迷惑はかけません」
「迷惑……?」
意味がわからず問い返すと、お嬢様がなぜか張り切って言葉を紡ぐ。
「はい。怜二がお仕事に打ち込みたいときは邪魔しません。会食などでお帰りが遅くなっても、泣き言をいったりはしません。一緒に出席すべき会合には一緒に出席しますし……」
つぎつぎにお嬢様と結婚したときの、よくわからないが具体的な生活を語られる。
その生活は、俺にとっては仕事に打ち込める気楽なもののようで、お嬢様にとっては夫にないがしろにされているようにしか聞こえない。
頭が痛くなりそうだ。
「待った」
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