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なにもないところで、女の子が壁にふっとんでいきましたが
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えっ。えええええええええええええ?
いま、何もないところで、きゅうに人が壁にむかってふきとばされた?
それとも、私が見落としただけ?
なにか弾けるような音がしたけど……。
どうなってるの?
唖然としつつ、周囲に目を向ける。
壁にふきとばされた女の子は、さっきから動かない。
なにはともあれ、彼女を助けないと。
「だいじょうぶ?」
と言いながら、女の子のほうへ動こうとした。
けれど、私と女の子の間に、メアリーさんが立ちふさがる。
と同時に、寝室のドアが開き、従僕さんたちが部屋に入ってきたかと思うと、壁にふきとばされた女の子を上から押さえつけた。
って。
は?
なに?
私と、メアリーさん以外の女性陣は、ただただ呆然とする。
「美咲!……無事か?」
棒立ちになっていると、従僕さんたちと一緒に寝室へ駈け込んで来たレイが、私の手をとる。
「う、うん。無事だけど……」
無事か、と聞かれるってことは、危険だったのか。
でも、ほんと何もない。
というか、いまだに何がおこったのかわかってない。
レイの言葉、ものものしい従僕さんたち、取り押さえられた女の子。
それを見て、推測することはあるけど……。
「なにが起こっているの?」
従僕さんたちは、女の子を立たせると、腕を両側からつかんで、寝室から出ていった。
黒い髪で、そばかすのある小柄な女の子だった。
逃げたり暴れたりもせず、ただ従僕さんたちに促されるままに、部屋を出ていった。
その様子が、すごく頼りなげで、あわれを誘った。
「そんな……。リジーがはじかれるなんて……」
お洋服屋さんの女の子のひとりが、口を滑らせた。
その子だけじゃなく、ほとんど全員の目に涙が浮かんでいる。
さっきまでの和やかな雰囲気はなくなり、ただ不安と猜疑がこの場を支配しているかのようだ。
「悪いな。いま、ここの警戒レベルはマックスなんだ。ちょっとした不満を心の中で抱くだけで、はじかれることもある。はじかれた先も、同じ部屋の中だったんだろ? だったら、大事にはならねぇって」
レイは落ち着いた声音で、はっきりと言う。
それでもお洋服屋さんの女の子たちは、呆然としたままだった。
そりゃ同僚がとうとつに貴族に捕らえられたらびっくりするよな。
大事にはならないと言われても、そもそも捕らえられたことが大事だって気もするし。
「レイ様。そうおっしゃっていただけますと、ありがたいです」
暗い沈黙を破ったのは、従僕に案内されて来たオサドさんだった。
オサドさんは、レイの前まで来ると膝をついて、頭を垂れた。
「レイ様。このたびは、我が店の従業員が結界にはじかれるなどという不始末をおこしましたこと、こころよりお詫び申し上げます」
「オサド。背景を確認するまでは、気にするなとは言えねーんだよ。謝罪は受け取るけどよ。……こっちだって、きゅうに呼びつけたんだ。背景になにもない、ただの気持ちの問題なら、できるだけ穏当な処分をくだすさ」
レイが言うと、オサドさんは「ありがとうございます」と言って、しばらく頭をあげなかった。
いま、何もないところで、きゅうに人が壁にむかってふきとばされた?
それとも、私が見落としただけ?
なにか弾けるような音がしたけど……。
どうなってるの?
唖然としつつ、周囲に目を向ける。
壁にふきとばされた女の子は、さっきから動かない。
なにはともあれ、彼女を助けないと。
「だいじょうぶ?」
と言いながら、女の子のほうへ動こうとした。
けれど、私と女の子の間に、メアリーさんが立ちふさがる。
と同時に、寝室のドアが開き、従僕さんたちが部屋に入ってきたかと思うと、壁にふきとばされた女の子を上から押さえつけた。
って。
は?
なに?
私と、メアリーさん以外の女性陣は、ただただ呆然とする。
「美咲!……無事か?」
棒立ちになっていると、従僕さんたちと一緒に寝室へ駈け込んで来たレイが、私の手をとる。
「う、うん。無事だけど……」
無事か、と聞かれるってことは、危険だったのか。
でも、ほんと何もない。
というか、いまだに何がおこったのかわかってない。
レイの言葉、ものものしい従僕さんたち、取り押さえられた女の子。
それを見て、推測することはあるけど……。
「なにが起こっているの?」
従僕さんたちは、女の子を立たせると、腕を両側からつかんで、寝室から出ていった。
黒い髪で、そばかすのある小柄な女の子だった。
逃げたり暴れたりもせず、ただ従僕さんたちに促されるままに、部屋を出ていった。
その様子が、すごく頼りなげで、あわれを誘った。
「そんな……。リジーがはじかれるなんて……」
お洋服屋さんの女の子のひとりが、口を滑らせた。
その子だけじゃなく、ほとんど全員の目に涙が浮かんでいる。
さっきまでの和やかな雰囲気はなくなり、ただ不安と猜疑がこの場を支配しているかのようだ。
「悪いな。いま、ここの警戒レベルはマックスなんだ。ちょっとした不満を心の中で抱くだけで、はじかれることもある。はじかれた先も、同じ部屋の中だったんだろ? だったら、大事にはならねぇって」
レイは落ち着いた声音で、はっきりと言う。
それでもお洋服屋さんの女の子たちは、呆然としたままだった。
そりゃ同僚がとうとつに貴族に捕らえられたらびっくりするよな。
大事にはならないと言われても、そもそも捕らえられたことが大事だって気もするし。
「レイ様。そうおっしゃっていただけますと、ありがたいです」
暗い沈黙を破ったのは、従僕に案内されて来たオサドさんだった。
オサドさんは、レイの前まで来ると膝をついて、頭を垂れた。
「レイ様。このたびは、我が店の従業員が結界にはじかれるなどという不始末をおこしましたこと、こころよりお詫び申し上げます」
「オサド。背景を確認するまでは、気にするなとは言えねーんだよ。謝罪は受け取るけどよ。……こっちだって、きゅうに呼びつけたんだ。背景になにもない、ただの気持ちの問題なら、できるだけ穏当な処分をくだすさ」
レイが言うと、オサドさんは「ありがとうございます」と言って、しばらく頭をあげなかった。
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