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Side キリ 9
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それなのに美咲様は、そんな頼る人が婚約者しかいない心細い状況の中、とつぜん見知らぬ誰かに恨まれ、その人が自分を嫌っていることを目の当たりにしなければならなかったのだ。
ご心痛は、どれほどのものかと思う。
それでも、その後も美咲様は気丈に振る舞われていた。
そして、たぶん仲間内から、捕らわれた人間を出した私たちを憐れんでくださったのだろう。
なんと、美咲様のお国の珍しい下着をお見せくださり、なおかつ同じものを作ってほしいと言って、ご自分の下着までお貸ししてくださった。
男性には見せないでほしいとおっしゃられたけど、オサドさんに話を通すことはご了承いただいた。
そのお話をきいたオサドさんは、涙を流して喜んでいた。
オサドさんは、いつも穏やかな人だ。
けれど大きな商売をしているだけあって、計算高いところもあるし、そう簡単に動揺を見せる人ではない。
その人が、私たちの話をきいたとたん、はらはらと目から涙をこぼした。
私はあらためて、貴族の家で従業員が結界にはじかれるということが、どれほど商人に大きな影響を与えるのか、目の当たりにした気がした。
美咲様は、なにもかもわかっていて、私たちにこの仕事をくださったのだろう。
「ブラジャー」と美咲様が呼んでらした胸を固定する下着は、針金のようなものがはいっていて、肩でささえる紐は見たことがない素材で、紐の長さを調節するための不思議な器具もついていた。
美しいレースがたっぷりと使われたそれは、ぱっと見ただけで構造はわかるものの、布や紐などが特殊で、初めて見る下着だった。
ためしに美咲様が着用してくださったのだが、これをつけると胸がぐっとあがり、それでいて自然な雰囲気もある。
これは、異国の技術の粋を集めて作られたものだろう。
美咲様も2枚しかお持ちでない、とても貴重なもののようだった。
その貴重なお品を、1枚私たちに預けてくださった。
さらに、私たちに同じものをつくってほしいと言って、ご依頼くださった。
私たちを信頼し、これからも取引を続けるつもりだと、かたちで示してくださったのだ。
美咲様にとって、オサド商会の人間は初対面の商人だ。
しかもその初対面の状態で、私たちの中の人間に害を与えられそうになった。
レイモンド様の紹介があるとはいえ、警戒して当然だし、お怒りになっても当然だ。
その場で全員、ブロッケンシュタイン家から追い出されても不思議はなかった。
なのにレイモンド様に促されたとはいえ、試着を続けてくださり、私たちにも和やかに接してくださった。
そのうえ、新たな、特別な依頼をくださって、対外的にも私たちに対して怒ってはいないことを示してくださるなんて、なんてお優しいのだろう。
あぁ、きっとレイモンド様は、美咲様の内面の美しさにも気づかれていたのだろう。
さりげなく下のものを気遣い、引き立てる様は、生まれながらの上流の貴婦人のようだ。
オサドさんは、綺麗にアイロンのかかったハンカチで目元をぬぐった。
「これより、オサド商会の人間は、美咲様に与えていただいたご恩を決して忘れまい。美咲様のお困りの際は、商人として出来得る限り、万難を排してお助けするのだ。そして美咲様が私たちに与えてくださった仕事は、なによりも急ぎで仕上げよう……! キリ、お前は美咲様の担当として、全力をつくせ」
「はい……!」
オサドさんの言葉は、私の気持ちでもあった。
私だけじゃなく、いっしょにブロッケンシュタイン家に来たオサド商会の人間はみんな、力強い目で、オサドさんの言葉にうなずいた。
ご心痛は、どれほどのものかと思う。
それでも、その後も美咲様は気丈に振る舞われていた。
そして、たぶん仲間内から、捕らわれた人間を出した私たちを憐れんでくださったのだろう。
なんと、美咲様のお国の珍しい下着をお見せくださり、なおかつ同じものを作ってほしいと言って、ご自分の下着までお貸ししてくださった。
男性には見せないでほしいとおっしゃられたけど、オサドさんに話を通すことはご了承いただいた。
そのお話をきいたオサドさんは、涙を流して喜んでいた。
オサドさんは、いつも穏やかな人だ。
けれど大きな商売をしているだけあって、計算高いところもあるし、そう簡単に動揺を見せる人ではない。
その人が、私たちの話をきいたとたん、はらはらと目から涙をこぼした。
私はあらためて、貴族の家で従業員が結界にはじかれるということが、どれほど商人に大きな影響を与えるのか、目の当たりにした気がした。
美咲様は、なにもかもわかっていて、私たちにこの仕事をくださったのだろう。
「ブラジャー」と美咲様が呼んでらした胸を固定する下着は、針金のようなものがはいっていて、肩でささえる紐は見たことがない素材で、紐の長さを調節するための不思議な器具もついていた。
美しいレースがたっぷりと使われたそれは、ぱっと見ただけで構造はわかるものの、布や紐などが特殊で、初めて見る下着だった。
ためしに美咲様が着用してくださったのだが、これをつけると胸がぐっとあがり、それでいて自然な雰囲気もある。
これは、異国の技術の粋を集めて作られたものだろう。
美咲様も2枚しかお持ちでない、とても貴重なもののようだった。
その貴重なお品を、1枚私たちに預けてくださった。
さらに、私たちに同じものをつくってほしいと言って、ご依頼くださった。
私たちを信頼し、これからも取引を続けるつもりだと、かたちで示してくださったのだ。
美咲様にとって、オサド商会の人間は初対面の商人だ。
しかもその初対面の状態で、私たちの中の人間に害を与えられそうになった。
レイモンド様の紹介があるとはいえ、警戒して当然だし、お怒りになっても当然だ。
その場で全員、ブロッケンシュタイン家から追い出されても不思議はなかった。
なのにレイモンド様に促されたとはいえ、試着を続けてくださり、私たちにも和やかに接してくださった。
そのうえ、新たな、特別な依頼をくださって、対外的にも私たちに対して怒ってはいないことを示してくださるなんて、なんてお優しいのだろう。
あぁ、きっとレイモンド様は、美咲様の内面の美しさにも気づかれていたのだろう。
さりげなく下のものを気遣い、引き立てる様は、生まれながらの上流の貴婦人のようだ。
オサドさんは、綺麗にアイロンのかかったハンカチで目元をぬぐった。
「これより、オサド商会の人間は、美咲様に与えていただいたご恩を決して忘れまい。美咲様のお困りの際は、商人として出来得る限り、万難を排してお助けするのだ。そして美咲様が私たちに与えてくださった仕事は、なによりも急ぎで仕上げよう……! キリ、お前は美咲様の担当として、全力をつくせ」
「はい……!」
オサドさんの言葉は、私の気持ちでもあった。
私だけじゃなく、いっしょにブロッケンシュタイン家に来たオサド商会の人間はみんな、力強い目で、オサドさんの言葉にうなずいた。
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