異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

木村 真理

文字の大きさ
上 下
72 / 113

部屋中ドレスだらけですが

しおりを挟む
 部屋のいたるところに、簡易なトルソーのようなものが置かれ、そこにはいろんなワンピースが着せられていた。
寝室への扉も開け放たれ、あちらも同様にたくさんの服があるのが見えた。

 手前の化粧室に置かれているワンピースのほうがドレスのような凝ったものが多くて、寝室のものは軽やかなワンピースが多いみたい。
 どちらも色ごとにまとめられていて、例えば化粧室の窓のあたりにはブルー系のドレスが、マントルピースのあたりにはピンク系のドレスが置かれている。
その合間合間に綺麗な布張りの箱が置かれていて、その上に大きなつばのある帽子なんかが飾られている。

 う。
なんというか、ドレスのジャングルにいるみたいだ。

 部屋も広いし、メアリーさんとお店の人が上手に配置してくださったおかげで、ドレスがたくさんある割に、狭苦しいということはない。
でも圧倒的な物量に、目がくらくらする。

 思わずまたひるみそうになるけど、ぐっとこらえる。
そして、感嘆したかのように声をあげた。

「わぁ……、素敵!」

「確かに、すげぇな。これだけの量を、よく持ち運べたな」

 ドレスの数に、レイも驚いたみたい。
ぐるりと部屋を見回し、目を丸くした。

「オサド。急なことだったのに、ここまでしてくれるとは。本当に、ありがとうな」

「レイ様が大切な方のためにご用意される贈り物に、まっさきにわたくしどもの店にお声をかけてくださったのです。全力でご用意させていただきました」

 お洋服屋さんの偉い人は、オサドさんという紳士みたい。
ほがらかな笑顔でレイが俺を言うと、オサドさんは茶目っ気のある笑顔を浮かべて応えた。

 ……レイ様が大切な方のためにご用意される贈り物、かぁ。
オサドさんがそんなふうに言うのは、レイが私のことを、そう伝えてくれたからだろう。

 もちろんバドーさんたちにも話している表向きの設定が、私ってばレイの「ひとめぼれして片時も離れたくないと思った相手」なのだから、その一環で同じ話をしたのかもしれない。
 でも昨日、レイは私のこと、好きだって、そばにいてほしいと思っているって言ってくれた。
それって、表向きの設定と、ほとんど変わらないわけで。

 だから、……うん。
くすぐったくて、恥ずかしくて、誇らしいようなこの気持ちも、素直に味わっていいのかも。

 そう思うと、たくさんのドレス圧倒されていた気持ちがすぅっと消えて、改まった気持ちで部屋を見回す。

 あ、あのドレスかわいい。
あっちのドレスは、お腹とか二の腕とかのお肉がバレにくいゆとりがあるような気がする……、

 落ち着いたら、気になるドレスも、いくつも目についた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。【ざまぁ追加】

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

処理中です...