異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

木村 真理

文字の大きさ
上 下
87 / 113

Side キリ (仕立て屋女子) 1

しおりを挟む
 オサド商会の主であるオサドさんから告げられた言葉に、わたしは思わず歓声をあげかけて、飲み込んだ。
かわりに優雅にほほ笑む。

 あっぶない、あぶない。
こんなことで歓声をあげたら、それだけで大きなマイナスになっちゃう。

 わたしといっしょにオサドさんに呼び出された商会員たちも、みんな同じような反応してる。
ここで声をあげちゃうような子は、ここに呼び出されてないってことだ。

 それって、わりとすごいことだと思う。
だって、オサドさんてば、あの!レイモンド・ブロッケンシュタイン様に婚約者ができたようだ、なんて言うんだもの!
 この領の元領主で、イケメンで、聖騎士で、おまけに癒し人。
きさくで、イケメンで、たぶんめっちゃくちゃお金持ちな、あのレイモンド・ブロッケンシュタイン様に、だよ!?
 おまけに、わたしたちが集められたのは、今すぐ領主様のお屋敷に行って、その婚約者様の服を用意するためだ、だなんて!

 はっきり言って、これってこの街では数年は大騒ぎになる大ニュースだ。
よく叫ばなかったよ、わたし。
偉い。
 でもって、この場にいる他の子たちも、みんなえらい!と思う。
さっすが、オサド商会が誇る商会員だよ。

 オサド商会は、規模こそ大きくはないけど、ご領主様一家に御用立ていただいてる一流の商会だ。
扱っている商品は、服飾品全般。
高級なドレスだけとか、帽子だけとか扱うような専門特化の商会よりは軽く見られがちだけど、オサドさんは元領主であるレイモンド・ブロッケンシュタイン様に気に入られている。
なかなかすごいとこなんだよ。

 そんな商会で、わたしキリ・マックナーは働いている。
はっきり言って、これ、めっちゃ自慢。
ここのドレスとか、デザインめちゃくちゃかわいいんだもん。
お客さまであるご令嬢たちにお勧めするのにも、力が入るし、お客様がうちのドレスを着て、目を輝かせるのを見るのが、たまらなく好きだから。

 わたしの実家であるマックナー家は、貴婦人のハンカチや扇子といった小物を扱う小さな商会だ。
母がいいとこのお嬢様だったおかげで、子どものころからマナーとか厳しくしつけられていたのと、オサド商会がかかえるデザイナーさんのファンだったので、ご縁をいただき、ここで働かせてもらってる。
 28歳という年齢から、母にははやく結婚するように催促されるけど、やりがいはあるし、お給料はいいし…。
いい人がいれば結婚してもいいけど、いなければこのまま仕事に生きてもいいかなーと思ってるくらい仕事ラブ。
 それが、わたしです。

 なので、レイモンド様のご婚約者様にドレスをご用意する、その場に自分も参加できると聞いて、もう、たまらなく嬉しかった。
オサドさんから、私とクリス、ケイトの3人で協力するようにと言われた時も、力強く「はい」と返事した。

 でも、そんな返事をしたのは、私だけだった。
クリスも、ケイトも、ふたりとも、オサドさんの言葉にすぐには返事ができなかった。
 そして苦しそうに、「できません」と言った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...