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Side キリ 4
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カミラさんに言われて、はっとした。
私はふたりがオサドさんの言いつけを破ったことばかり目がいき、頭にきていた。
それが仕事に真摯に向かっていない証拠のような気がしていたからだ。
けれど、真剣に商会のことを考えているから、ふたりは辞退したのかもしれないという可能性に、初めて気づいた。
それに、言われてみれば確かに、職場の人間の前で、想いを告げもせずフラレたなんて、誰でも言いたくない。
それをふたりはみんなの前で打ち明けたのだ。
そもそもクリスもケイトもいい家のお嬢様で、言い寄る男が後を絶たない美人だ。
だからこそ、レイモンド様のことも、自分にもチャンスがあるかもなんて考えたのかも……。
「……クリスとケイトに、後で謝ります。あんなところで問い詰めるなんて、悪かったわ」
「あなたが尋ねなくても、オサドさんが確認しただろうから、そこは反省しなくていいわ。でも、恋は避けようと思っていても、落ちることがあるのよ。だからオサドさんも、あのふたりは責めたりしなかったでしょう?」
確かに、ふたりに対するオサドさんの態度は、意外なほどあたたかかった。
なんの気遣いもできなかった自分は、恋なんて無縁だからと、デリカシーがなさすぎた。
商会員としての能力を磨いていくなら、お客様だけじゃなく、いっしょに仕事をする人のことも考えて動けなければいけないはずなのに。
また顔にでていたのだろう。
へこんでいると、カミラさんが励ますように言ってくれた。
「こんな話をしながら、手は適格に素早く動いている。さすがキリね! この調子で、ばんばんレイモンド様のご婚約者様にドレスを売ってきてちょうだい!」
「はい!全力を尽くします!」
私は、カミラさんに約束した。
なのに、意気揚々と向かったブロッケンシュタイン家で、あんなことが起きるなんて。
私は、クリスとケイトが辞退したことの意味を、改めて思い知らされた。
そう。
私たちと同行した同僚のリジーが、レイモンド様のご婚約者様の部屋で、結界に阻まれるという「事件」が起こってしまったのだ。
思い返してみても、ぞっとする。
私たちオサド商会の者は、ブロッケンシュタイン家に着くとすぐレイモンド様にご挨拶をした。
そして、案内されたのは、ブロッケンシュタイン家のご家族しかいらっしゃらない私室のゾーン。
レイモンド様やダイアモンド様のお部屋がある一角に、ご婚約者様はすでにお部屋をいただいていらっしゃるらしい。
オサドさんにご婚約者様のことをお話されるレイモンド様の態度から、ご婚約者様への愛情が深いことは察していたけど、これには驚いた。
普通なら、ご婚約されたとはいえ、ご結婚前なら、お相手のお部屋は主人一家とは遠い客室をあてるものだ。
オサドさんの情報によると、レイモンド様のご婚約者様がこの領に到着されたのは、昨日のことらしい。
それなのに、すでに身内扱いというわけだ。
これは、レイモンド様のご寵愛は予想以上なのかもしれない。
もしくは、高位の貴族の令嬢か。
そう覚悟して、ご婚約者様のお部屋に入る。
「入っていいか?」
「……いいけど、その方々はどちらさまでしょうか?」
レイモンド様の後に続いて入室する。
すると、黒い髪に黒い目、とろけるバターのような肌をした少女が、私たちに困惑の目を向けた。
私はふたりがオサドさんの言いつけを破ったことばかり目がいき、頭にきていた。
それが仕事に真摯に向かっていない証拠のような気がしていたからだ。
けれど、真剣に商会のことを考えているから、ふたりは辞退したのかもしれないという可能性に、初めて気づいた。
それに、言われてみれば確かに、職場の人間の前で、想いを告げもせずフラレたなんて、誰でも言いたくない。
それをふたりはみんなの前で打ち明けたのだ。
そもそもクリスもケイトもいい家のお嬢様で、言い寄る男が後を絶たない美人だ。
だからこそ、レイモンド様のことも、自分にもチャンスがあるかもなんて考えたのかも……。
「……クリスとケイトに、後で謝ります。あんなところで問い詰めるなんて、悪かったわ」
「あなたが尋ねなくても、オサドさんが確認しただろうから、そこは反省しなくていいわ。でも、恋は避けようと思っていても、落ちることがあるのよ。だからオサドさんも、あのふたりは責めたりしなかったでしょう?」
確かに、ふたりに対するオサドさんの態度は、意外なほどあたたかかった。
なんの気遣いもできなかった自分は、恋なんて無縁だからと、デリカシーがなさすぎた。
商会員としての能力を磨いていくなら、お客様だけじゃなく、いっしょに仕事をする人のことも考えて動けなければいけないはずなのに。
また顔にでていたのだろう。
へこんでいると、カミラさんが励ますように言ってくれた。
「こんな話をしながら、手は適格に素早く動いている。さすがキリね! この調子で、ばんばんレイモンド様のご婚約者様にドレスを売ってきてちょうだい!」
「はい!全力を尽くします!」
私は、カミラさんに約束した。
なのに、意気揚々と向かったブロッケンシュタイン家で、あんなことが起きるなんて。
私は、クリスとケイトが辞退したことの意味を、改めて思い知らされた。
そう。
私たちと同行した同僚のリジーが、レイモンド様のご婚約者様の部屋で、結界に阻まれるという「事件」が起こってしまったのだ。
思い返してみても、ぞっとする。
私たちオサド商会の者は、ブロッケンシュタイン家に着くとすぐレイモンド様にご挨拶をした。
そして、案内されたのは、ブロッケンシュタイン家のご家族しかいらっしゃらない私室のゾーン。
レイモンド様やダイアモンド様のお部屋がある一角に、ご婚約者様はすでにお部屋をいただいていらっしゃるらしい。
オサドさんにご婚約者様のことをお話されるレイモンド様の態度から、ご婚約者様への愛情が深いことは察していたけど、これには驚いた。
普通なら、ご婚約されたとはいえ、ご結婚前なら、お相手のお部屋は主人一家とは遠い客室をあてるものだ。
オサドさんの情報によると、レイモンド様のご婚約者様がこの領に到着されたのは、昨日のことらしい。
それなのに、すでに身内扱いというわけだ。
これは、レイモンド様のご寵愛は予想以上なのかもしれない。
もしくは、高位の貴族の令嬢か。
そう覚悟して、ご婚約者様のお部屋に入る。
「入っていいか?」
「……いいけど、その方々はどちらさまでしょうか?」
レイモンド様の後に続いて入室する。
すると、黒い髪に黒い目、とろけるバターのような肌をした少女が、私たちに困惑の目を向けた。
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